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第百五十話 望むところです

 










「か、彼らは精鋭だったはずだぞ!? それなのに……どうしてここまであっさりと……!」

「いやぁ……確かに強いんだとは思うよ? でも、なんていうか……しつこくないよね。エリクくんは、それはもう鬱陶しいくらいにしつこかったよ」


 脂汗を大量に流しながら聞くヴィルフリートに、ガブリエルは串刺しにした異端審問官から戟を抜き取りながら答える。

 そんな彼女を見て、ミリヤムは感嘆していた。


 自分というお荷物がいたからこそエリクはここまで追い詰められていたのだが、それでも苦戦していた相手を一瞬で皆殺しにしてみせたからである。


「お、お前はいったい何者だ!?」

「うーん……あれ? なんだろう……本当に今のあたしって分からないかも……。エリクくんに引っ付いてきただけだしなぁ……。あ、でも、前はアマゾネスの女王をしていたよ」

「あ、アマゾネスの女王、だと……!? ど、どうしてそんな奴がこんな所に……!!」


 ガタガタと身体を震わせるヴィルフリート。

 戦闘種族であり、嬉々として強い男との戦いを求めるアマゾネス。しかも、その女王である。


 これだけの人数では、勝てるはずもなかった。


「さっ、後は君だけだよ。あたしも殺されそうになったし、君も殺していいよね? というか、さっさと終わらせてエリクくんをちゃんとした場所に寝かせてあげたいんだよね」


 アマゾネスはヴィルフリートに歩み寄って行きながら、チラリとエリクの方を見る。

 彼は、まだ立ち続けていた。


 そのそばでミリヤムが回復魔法による治療を行っており、激痛が彼の身体を襲っているのか、身体をビクンビクンさせていた。

 外傷だけならまだしも、今のエリクは毒にも身体を侵されている。


 その治療には、流石のミリヤムといえども時間がかかりそうだった。

 とくに、外傷と違って初めての解毒になるので、なおさらである。


 出血量もかなりのものだったため、いくら不死とはいえども安静にしておく必要性があった。

 ……ということは、今の状況をエリクは大いに愉しんでいることになる。


「わ、私を殺して、本当に良いのか!?」

「……え? まさか、命乞いじゃないよね……?」


 ヴィルフリートもエリクに刺されたため、背を向けて逃げ出すことはできない。

 そんな彼は、汗を大量に流しながら、にじり寄ってくるガブリエルにそう声をかけた。


 容姿がよく、またスタイルも抜群に良いのだが、今の彼女は死神にしか見えない。

 そんな声をかけられたガブリエルは、大きく落胆したような様子を見せていた。


 彼女からすれば、どんな苦境に立たされて死の直前……いや、死ぬことになったとしても戦う意思を見せる男こそが魅力的なのである。

 そんな価値観を持つガブリエルは、命乞いというものは心の底から忌避するべきものであった。


 もはや、ヴィルフリートを殺すことに、何のためらいもない。元からなかったが。


「い、良いだろう。私だって天使様にお仕えする身として、異教徒に情けをかけられるなんてこっちから願い下げだ。だ、だが、私たちを殺すことによって、お前たちはこれからずっと苦労することになるぞ」


 少し興味が出たのだろう。ガブリエルも攻撃をすることはなかった。

 これ幸いと、ヴィルフリートは言葉を続ける。


「いいか? 私たちを殺すことによって、お前たちは本格的に天使教から敵視されることになる。そうなれば、今回のように少数での暗殺なんて些細な方法ではなくなる。さまざまな方法で、お前たちを死まで追い詰める。その半魔を庇ったことによってな!」

「…………!」


 ヴィルフリートの指をさされ、エリクの身体を回復させていたミリヤムがビクッと身体を震わせる。

 彼はニヤリと笑うと、声を優しげなものに変える。


「私たちは、何もお前たちを殺したいというわけじゃない。魔をこの世から滅したいだけだ。もともと、勇者は異教徒として排撃するつもりはなかったからな。つまり、事を収めたいのであれば、簡単なことをすればいい」


 そう言って、ヴィルフリートは手を差し出す。


「その半魔をこちらに渡せ。そうすれば、お前たちの異教徒認定を解除してもらえるように、私が上に掛け合ってやろう」


 それを聞いて心が動いたのは、エリクでもガブリエルでもなくミリヤムであった。

 自分が……自分があちらに行って殺されれば、穏便に済むのではないか?


 大切なパートナーであるエリクが目の前でボロボロになっている姿を見たら、どうしてもそう考えてしまう。

 だが、これが最善手でないことくらい、ミリヤムにも分かっている。


 仮に、今更自分が投降したところで、本当にエリクのことを見逃すのだろうか?

 ヴィルフリートを傷つけ、異端審問官を何人も殺害しておいて、お咎めなしで済ませるだろうか?


 それに、自分が彼らの元に行ってしまって、エリクが何もしないなんて想像できない。

 彼は、赤の他人もその身を挺して助けてしまうほど優しい男だ。


 そんなエリクが、パートナーである自分を助ける行動に出ないと本当に思えるだろうか?

 ミリヤムの中では、二つの相反する気持ちがせめぎ合っていた。


 投降して殺されるべきか、そうするべきでないか。

 悩んで、悩んで、悩んで……そんな彼女の思考を打ち切ったのは、エリクであった。


「愚問、ですね」


 エリクはふっと不敵に笑っていた。


「私がミリヤムをあなた方に差し出すことなんて、ありえません。それであなた方が何かをしてくるのであれば、私はそれを悦んで受け止めるでしょう」

「ば、馬鹿なのか!? 私の言葉をちゃんと理解したうえで答えているのだろうな!? お前たちは、天使教全体を敵に回すということだぞ!?」

「望むところです」


 即答するエリクに、大きく口をパクパクと開閉させるヴィルフリート。

(痛めつけられることは)望むところです。


 しかし、傍から聞けば、これほど覚悟が完了していて威勢がいい答えは勇ましい以外のなにものでもない。

 そのため、ミリヤムは頬を赤らめてエリクの顔を見上げているし、ガブリエルは自分のことのように嬉しそうに笑うのだ。


「うんうん、これが男だよ。君たちも見習って、来世では格好いい男になるんだよ」


 ガブリエルはそう言って、戟を振り上げた。

 ヴィルフリートは慌てて手を前に出す。


「ま、待て! まだ話は終わって――――――!!」

「ううん、終わったよ。エリクくんは……あたしたちは、君たちと殺しあうって啖呵を切ったんだ。君は、その最初の獲物だよ。それじゃあね」


 ガブリエルは心底楽しそうに、大きく口を歪めて笑い、ヴィルフリートの頭部に思い切り戟を叩き付けた。

 そうすることによって、彼の身体はちょうど真ん中から綺麗に両断されてしまったのであった。


 ミリヤムを狙った天使教の異端審問官たちの襲撃は、エリクの抵抗とガブリエルの獅子奮迅の活躍によって、終わりを迎えたのであった。




今年もありがとうございました!

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