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第百四十三話 彼らの日常

 










 今日も今日とてレイ王の命令に従い、私は魔物の討伐を行いました。

 こき使われるということは素晴らしいですね。肉体的にも精神的にもダメージがあって疲労も蓄積するので、ドM的にこれほどのことはありません。


 それに、デボラにも内緒にしていましたから、後で癇癪の爆発をいただけるのではないでしょうか?

 そう考えると……ふっ、早く王城に戻らないといけませんねぇ……。


 私が生きて戻ってくるたびにレイ王は嫌そうに顔を歪めますが……それもまたいい!


「あっ、利他慈善の勇者様だ!」

「いつも助かってるよー! ありがとう!!」


 王都に戻ってくると、市民の方々が私たちを見つけて歓声を上げてくれます。

 私に向けられるのは全て好意的なもので、笑顔で満ちています。


 老若男女、世代や性別を問わずに私を受け入れてくれていることがわかります。

 私はそれに笑顔を返しつつも……残念でなりません。


 国民からあまり人気のないレイ王に唯々諾々と従っているのは、こき使われる快楽もありますが、彼に従っているために民たちから悪いイメージをもたれたかったということもあります。

 つまるところ、好意的に受けられているのがつらい……。


 もっとこう……『暴君の手先め!』みたいなことを期待していたわけですよ。

 王都に帰ってくるたびに『帰ってくるな! さっさと死ね!』みたいな罵声を飛ばされて石を投げられるみたいな……ね?


 そんな理想はあっけなく覆されましたが。何故でしょうか?


「ほう。エリクは人気者なんじゃなぁ。所詮、こやつらは自分のことすら自分でできず、他力本願の情けない者たちじゃが」


 短めの白い髪を二つに束ね、頭部に獣耳と臀部に九本の尻尾を生やした無表情の女性が毒を吐きます。

 彼女はアンヘリタ・ルシア。白狐と呼ばれる魔族で、絶大な力を持っています。


 以前にカッレラ領で出会い、そこから私たちと共に行動するようになったのですが、時折レイ王の命令を受けた私たちを手伝ってくれます。

 対価として、肝を引き抜かれて喰われますが。


 この後も、私の肝を引き抜いて食べるという約束をしています。楽しみですねぇ……。

 アンヘリタさんは幻術のようなものを使い、魔族と一目で分かる獣耳や尻尾は隠しているようです。


 人によっては見分けられるようですが、一般人なら決してわからないとのこと。

 私としては、彼女が魔族ということがばれ、私が糾弾される展開もなかなかに魅力的なのですが……。


「彼らは弱い存在なのですから、それも仕方のないことでしょう。強い私たちが彼らを守れば、それで済む話です」


 アンヘリタさんの言葉に、黒髪をおかっぱ風に切りそろえた重装備の女騎士が返答します。

 彼女はエレオノーラ・ブラトゥヒナ。断罪騎士と呼ばれる屈強な騎士です。


 加虐性が凄まじいという欠点もありますが、そのおかげで私は模擬戦の際巨大な手甲でぼっこぼこにされることができますので、私と彼女は相性がいいのでしょう。

 声援をかけてくる市民たちを擁護するエレオノーラさんを見て、アンヘリタさんは無表情のままで嘲りの雰囲気を醸し出します。


「ふん。断罪騎士が何を言うておるか。お主も民のことなんぞ何とも思っておらんじゃろ。あやつらをダシにして人をボコボコにしたいだけじゃろうが。エリクとあやつらが敵対すればどうする? お主、まったく考えることなくあやつらを撲殺するじゃろう?」

「……黙りなさい、妖狐。たとえそうだとしても、あなたにだけは言われたくありません。人間を餌としか思っていない、化け物め」

「餌とは思っておらんぞ? 有象無象じゃ。死のうがどうなろうが知ったことではない。儂の餌はエリクだけで十分じゃからな」


 ……アンヘリタさんとエレオノーラさんの不穏な言葉が聞こえてきます。

 すっごくギスギスしていますねぇ……。


 くっ……歩いていなければ、私が間に入って針のむしろ状態を楽しむことができましたのに……!!


「……エリクさんが止めなければ、妖狐なんてさっさと撲殺してしまえるのに」

「そう簡単に人間風情にはやられんぞ、断罪騎士」


 あぁ……背中に二人の殺気がビシビシと感じられて心地いい……。

 二人の間に入れたら、どれほどの快楽なのでしょうか?


 戦闘経験が豊富で人外じみた力を持つ二人の殺気のぶつかり合いを受けて、直接向けられていないにもかかわらず市民たちは顔を強張らせています。

 そんな二人にボコボコにされた私は、貴重な経験を得られたのですね。


 ……やはり、歩くのを中断して睨み合うお二人の間に入らせてもらいましょうか?

 多少遅れても、デボラに爆発させられるくらいでしょうし……。


 ええ、そうですね。それがいい!

 そう思って振り返ろうとしましたが……。


「はぁ……また始まった。行こ、エリク」


 私の袖を引っ張って先に行こうとする女性。

 茶色の髪を一つに束ね、不機嫌そうに顔をむっつりとさせているのはミリヤムです。


 彼女は卓越した回復魔法を使うことができ、それこそ致命傷でも治してしまうことができます。

 他にも回復魔法使いはたくさんいますが、ミリヤムほどの力を持つ者は誰もいないでしょう。


 とはいえ、欠点も存在しており、彼女の回復の過程では必ず激痛を伴います。

 これによって、おいそれと回復魔法を使うこともできず、現在彼女の力の恩恵を受けているのはドMの私だけということになっています。


「おぉ、抜け駆けかの? 大人しい顔をしておきながら、なかなかに小賢しいのぅ」

「……そういうのじゃありませんから。アンヘリタさんたちと一緒にいると、エリクが傷つくから嫌なんです」


 からかうような声音で尋ねてきても、ミリヤムは表情を動かさずにシャットアウトします。

 彼女は私のことをとても大切に想ってくれているようで、肝を引き抜くアンヘリタさんや模擬戦でボコボコにしてくれるエレオノーラさんを快く思っていないようです。


 本当に優しい子です……。


「王女様もガブリエルさんも……エリクの周りに来るのって、どうしてあんな一癖も二癖もある……」


 ミリヤムはブツブツと言いながら私の腕を引っ張り続けます。

 今一緒にいるほかにも、ヴィレムセ王国の王女であるデボラやアマゾネスの元女王ガブリエルさんがいます。


 皆さん、私のドMライフには欠かせない大切な人たちです。

 寒村にいたときもなかなかに気持ちの良い生活を送らせてもらっていましたが、やはり今には劣りますね。


 この生活を、私は何としても守っていかなければならない。そう思うのでした。


「……なんじゃ? あやつらは」


 そんな時、エレオノーラさんと険悪な雰囲気を醸し出していたアンヘリタさんの呟き声が聞こえてきました。

 彼女の言うのは……おそらく、私たちの行く道を塞ぐようにして立っている複数の人たちのことでしょう。


 彼らは敵意がないようにニコニコと笑っていますが……ふふ、私のドMセンサーが反応を見せています。

 これは、私にとって面白い展開になりそうですねぇ……。



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