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第百四十四話 天使教

 










「ようこそお帰りくださいました、利他慈善の勇者殿! 我ら一同、心よりお待ちしておりました!!」


 会話ができるくらいの距離に近づくと、先頭でニコニコと笑っていた女性が歓迎の言葉を紡ぎながら仰々しく頭を下げました。

 それに続き、彼女の後ろにいる者たちも頭を下げます。


 言葉や態度では、好意的なものにしか見えませんが……私のドMセンサーがまだビンビンに反応しています。

 ということは、何か腹に抱えていますねぇ……。


 ふっ、こういうのはゾクゾクします。


「……なんじゃ、こやつら。胡散臭い笑顔なんぞ浮かべおって」


 アンヘリタさんが呟きます。

 作り笑顔全開ですからねぇ……。そんな表情を作るくらいだったら、彼女は無表情の方がいいのでしょう。実際、そうしていますし。


 しかし、私も彼らのことは知りませんので、答えられないですね。


「…………」

「ミリヤム?」


 私の腕を引っ張って先頭を歩いていたミリヤムが、まるで怯えるように私の背に隠れました。

 どうしたというのでしょうか? 理由は分かりませんが、とりあえず彼女の肉壁になるように胸を張ります。


 しかし……なるほど、ミリヤムが怯えているということは、かなり私にとってもキツイことが待ち受けていると見ていいでしょうね。

 ふっ……期待しますよ。


「彼女たちは……」


 エレオノーラさんは彼らのことに気づいたようで、私たちに説明をしてくれようとしましたが、それよりも前に彼女たちが口を開きました。


「ああ、申し訳ありません! お初にお目にかかったのに、自己紹介をしていませんでした」


 そう言うと、女性はニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべながら頭を下げます。


「私はジルケと申します。偉大なる天使様を信仰する天使教徒です」

「天使教徒、ですか?」


 ニコニコと微笑んでいる女性――――ジルケの言葉に、私は首を傾げます。

 天使教というからには宗教の一つなのでしょうが、あいにく私の知らない宗教でした。


 まあ、私自身が宗教に対して無関心というのが一番なのでしょうが……。

 ドM神様がいらっしゃるのであれば、すぐに帰依します。


「カルトじみた部分があるので、ここではあまり受け入れられていない宗教です。ですが、数はそれほどでなくとも、信者一人一人が凄まじいほどの信仰心を持って行動するので、勢力や影響力はなかなかのものです」


 エレオノーラさんが近づいてきて、耳元でささやきながら教えてくれます。

 是非そのまま耳を噛み千切っていただきたい。


「それに、そのジルケという女……彼女はヴィレムセ王国での天使教の運営と布教を任されている司教です」

「なるほど……」


 あまり宗教の階級などには詳しくないのですが……しかし、少なくとも地位の高い人だということは分かりました。


「ご立派ですね」

「いえ、大したことはありません。天使様に祈りを捧げ続けたことが、少し認められただけです。これからは、今まで以上に奉仕に励むつもりです」


 私が軽く褒めれば、照れたように微笑みます。

 うーむ……今みたいに胡散臭くなければいいのですが……作り笑顔でもありませんでしたし。


「勇者殿は天使教にご興味はありませんか? いまなら、私たちがじっくりと天使様の素晴らしさについてお話ししますが!!」

「いえ、結構です」


 ぐいぐいと顔を興奮した表情を張り付けながら寄せてくるジルケさんに、私は即答します。

 ふっ……私はドMですが、面倒くさいことは好きではありませんので。


 こういうところに囚われて洗脳されるというのも興奮しますが……そういうことはしていただけるのでしょうか?


「残念です。しかし、今日はそれ以外にも話すべきことがありますので……」


 本当に残念そうにしながらも、ジルケさんは話したいことがあると続けます。

 王都に住む人々も、興味深そうにこちらを見ています。


「話すべきこと、ですか?」

「ええ。まずは、勇者殿に深い感謝を伝えます。あなたの献身的な活動は、天使教徒ではないのにもかかわらず、思わず敬意を表してしまいそうになるくらいです」


 ジルケさんは再び頭を深く下げて、そう伝えてきます。

 ……結局、敬意は表したくないんですね。


「いえ、お気になさらないでください。人助けは、勇者として当然のことですから」

『おぉ……!』


 私の言葉に感動したようなため息が野次馬の人々の間から聞こえてきます。

 ふっ、いいんですよ。だから、もっと私に頼って苦難を与えてください。


 すべて肩代わりしますので!

 しかし、ジルケさんは何故か首を横に振ってしまいます。


「ああ、いえ。天使教徒以外は別に救われようが救われまいがどうでもいいんです」


 えぇ……? そんな渇いた感じなんですか、天使教って?

 まさかの言葉に私も驚いてしまいます。


「私たちがあなたを高く評価しているのは、魔を滅していることです」


 そう言って、ジルケさんと他の天使教徒たちが皆良い笑顔を浮かべます。

 魔……つまり、魔物ということでしょうか?


 確かに、それは事実でしょう。レイ王からの命令は、最近は魔物討伐ばかりですし……。

 私がデボラの忠節の騎士になってから、以前までのような無理難題を言うことはできなくなったようです。


 それでも、強力な魔物の討伐ばかり言い渡されますが。

 それに、デボラとも冒険と称してよく旅をするのですが、その際も襲い掛かってくる魔物を打ち払っています。


 ……そう考えると、私は多くの魔物を討伐していますね。

 彼らが復讐に燃えて私を狙ってくれはしないでしょうか……?


「魔……それは口に出すのもおぞましい、憎き悪魔どもの手先! 奴らの尖兵を皆殺しにし、いずれは悪魔をも滅して天使様の前に奴らの首を持って行く!! それを為している勇者殿は素晴らしい!!」


 ……ジルケさんが豹変したのですが。

 顔を真っ赤にして怒っていたと思えば、恍惚とした表情で私を褒めてくれます。


 まるで、二重人格者のようですね。


「天使教徒というのは多少違いはあれど、大体こんな感じです。他の宗教を一切認めない排外主義的な集団ですが、とくに敵対している悪魔関連には驚くほどの攻撃性を見せます、だからこそ、カルト扱いでなかなか広まらないのですが」


 エレオノーラさんが色々と補足してくれます。

 なるほど、宗教はたくさんありますからね。天使もあれば悪魔もありますか。


 しかしまあなんとも……ジルケさんの豹変を見て、野次馬の国民たちも引いている様子です。

 天使教が広がるのは、まだまだ時間がかかりそうですねぇ……。


 まあ、余計な心配ですね。


「ですから、不可解なのです」


 大声を上げていたジルケさんが、急に冷静で静かな声を出すので、ビクッとしてしまいます。

 この態度の急変っぷりは怖いですねぇ……。


「魔を滅ぼす素晴らしい働きをしているあなたが、どうして魔の血が入っている者を連れているのかが」

「ッ!!」


 ジルケさんの言葉に、思わず私は戦慄してしまいました。

 もしかして、アンヘリタさんのことでしょうか?


 彼女も白狐という魔族。魔の血は入っているのかもしれません。

 ふっ、これがドMセンサーに引っ掛かっていたものの正体ですか。


 無論、アンヘリタさんをみすみす渡すわけもありません。あんなに発狂して見せたジルケさんに彼女を渡せば、どうなるか簡単に予想できてしまいますからね。

 ……正直、引き渡してもアンヘリタさんならどうにでもできてしまいそうですが。


 そう考えていたものですから、次のジルケさんの言葉には唖然としてしまいました。


「利他慈善の勇者殿。どうして半魔なんぞを連れているのですか?」

「…………半、魔?」


 ポカンと口を開いてしまいました。

 アンヘリタさんは混じりけのない純粋な魔族だと思うのですが……。


 理解していないという様子の私を見かねたのか、ジルケさんは私を指さします。

 ……いえ、正確には、私の背中に隠れているミリヤムを。


「とぼけるおつもりですか? 回復魔法使いにして勇者殿のパートナーである、ミリヤムという名の女ですよ」



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