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第百四十話 侮らない方がいい

 










「……また助けに来てくれたのか。期待はしておったが、まさか本当に来るとは思わなんだぞ」

「ふっ。なんとなく、アンヘリタさんの危機を感じ取ったものですから」


 後ろから熱いまなざしを向けてくるアンヘリタに振り返ることなく、エリクは良い笑顔で答える。

 そう、彼のドMセンサーが反応を示したのだ。


 今アンヘリタの元に行けば、良い思いができるような気がする。

 その不確かな直観に従い、エリクは道なき森を猛然と走りぬけたのであった。


「勇者……こいつが来てどうにかできるとでも思っているのか? 片腕は使えなくなったが、それでもこいつよりは強いぞ」

「うむ、別にエリクがお主を倒すとは思っておらん」

「ふっ……」


 辛辣な二人の会話に、微笑みながら身体をビクビクさせるエリク。

 早速の言葉攻めだ。どうやら、ドMセンサーは正しかったようだ。


「アンヘリタさん、この人は……」

「ああ。『救国の手(ノットファル)』とやらに与しておるテロリストらしいの。まあ、儂からすればどうでもいいが……しかし、お主にはどうでもいいということではないのじゃろう?」

「ええ」


 そもそも、エリクがここにやってきたのはレイ王からカッレラ家が『救国の手(ノットファル)』に関わっているのかの調査が目的であった。

 肝心のカッレラ家当主ニルスはすでにあの世に行ってしまったのだが……組織の関係者を捕まえることができれば目的は達成されたと言えるだろう。


「(それに、この男性はとても強そうです。私では勝てないでしょうね。……しかし、それがいい!!)」


 冷静に実力差を認めて、むしろやる気を上げるエリク。

 絶対に勝てない相手に挑む快楽を知る者は、この世にどれくらいいるだろうか?


「申し訳ありませんが、私に捕まっていただきたいと思います。ヴィレムセ王国を脅かす『救国の手(ノットファル)』の情報をいただきたいので」

「まあ、別に『救国の手(ノットファル)』とそれに与している馬鹿な貴族共がどうなろうが知ったことではないがな。ただ、あいつらを利用して情報を得ることもできるだろうし……それに、何よりあの黒い女を殺す前に俺が捕まるわけにはいかないんでね。抵抗させてもらおう」

「ナイス判断」


 エリクはボソリと呟き、剣を構える。

 ここであっさりと投降されたら逆に困っていた。


「では、戦いは避けられませんね」

「……ウキウキしているな。『狂戦士(バーサーカー)』という二つ名はその通りらしい。利他慈善の勇者とも言われているが……二面性があるんだな」


 ユリウスは納得したように頷く。

 まさか、ドMという性癖のためだけに行動しているとは思わないだろう。


「行きます!!」


 エリクはそう声を上げ、嬉々としてユリウスに襲い掛かった。

 上段から振り下ろす剣の威力は、様々な修羅場を潜り抜けてきたおかげもあって、かなりの威力である。


 アンヘリタによって片腕をひねりつぶされた今のユリウスでは、受け止めきれないだけの威力があったのかもしれない。


 ――――――だったら、攻撃を受けなければいいだけの話だ。


「――――――ッ!?」


 ヒュッとユリウスの剣が走った。

 その剣技は、エリクの目では捉えることができないくらいの熟練さと速さがあった。


 結果として、剣を持っていた両腕は、ユリウスによって見事に両断され弾き飛ばされたのであった。

 両腕を失い、攻撃する術を持たずにただ近づいてくるエリク。


 そんな彼の胸に、ユリウスは剣を突き刺すのであった。


「がはっ!?」


 大量の血を口から吐くエリク。

 彼の眼前にいるユリウスの端整な顔に付着するが、彼は気にも留めない。


 ただ、目の前の勇者の心臓を貫いたことだけを感じ取っていた。


「……お前のことは知っている。元は農民だったらしいな? いくら勇者としてもてはやされていようと、俺に勝つことはできなかったんだ。なにせ、年季が違うんだからな」

「あっ……がっ……」

「白狐もこいつが来てどうにかなると思っていたのか? 笑うこともできないな」


 血反吐を吐くエリクを見ながら、ユリウスはため息を吐く。

 今まで目的のために多くの命を奪ってきたが、別にそのことに快楽を覚えるわけでもない。


 勇者を殺しても、愉快な気持ちになれなかった。


「ふむ、お主がエリクを傷つけたことは非常に腹立たしいのじゃが……」


 本当に怒っているのかわからない無表情で呟くアンヘリタ。

 彼女はエリク越しにユリウスを細い目で見据えて言う。


「そやつを侮らない方がいいぞ」

「……何を言っている?」


 まるで、今からエリクが戦うことができるとでも言いたげだ。

 しかし、それは不可能である。何故なら、彼は心臓を破壊されたからである。


 どんな生物でも、脳か心臓を破壊されれば生きて活動することはできなくなってしまう。

 死してなお活動することができるとしたら、それは魔物であるアンデッドに他ならない。


 長く生きすぎてそんな常識も忘れてしまったのか。

 ユリウスはそう嘲笑ってやろうとして……。


「あ、あぁ……!」

「なっ!?」


 心臓を貫かれたはずのエリクが、一歩足を踏み出してきたことに驚愕する。

 剣は身体を貫いているままなので、ずるりと刀身に血が付着する。


「な、何故動いて……!? 確かに心臓を破壊されて動けるわけが……!!」


 すでに死んでいてもおかしくない人間が、凄惨な笑みを浮かべて近寄ってくる姿に、流石のユリウスも気圧されてしまう。

 苦痛を感じているだろう、死の感覚もあるだろう、それなのに笑みを浮かべられる異常性に、彼はゾッと背筋を凍りつかせるのであった。


 ……エリクは心臓を破壊された快楽によって嬌声を上げそうになるのを必死にこらえているだけだったりする。

 にじり寄るたびに身体の中で剣がズリズリと動き、とんでもない苦痛が快楽に変換されてまた彼は悦ぶ。


 もう無敵だった。

 しかし、にじり寄ってユリウスに攻撃もしないというわけにもいかない。


「がっ!?」


 そこで、エリクは両腕も斬りおとされてしまったので、自身の苦痛を省みない全力の頭突きをユリウスの鼻っ面に叩き込むのであった。



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その聖剣、選ばれし筋力で ~選ばれてないけど聖剣抜いちゃいました。精霊さん? 知らんがな~


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