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第百八十二話 ツァイス家の私兵

 










「うわっ!? 何かたくさん知らない奴が出てきた!!」


 驚いたように声を上げるデボラ。

 私も驚いていますが。


 転移魔法陣でしょうか? 存在は知っていましたが、できる人を見るのは初めてですね。

 ユリウスさんの力なのか、それとも魔道具を使っているのかはわかりませんが……。


 鎧を身に着け、剣を持っている多くの兵士たち。

 彼らを見て、エレオノーラさんは正体を呟きます。


「あれは……ツァイス家の紋章ですね。貴族の私兵たちです」

「へー」


 初めて知ったと感心するように声を上げるデボラ。

 いや、あなたは知っておきましょうよ。王女なんですから。


 しかし、そんな貴族の私兵たちが、いったいどうして……と思っていたら、あちらが大きな声を上げて目的を教えてくれました。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! ヴィレムセの王族を捕らえろぉぉぉぉぉぉっ!!」

「ふぁっ!? 僕狙い!?」


 ぎょっとしているデボラ。

 王族なのですから、狙われるような重要な立場の人物なのですが、最近はそういう暗殺未遂みたいなことはなくなっていたようですから、驚いたのでしょう。


 狙うにしても、彼女の上には王位を継ぐであろうオラース王子もいますし、何よりもトップはレイ王ですしね。


「あー、グレーギルドも混じっているんじゃない?」

「そやつらはともかく、貴族が癇癪姫を狙う理由はなんじゃ? 明らかな反逆罪じゃろうに……」


 ガブリエルさんとアンヘリタさんが言います。

 確かに……レイ王なんて超がつくほどの親馬鹿なので、デボラに傷をつけることができなくとも、暗殺未遂をしたというだけでとんでもない罰が与えられるでしょう。


 とにかく、敵のようですし、戦うしかありませんね。

 私を爆発してくださる大切なデボラを失うわけにはいきません。


「デボラが狙いのようですので、今回は後ろで下がっていてください。ミリヤム、クロとデボラをよろしくお願いしますね」

「えー……まあ、仕方ないかー」

「分かった! エリクも気を付けて……!」


 私はミリヤムに引っ付いていたクロを預け、後ろに下がるようお願いをします。

 デボラは渋々といった様子で、ミリヤムは私を心配しながら下がってくれますが……。


 あー……それは、大丈夫だと思いますよ?


「王族を狙った反逆者……悪ですね」

「うーん……あんまり楽しくなさそうだけど、戦わないよりはマシかな?」

「人間ごときが白狐の儂に剣を向けるとはの。肝はいらん、死んで悔いろ」


 棘付きの巨大な手甲を取り出してガキン! とぶつけ合わせるエレオノーラさん。

 巨大な戟をブンブンと振り回しながら、あまりやる気を見せないガブリエルさん。


 ゆらゆらと背後の白い尾を揺らめかせるアンヘリタさん。

 ……皆さん、私よりも全然強いんですもの。


 あの……私を痛めつけてくれる相手は残しておいてくださいませんか?


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ひ、人を殴り殺すとか、騎士の戦い方じゃねえよ!!」

「断罪騎士の戦い方です」


 その巨大な手甲で次々に殴り殺される私兵やグレーギルドのメンバーたち。

 たとえ、鎧や盾を持っていたところで、エレオノーラさんには関係ありません。


 その上から殴りつけ、そして簡単に粉砕しています。

 あぁ……。


「あー、よいしょ。はい。どぞ。……はぁ、つまんな」

「ぎっ!?」

「あぎゃぁっ!?」

「う、腕がぁぁぁっ!?」


 全然やる気のないガブリエルさんですが、振り回される戟であっけなく命は摘み取られていきます。

 首を刎ねられ、心臓を貫かれ、腕を斬り飛ばされます。


 あぁぁ……。


「ひっ!? か、身体を貫かれて……!」

「あ、あいつ、人間じゃねえ! 魔族だ!!」

「うごっ!?」

「……肝はやはりまずそうじゃ。いらんな」


 次々に人の身体を鎧の上から尾で貫き、臓物を抉りだすアンヘリタさん。

 赤々とした肝を見ると、無残に握りつぶしてしまいます。


 あぁぁぁぁぁ……これ、本当に私何もする暇もなく全滅しそうなのですが……。

 ……あれ? これ、襲撃者と戦うよりも、三人と敵対した方が愉しめるのではありませんか?


「ちっ、役立たず共が」


 私がそんな風に錯乱していると、何とも雄々しい声が聞こえてくるではありませんか!

 ズシズシと重厚な鎧を鳴らしながらこちらに近づいてくる益荒男がいました。


 彼は、ニヤリと歯を見せて笑います。


「初めましてだな、利他慈善の勇者。俺の名前はペーテル! ツァイス様に使える私兵団団長だ」

「あ、どうも」


 自己紹介をされたので、私も頭を下げてしまいます。

 なるほど、ペーテルさん……。まだ、あの御三方の猛威に触れていない貴重な無傷な人です。


 ふっ……私を痛めつけてくださる方が、まだ残っていましたか。

 私は意気揚々と剣を抜きます。


「さっさと道を開けて王女様を差し出しな。……俺は、あんな奴らとは一味違うぜ?」

「はぁ……」


 ニヤリと自信満々に言うペーテルさん。

 いえ、それはいいのです。私も期待で胸をドキドキとさせることができますし。


 しかし、のんきにしていたら、あちらを片付けた三人がこちらにやってきてしまい、ペーテルさんを殺してしまうかもしれないのです。

 余裕を持って話している時間はありませんよ!?


 しかし、それでもペーテルさんはペラペラと自慢話を話し続けます。

 ペーテルさん!! 時間がないと言っているでしょう!!


 未だに話し続ける彼を見ていましたが、ハッとあることに気づきました。

 そうです。私が切りかかれば、嫌でも話を止めざるをえません。


 そして、話の邪魔をされたとお怒りになられたら、私はさらに苛烈な反撃を受けることができるでしょう。

 そう、これです!


 私は剣を構え、脚に力を入れて……。


「俺は、あのオークを一人で倒したこともある力を持っている。この力で、俺たちはこの国を――――――!!」

「よいしょ」


 そうして、私は足に溜めていた力を一気に解放。

 ペーテルさんの元へと一息に飛び、すれ違いざまに彼の首を斬りおとしたのでした。


「ふぅ……」


 や、やってしまいました……。

 まさか、私が敵を一撃で倒してしまうとは……そんなこと、起こっていいはずがありません……。


 どうして……ペーテルさんが弱かったからですか?

 いえ、確かにそれもあるのでしょうが……私も実力を上げてしまっているというのが一番の欠点でしょう。


 私は、普段からエレオノーラさんの加虐性を受け止め、ガブリエルさんの戦闘欲を満たし、アンヘリタさんに肝を引き抜かれています。

 その副作用で、私も強者との戦闘経験を積んでしまっているため、大分能力が上がってしまっているようなのです。嫌です……。


 デボラの爆発やミリヤムの激痛回復魔法も受けていますので、痛みに対する耐性は言うまでもありません。


「まあ、戦闘中にあんな油断しまくっていたらダメだよね。ナイス、エリクくん」


 ガブリエルさんはそう言って親指を立ててくれますが……嬉しくありません……。

 すでに、彼女たち三人によって、ツァイス家の私兵たちは壊滅状態です。


 あぁ……私の悦びが……。


「え、エリク! クロが……!!」

「おぉ……」


 そんな時、ミリヤムに声がかけられます。

 振り返れば、あのユリウスさんの言葉を話していた鳥が、小さなクロを両脚で掴んで飛び去ろうとしているではありませんか。


 あまり大きくないのに、子供を運ぶだけの力があるとは、流石使い魔というところでしょうか?

 しかし……ふっ、まだ私が身を張る時がありましたね!


「デボラ、いけますか」

「努力します」


 デボラに聞けば、そんな返事が。

 い、いつも誰に対してもタメ口なのに、何故この時に限って敬語なのですが……。


 不安です……。


「まあ、ミリヤムもいるし、多少怪我したところで大丈夫でしょ。というわけで……」


 デボラはそう言って魔力を収束させ始めます。

 出会った当初は、感情のままに爆発が起きたり起きなかったりしていましたが、大体のコントロールはできるようになっているみたいです。


 これは、成長と言えるでしょうね。

 そんなことを考えながらも、私は走り出しました。


『戦い終わるの早っ!? あ、あいつら、役に立たなさすぎ――――――!』


 ユリウスさんの驚愕の声は、デボラの爆発によってかき消されました。

 というより、使い魔の鳥が焼き鳥になってしまいました。


 当然、クロは地面に叩き付けられようとしますが……その間に、私がスライディング!


「ぐへっ!?」


 みぞおちに、クロの身体が直撃! 私は苦痛に悶絶しつつ快感を得ます。

 良かった……私兵の皆さんに痛めつけられることは叶いませんでしたが、苦痛を得ることができて……。


「ありがとう、助かったわ」


 クロは連れ攫われかけていたというのに、案外余裕の態度です。

 怪我もしていないようですし、何よりです。


「別に、お主が身体を張らなくても、儂の尾で捕まえてやればよかったのではないかの?」


 アンヘリタさんは地面に倒れる私を見下ろしながら言ってくれますが……それでは、ドM的にダメなんです。


「しかし、どうして貴族のツァイス家の私兵が、殿下を狙って……」


 エレオノーラさんは顔に付いた返り血を拭いながら、そう呟きます。

 ……普通のように思ってしまいますが、返り血を拭う女騎士って何だか凄いです。


 ですが、確かに彼女の言うことにも興味があります。

 どうして、貴族が王女を狙ったのか……まあ、かつてあったビリエルの反乱のように、王権を狙ったものなのかもしれませんが……。


 ユリウスさんはその隙にクロを狙っていたようですが、彼が関わっていることで何かおかしなことが起きているのかもしれません。


「とにかく、王都に戻ってみましょうか。そこで、何か分かるかもしれません」


 私たちは、状況が把握しやすいであろう王都を目指すのでした。




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