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第百七十二話 正しきドMセンサー

 










 ジルケの要求に、皆目を丸くして口を開けてしまいます。

 とくに、国家運営をしている宰相などは、本当に顎が外れてしまうのではないかと思ってしまうほどです。


 ミリヤムの引き渡しは……まあ、簡単に予想できていました。

 彼女を半魔として殺すことに執着していることは明らかでしたから。


 しかし……国教化まで求めるとは……ついでにそこまで要求しちゃえ、とでも思ったのでしょうか?

 さて、ミリヤムの引き渡しはもちろん拒否するのですが、国教化に関しては私がどうこう言うことではありません。


 ここには、この国のトップであるレイ王がいるのですから。

 彼は、冷たい目でジルケを見下ろして……。


「馬鹿か、貴様」


 罵倒しました。


「まあ、ぶっちゃけそいつはどうなっても知ったことではないが……」

「ちっ……」


 レイ王はチラリとミリヤムを見て言います。

 本当にぶっちゃけていますねぇ……。というか、私からミリヤムをとったら大したことはできませんよ?


 ミリヤムもミリヤムで、レイ王のことが大嫌いですから、とくにショックを受けたなどという様子はなく、忌々しそうに舌打ちしていました。

 そんな彼女を咎める様子もなく、王は私もチラリと見ました。


「だが、まあ勇者がそれを許すとは思えんしな。ワシから命令することはないから、そいつをどうにかしたいんだったら自分の力でやってみせろ」

「…………」


 おぉ……強権で取り上げるとかはしませんでしたか。

 そうなってしまうと、いくら理不尽による快楽を与えてくださるレイ王といえども、私は敵対せざるを得なくなってしまいますから。


 私自身の実力は大したことありませんが、騎士としての制約などもありませんから、使い勝手がいいのは事実です。

 その駒を失うわけにはいかないと考えてくださったのでしょうか?


「それと、天使教を国教にすることだったか?」

「…………」


 先ほどから、ジルケは反応を見せません。

 しかし、天使教の名を出されるとピクリと身体を反応させていました。


 本当に大好きで大切なんでしょうねぇ……。

 そんな天使教を……。


「するわけないだろう、馬鹿め」


 レイ王はこき下ろします。


「貴様らのカルトさで、よくもまあ国教にできるとうぬぼれられるものだ。ヴィレムセ王国だけでなく、他の国でも国教としている場所があるのか? そのことから察しろ、愚か者」

「…………」


 ……ま、まあ、確かにカルトを国教にするというのはなかなか難しいでしょうね。

 しかし、遥か遠くの国では国教にしている国もあると聞きますので……。


 とはいえ、独裁的な支配を行っているこの国では、強力な影響力のある宗教はやはり好まれないでしょうね。

 王族にとって、認めるメリットがありませんから。


「ちっ。面白いかと思って来てみたが、まったくそんなことはなかったな。ワシはもう戻るぞ」


 不快気な表情を見せて、レイ王はさっさとバルコニーから去ろうとします。

 それに、宰相も続こうとして……。


 あ、デボラは残るみたいですね。楽しそうに笑っています。


「…………ふっ、ふふっ」


 しかし、レイ王の足を止めさせたのは、ジルケが笑い出したからです。


「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


 ……怖いです。

 ミリヤムはともかく、あの好奇心が旺盛で無謀ともいえるデボラも顔を引きつらせているのだから、かなりのものです。


 同じような言葉で笑うというものが、これほど恐ろしいとは思いませんでした。

 明らかに怒っていますよね。その怒り、全身で受け止めたい……。


「所詮、魔をかくまう異教徒の王。言っても分からない愚か者でしたか。やはり、半魔だけでなく、この国の王族も皆殺しにするべきというのは間違いではありませんね」


 クスクスと笑っていたジルケは……。


「異教徒が!! 楽に死なせてもらえると思うなよ!!」


 唐突の怒声。その顔も鬼のように歪んで、清楚で物静かという印象は微塵も残っていませんでした。

 穏やかなシスターの豹変に、思わず顔を引きつらせる宰相。


 そんなジルケの前に、私は剣を抜いて降り立ったのでした。


「ふっ……」


 今のジルケと戦えば、何だか酷い目に合えそうなので本望です。

 私は悦びのあまり、思わず不敵な笑みを浮かべてしまいました。


 それを見て、ジルケはギョロリと怒りの目を向けてきます。


「半魔だけじゃなく、王族を殺すことにも邪魔をするか、勇者!!」

「レイ王はともかく、私はデボラの忠節の騎士ですから。守らないはずがありませんね」


 あんなに私を理不尽に扱ってくれるお二人を殺される瞬間を、ただ見ているというわけにはいきませんねぇ……。

 私に優しいオラース王子ならば、ジルケが素晴らしい女王様であれば受け入れたかもしれませんが……彼は彼でこの国に必要な人なので、それも妨害していたでしょう。


 ドMに一般人を巻き込むわけにはいきませんからね。


「申し訳ありませんが、あなたでは私に勝てないのでは? 大人しく捕まっていただけるのであれば、手荒なことはしないで済むのですが……」


 司教というのは、天使教の布教を前提としているもののはずです。

 そんな彼女では、さまざまな理不尽を体験してきた私には勝てないでしょう。


 無論、こういう言い方をすれば、ほぼ間違いなく戦ってくれるから言っただけなのですが。

 本当に降参されたら困ります。


「ふっ、確かに普段の私では、口惜しいがお前を殺すことはできないだろうな。だが、私には天使様がついている」


 私が剣を向けながら言うと、ジルケは不敵に笑いながら何かを懐から取り出しました。

 それは、ペンのように見える小さな棒状のものでした。


「天使様のお力……聖具の力を思い知れ!!」


 しかし、ジルケが誇らしげにそれを掲げて宣言すれば、カッと強い光を発してその形状を変えていくのでした。

 ふっ……やはり、私のドMセンサーは正しかった。




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