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第百四十二話 また

 










「大丈夫、エリク?」

「え、ええ。(残念ながら)大丈夫です。ありがとうございます、ミリヤム」

「……また無茶ばかりして」


 未だ倒れたままの私を気遣いながら回復魔法をかけてくれるミリヤム。

 ぶつぶつと頬を膨らませて不満そうにしながらも、優しい彼女は私を見捨てません。ありがたいことです。


 心臓が損傷したようでしたので、流石に異次元の回復魔法を持つミリヤムでも手こずっているようです。

 その分、激痛が長く続くのでいいのですが!


 ……しかし、私は心臓の一部を壊されても死ぬことはないんですね。

 不死スキル、万能すぎて感動です。私のために……いえ、ドMのためにあると言っても過言ではないスキルです。


 これで、痛覚までなくなっていたら最悪でしたが、痛覚もちゃんとあるというのが素晴らしい。


「大丈夫ですか? エリクさん」

「エレオノーラさん……お手数おかけして申し訳ありません」

「いえ、お気になさらず」


 あまり表情を変えず、しかし心配そうに私を覗き込むのは断罪騎士エレオノーラさんです。

 私を心配……というよりかは加虐の対象を失うことに心配、と言う方が正しいでしょうか?


 そっちの方が物として扱われている感じがして好きです。


「あたしもいるよー。なんかエリクくんはいつもボロボロになっている気がするね。あたしが言えることじゃないけど」

「ガブリエルさん……」


 苦笑しながら私を覗き込むのはアマゾネスのガブリエルさんでした。

 彼女も助けに来てくれたのですね。ありがたいことです。


 ガブリエルさんは戦闘欲が凄いですからね……模擬戦という名のリンチも大好きです。


「もう、エリク! 僕に内緒でパパの命令に従うなんてダメじゃないか! 次ちゃんと言ってくれないと爆発させるからね!」

「デボラ……」


 是非お願いします! これは、またデボラに隠してレイ王に従わざるをえませんねぇ……。

 しかし、デボラも私を連れまわしたいがためとはいえ心配してくれているのです。


 ミリヤム、デボラ、エレオノーラさん、ガブリエルさん……寒村にいたときには予想もしていなかったほど、私を(さまざまな思惑があるとはいえ)心配してくれる人が増えました。

 ……もっと敵を作っていたかったです。


 しかし……。


「ユリウス、ですか……」


 私に甘美な苦痛を与えてくださった彼は何者なのでしょうか?

 私の両腕を斬り飛ばし、心臓の一部を破壊してくださった素晴らしき人です。


救国の手(ノットファル)』の関係者とは言っていましたが……ふっ、良い人を見つけることができました。

 これは、あの組織への探索不可避ですねぇ……。


 彼はもしかしたら、私の最高のドSパートナーになってくれるかもしれない存在です。


「また助けられたの、エリク」

「アンヘリタさん……」


 無表情で私を見下ろすアンヘリタさん。彼女の肝食いも素晴らしいですねぇ……。

 私はミリヤムに腕を引っ付けてもらいながら、そう思っていました。いたたたた……。


「ふむふむ。やはり、お主はあの人に似ておるわ。今回なんて両腕を失って心臓を壊されたわけじゃが……儂を連れて行くのは嫌になったか?」


 アンヘリタさんはそんな寝ぼけたことを言ってきます。

 何をおっしゃっているのでしょうか?


「いえ、そんなことはありません。一緒に行きましょう」


 私は即答しました。

 アンヘリタさんは私の肝を抜いて喰ってくださる貴重な苦痛を与えてくださる方です。


 出来ることならば、一緒にいてずっと肝食いをしてくれた方が嬉しいに決まっているじゃないですか。

 それに、ユリウスはアンヘリタさんを目的にしていた節がありました。


 彼女がいれば、また彼が来てくれるかもしれない……拒絶する理由がありませんね!


「……そうか。お主は本当に……」


 アンヘリタさんは私を見下ろしながら、何かを呟きます。

 ふっ……見下ろされるというのは良いですね。たとえ、好意的な感情を抱かれていようと、問答無用で下に見られるのですから……興奮します。


「ちょぉぉっと待って」


 しかし、アンヘリタさんに突っかかったのはガブリエルさんでした。

 いったい、どうしたと言うのでしょう。


「えーと……君、誰?」

「それはこちらのセリフじゃ、人間。口の利き方を知らんのか、お主は」


 ……これはどういうことでしょう? 私好みのギスギスした雰囲気が発生しているではありませんか。

 アンヘリタさんとガブリエルさんが、静かに睨み合います。


 アンヘリタさんは無表情で、ガブリエルさんはうっすらと笑みを浮かべているのですが……どうにも険悪といいますか……。


「どうでもいいことです。その白い尻尾や耳を見る限り、あなたは人間ではなく魔族。人間の街で暮らせると思わないことです」

「何じゃ? 儂が人間風情にどうにかなるとでも思っておるのか? バカバカしい」


 ガキン! と巨大な手甲同士をぶつけ合うエレオノーラさん。

 え? 威嚇しています?


 アンヘリタさんも無表情ながら挑発をします。

 その騎士さん、断罪騎士というおどろおどろしい二つ名がつけられているのですが……。


 白狐vs.断罪騎士……間に入ってもみくちゃにされたいですねぇ……。


「何か、君が行く先々でおまけがついてくるよね。わざと?」


 デボラ、私はわざとではありません。

 皆私を痛めつけてくれるので大好きですが。


「……また嫌な人が増えた」


 ポツリと呟くのはミリヤムです。彼女には苦労と心配ばかりかけてしまって……申し訳ないです。

 しかし……私はやはりユリウスのことが気になって仕方ありません。


 何故か惹かれる要素がある……私をズタズタにしてくれるからでしょうか?

 それとも……。











 ◆



「ぐっ……! はぁ……最後の最後にもらってしまったな……! 癇癪姫のことを、もっと警戒するべきだった……」


 ユリウスは負傷した胸を抑えながら、自嘲するように呟いた。

 抑えた手の隙間から、大量の血が溢れ出す。


 胸も肉が抉られ欠損し、骨まで見えるほどの重傷だ。

 内臓の一部も損傷して、今すぐに治療しなければ死んでしまうのは間違いない。


 ……いや、腕のいい回復魔法使いでも治せるかどうかはわからない。

 デボラの爆発にはそれだけの威力があった。


 だが、ユリウスは焦りの表情を見せない。

 苦痛を感じて脂汗は浮かんでいるし苦しそうな表情は浮かべているが、このままでは死んでしまうというような焦燥感はまったくなかった。


「……だが、まさか同類と会えるとはな。利他慈善の勇者エリク、か……」


 黒い女を探し出すという大きな目的は変わらない。

 だが、興味深い……面白いことも見つかった。


「また会うことになるだろうな、エリク。その時、俺とお前は敵対するのか、それとも……」


 ユリウスは重傷を負いながらも、ニヤリと笑うのであった。




第四章 白狐編、終了です!

次は新章になりますので、是非お付き合いください。

また、励みになりますので、下の方から評価をしていただけると嬉しいです。それでは!

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