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第十八話 爆発の結果

 










 凄まじい爆発により、地面が砕けて壁が落ちる。

 だが、それでも天井が落ちるようなことはなく、また部屋が潰れてしまうといったことはなかった。


 デボラの放った爆発はかなりの威力であり、本来であればこんな小さな部屋なんて簡単に潰せてしまえるだろう。

 だが、ここは様々な常識を覆す『ビギナー殺しの小部屋』である。


 ダンジョンに神出鬼没するこの部屋は、デボラの爆発をもってしても潰すことはかなわなかった。

 かつて、この初心者を飲み込んでしまう悪質な部屋を消してしまおうとギルドや国が手を出したこともあったのだが……デボラの爆発で壊れないのと同じ結果に終わってしまったのであった。


「けほっ、けほっ!……どうだ!僕の悪口を言ったら、こうなるんだぞ!」


 壊れない代わりに凄い砂煙に軽く涙を浮かべながら、デボラは咳をする。

 彼女は自慢げに笑っていた。


 どうだとばかりにミリヤムを見るが……。


「エリク!」


 彼女はデボラにまったく興味がなく、見向きもしなかった。

 爆発の中心地ということで、未だに濃厚な土煙が立ち込めている場所……そして、まだオーガが死んだという確証もない危険な場所に、彼女は何の躊躇もなく突っ込んで行った。


 爆心地は大きなクレーターができていた。

 おそらく、ここが『ビギナー殺しの小部屋』でなければ、さらに巨大なものになっていただろう。


 その中に、オーガの死体があった。

 しかし、五体満足のものではなく、頭部すらなかった。


 残っていたのは、右腕だけだ。

 ミリヤムやエリクを徹底的に追い詰めた力強い右腕も、それだけしか残っていなければ悲壮感しか与えない。


「エリク……っ!!」


 それを見て、ミリヤムは喉を引きつらせる。

 あの強靭な防御力を誇るオーガでも、右腕だけしか残らないのだ。


 それを、普通の人間と何ら変わらないエリクが受けて、無事で済むはずがない。

 彼には、不死のスキルがある。


 だが、それもどこまで信用できるものなのかわからない。

 エリクは、どこまで不死なのか?


 今まで、彼は出血多量や四肢の損壊程度なら、ミリヤムの回復魔法があることが前提だが死ぬことはなかった。

 だが、オーガのように、腕以外全て吹き飛ばされていたらどうだろうか?


 エリクは、そのまま死んでしまうのではないか?

 悪いことばかり頭の中に浮かび、ミリヤムは目から涙がこぼれそうになる。


「もし、そうだったら私は……!」


 ミリヤムが悲痛な声を漏らしたとき……。


「――――――ぁ……」

「エリク!?」


 本当に小さな声が聞こえてきたのを、ミリヤムの耳は聞き逃さなかった。

 まるで、蚊が飛んでいるかのようなか細い音。


 しかし、エリクの声音だと一瞬で判断したミリヤムは、声がした方に猛然と近寄って行った。


「エリク!!」


 はたして、そこにはエリクが倒れていた。

 その姿は、まさに満身創痍。


 火傷を負っている部位はあるし、全身は血まみれだ。

 身体中にあざがあるし、片腕は千切れかかっている。


 しかし、それでもエリクは生きて、ミリヤムにうっすらと笑みを浮かべてみせた。


「ごめんね、エリク。でも、我慢してね……!」

「ぅ……ぁぁ……っ!!」


 苦痛を伴う回復魔法を、ミリヤムは泣きながら彼にかける。

 しかし、その代償の分、治癒の速度と効果は目覚ましく、どんどんとエリクの身体が戻って行った。


 その結果、エリクは体力的な面では万全とは到底言い難いが、少なくとも見た目は健常者とあまり変わらないまでに回復したのであった。


「エリク、大丈夫?痛いところはない?」

「ええ、大丈夫ですとも。流石はミリヤムです。回復(とその苦痛)を、ありがとうございます」


 心配そうにエリクの全身をペタペタと触るミリヤム。

 そんな彼女に、彼は優しく微笑んだ。


「え、エリク……っ!!」


 ミリヤムはついに感極まってエリクの身体に抱き着く。

 つい先ほどまで瀕死の状態であり、体力の消耗が激しいエリクは起き上がることができなかったが、優しく彼女を受け止めるのであった。











 ◆



「あ、生きていたんだ。上手くいってよかった、よかった」


 ミリヤムから少し遅れて、小さな身体をひょこひょこと動かしながらデボラ王女がやってきました。

 今すぐ姿勢を正して跪きたいのですが、思っていた以上に体力の消耗が激しいことと、ミリヤムが縋り付いてくることで寝転んだままです。


「申し訳ありません、デボラ王女。このような……」

「うん、まあ普段なら死刑をパパにお願いしてもいいんだけど、僕がオーガを倒すという偉業の手助けをしてくれたことから見逃してあげるよ」

「ありがとうございます」


 死刑……なんと魅力的な……。

 しかし、まだ死ぬわけにはいきません。


 もっと……もっと苦痛を味わわねば……!

 私が決意を新たにしていると、ミリヤムが顔を上げました。


 その目は赤くはれており、痛々しいです。


「そう、どうしてエリクは無事だったの?あのオーガでも、死体すら残っていなかったのに……」


 そ、そんなに凄まじい爆発だったのですか……。

 なんと私は幸福なのでしょうか……。


 おっと、不思議そうにしているミリヤムに、教えてあげなければなりませんね。


「それは、デボラ王女のおかげですよ」

「…………は?」

「えっへん」


 ない胸を張るデボラ王女を、ミリヤムは胡散臭そうに見る。

 まったく信用できないが、私が言っているから悩んでいるというところでしょうか。


 しかし、今回の件に関しては、私がデボラ王女のことを褒め称えているというわけではなく、本当に彼女に助けられたのです。


「あの爆発の直前に、私の近くにだけ小規模の爆発が起きて、オーガから引き離されたのです。そのため、私はあの巨大な爆発に飲み込まれることはなかったのです」


 まあ、小規模の爆発とはいえ、私を吹き飛ばすだけの威力はあったし、瀕死の私が三途の川に脚を踏み入れそうになったくらいにはダメージがありました。ありがとうございます。

 また、無理やりオーガから引き離されたため、剣でオーガの足と縫い付けてあった手も引き裂かれてしまいましたがね。ありがとうございます。


 ……しかし、いつかはあのような巨大な爆発に飲み込まれてみたいものですねぇ……。


「あの時の勇者は動ける様子じゃなかったからね。僕の素晴らしい技術で、被害を最小限に抑えてあげたんだよ。褒めてくれていいよ?」

「……ちっ。ありがとうございます」

「ふふん。……お礼の前に舌打ちしなかった?」


 露骨に嫌そうにするミリヤム。

 もはや、デボラ王女の言うこと為すことが憎たらしいようですねぇ……。


「それに、オーガの身体が盾になったことも、私が無事であった理由の一つでしょうね」

「無事とは言えないと思うけど……」


 オーガに殴られたり、踏みつけられたり、デボラ王女の爆発で吹き飛ばされたり……。

 今回の冒険は、まれに見るほど素晴らしいものでした。


 このようなことが続けられるのであれば、レイ王に服従しておいてよかったと心から思えますね。


「あ、あれ……?」


 ミリヤムがコクリと頭を下げます。

 目をしぱしぱと瞬かせて、とても眠たそうですね。


 まあ、彼女はもともと戦闘をバリバリにこなせる軍人でもありません。

 それなのに、オーガとの接敵など、精神的にも疲れるようなことが続けば、眠たくなるのも仕方ないでしょう。


 私のこともとても心配してくれていたようですしね。


「少し、休憩していきましょうか。この部屋の主はすでに倒しましたし、小部屋が移動するまでに時間もあるでしょう」

「で、でも、エリクはちゃんと治療を受けなきゃ……」

「なに、ミリヤムに治してもらったから大丈夫ですよ」


 ミリヤムの回復魔法は、激痛を与えるということを除けば非常に素晴らしいものです。

 治癒速度も効果も、他の回復魔法使いとは比べ物になりません。


 ただ、激痛が本当に凄まじいので、私以外には使えないのが難点です。


「ん……ごめんね、エリク」


 ミリヤムはそう言うと、私の太ももを枕にしてすーっと眠りに落ちてしまいました。

『ビギナー殺しの小部屋』……なかなか良いものでした。


 また、ここに来たいですねぇ。



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