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第百四十六話 届け物

 










 夜になりました。

 普段であれば、デボラの厚意で王城での滞在を許可されているのですが、今回も彼女を置いて行ったことが不快だったのか、本日は王都の宿屋に泊っていました。


 爆発はしてもらえませんでしたが、ぶすっとした表情で何発かのパンチをいただきました。ありがとうございます。

 レイ王も憎々しげに私の命令完遂の報告を受け取っていました。


 生きて戻ってきたことと、おそらくまたデボラに嫌われたんでしょうね。

 ……あの人が彼女に内緒にしていたから怒られたんでしょうに……こういう理不尽も大好物ですが。


 しかし……何もありませんでしたね。

 てっきり私はカルトだから王城にも天使教が乗り込んでくるのではないかとワクワクしていたのですが、結局ジルケさんたちが来ることはありませんでした。


 この私の期待はいったいどうしてくれるのでしょうか……。

 そんな風に悶々としていれば、扉がノックされました。


「エリク、起きてる?」


 声音はミリヤムのものでした。


「ええ、起きていますよ。どうぞ、入ってください」


 そう返せば、ミリヤムはおずおずと顔を見せて入室してきました。

 ……なんだかいつもよりおどおどしているような感じがしますねぇ。


 まあ、それも仕方ないことでしょう。あんな大勢の人がいる前で半魔であることがばらされ、好奇心や不信感からくる目を向けられれば、誰だって参ってしまうでしょう。

 私は悦べそうですが。そういう秘密、私にもないですかね?


「どうかしましたか?」


 入室したのはいいものの、もじもじと何か言いたげにしながらも切りだせないミリヤムのために、私から尋ねてみます。

 すると、どこか恐れを抱いた様子で口を開きました。


「その……私が隠し事をしていたこと、怒った?」


 隠し事……つまり、半魔であったということでしょうか?


「いえ、まったく」


 私はすぐさま首を横に振りました。

 怒る要素が微塵もありません。人にはどんなに親しい相手でも……いえ、親しいからこそ話したくないことだってあるはずなのです。


 仲が良いんだから何でもかんでも全て話せ、というのは少し違う気がします。


「それに、ほら……私たちは同じ寒村で迫害を受けていたでしょう? ですから、何かあるのかとは思っていましたよ」

「あっ……」


 ハッと思い当たるような仕草を見せるミリヤム。

 私と彼女の故郷は同じ村です。


 もちろん、子供の時から知っており、お互いかなりつらい環境――――私にとっては心地よい環境でしたが――――を過ごしてきました。

 私の場合は両親がいないということで色々な仕事や面倒事を押し付けられていましたが、ミリヤムの場合は片親でしたから、それが理由かとも思っていたのですが……半魔ということも理由だったのでしょうね。


「それに、ミリヤムが私を陥れようと嘘をつくとは(残念ながら)思えませんからね。そうでしょう?」

「う、うん……。私はあの時から、ずっとエリクだけの味方だから……」

「であるならば、何も問題ありませんよ」


 ミリヤムに笑いかけます。

 本当に私を害するために嘘をついてもらえれば……信頼しているパートナーということもあって、その精神的苦痛は計り知れません。興味があります。


「エリク……ありがとう」


 ミリヤムは目にうっすらと涙を浮かべ、ゆっくりと抱き着いてきました。

 もちろん、これは情欲にかられた行動ではなく、おそらく安心が欲しいがゆえの行動でしょうね。


 ふっ……昔のことを思いだしますねぇ。

 確か、あの時も帰ってきた私を抱きしめてくれました。


「……エリクには話しておくね。私の秘密……といっても、半魔という以外に大して話すことはないんだけど」


 ミリヤムはそう言って私に教えてくれました。

 自分が悪魔の父と人間の母から生まれた半魔であるということ。


 その父親が行方不明になっているということ。

 半魔の自分と悪魔と交わった母だから村で迫害を受けていたこと。


 悪魔の血が混じっているからこそ、あれだけ強力な効果の回復魔法を使えるであろうこと。

 ただ、悪魔の力らしく代償が必要で、それが激痛であるということ。


 話しづらいこともあったでしょうに、言葉を途中でつっかえさせながらも話してくれました。


「なるほど……」


 うんうんと頷く私。

 そこで、不安そうにこちらを見ているミリヤムに気づきます。


 ああ、なるほど……安心が欲しいんでしたね。


「安心してください。今のを聞いても、私はミリヤムと共にありますから」

「あ、ありがとう……」


 私の言葉で、ようやくほっとした表情を浮かべるミリヤム。

 やっぱり、不安だったんでしょうね。とくに、今まで好意的だった人々が急に不信感を抱いた目を向けてきたのが、彼女にとってダメージが大きかったのではないでしょうか?


 手のひら返しというのは、なかなかショックなことですからねぇ……。

 もちろん、私は盛大に愉しむことができましたが。裏切られるというのは、なかなかに素晴らしい……。


「……あっ」


 ここでミリヤムは自分が私に抱き着いていることを改めて実感し、頬を赤く染めました。

 ……離した方がいいでしょうか?


 そう思って回していた腕を解除したのですが、ミリヤムは私の胸に顔を埋めてなかなか出て行こうとしません。

 まあ、彼女が良いのでしたら私も良いのですが。


 しかし、案外大きな胸が当たるというのは、やはり女性でしたら考慮するべきだと思うのですが……。


「……で、でも、大丈夫かな? 天使教を敵に回して……」

「あぁ……」


 ミリヤムの心配事はまだあったようです。

 天使教……エレオノーラさんはカルトと言っていましたが、まさにそうでしたねぇ……。


 だからこそ、この国ではなかなか支持を得られていないようですが。


「大丈夫ではないでしょうか? まだ油断することはできませんが……。ミリヤムは、エレオノーラさんたちが彼らにやられてしまうところが想像できますか?」

「…………できない」


 ちょっと悔しげにつぶやくミリヤム。

 エレオノーラさん、ガブリエルさん、アンヘリタさん……どれも私では足元にも及ばないほどの力を持つ女傑です。心配する方がおかしいでしょう。


 デボラも強力なスキルを持っていますし、そもそもヴィレムセ王国の王女です。カルト信者が近づけるような存在ではありません。


「そして、ミリヤムは私が守ります。ですから、安心してください」

「エリク……」


 おそらく、狙われるとしたら半魔であるミリヤムでしょう。

 彼女には、私が付きっきりで護衛をしますとも!


 そうしていれば、あの狂信的な人々の攻撃を庇うことができて……。

 ミリヤムは命が助かり、私は苦痛を得られる。まさに、相互互恵関係。素敵ですね。


「さっ、ミリヤム。もう夜も遅くなりました。部屋に戻っては?」


 そう提案すれば、何か思案するように眉を寄せるミリヤム。

 ……そう言えば、いつになったら私の腕の中から出て行くのでしょうか?


「あ、あの……エリク、お願いがあるんだけど……」

「なんでしょう?」


 ミリヤムの言葉に首を傾げます。

 まあ、彼女のお願いなら何でも引き受けるつもりですが。


 できるのであれば、無理難題を伝えてほしいと思います。この身朽ち果てるまで、願い成就のためにまい進し続けるつもりです。


「きょ、今日は一緒に寝てもいい?」


 …………全然無理難題じゃありませんでした。

 ミリヤムは優しいですからね。予想はしていましたが……。


「ええ、別に構いませんよ」


 私はあっさりと受け入れました。

 正直、それくらいまったく問題ありません。手を出すわけでもあるまいし。


「本当!?」


 しかし、ミリヤムはとても嬉しかったようで、笑顔をパッと見せてくれました。

 一緒に寝るだけでそんなに喜んでもらえると、私も嬉しいですねぇ……。


 ですから、ミリヤムも回復魔法の苦痛で私を悦ばせてくださいね。

 そんなことで、私とミリヤムが一緒のベッドで寝るかどうかを議論していた時でした。


 コンコンと、また扉がノックされたのです。


「はい?」

『すみません、宿屋の者ですが。お客様にお届け物がありますので、扉を開けていただけるでしょうか?』


 扉の外から、そんな声が聞こえてきました。

 ……届け物?


「はー……エリク!?」


 出て行こうとした人の良いミリヤムを抱き寄せて行かせないようにします。

 ……怪しいですねぇ。もう夜中ですよ?


 だというのに、届け物ですか?


「ありがとうございます。ただ、私たちはもう疲れていますので、朝になったら取りに行きますね。なんだったら、部屋の前に置いていただいて構いません」

『いえ……ちゃんとお客様に手渡しさせていただかないと……。それに、今すぐに渡さなければならないものですので……』


 ここまで聞いて、ミリヤムもおかしいことが分かったのでしょう。私の腕の中で身体を硬くさせました。

 私はいつでも動くことができるように、脚に力を込めます。


「それ、本当に届け物ですか?」

『ええ、お届け物です』


 次の瞬間、扉が無理やりこじ開けられ、人が飛び込んできました。

 その手には、刃物が握られ、一気に私たちの元へ突出してきます。


「異教徒に、死の届け物を」



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