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第十二話 グソクムシと崩落

 










 ダンジョンには、本当に多種多様な魔物が住み着いています。

 洞窟の中のようなダンジョンにこんな魔物がいるのかと、経験の浅い冒険者は驚くことも多々あります。


 噂によれば、場所しだいでは深い階層にドラゴンなどもいるようですから、ダンジョンは不思議でいっぱいだと言えるでしょう。

 ……ドラゴンのいるダンジョンには、いつか行ってみたいと思います。


 さて、そのようなさまざまな種類の魔物の中から私たちの前に現れたのは、暗い洞窟の中にならいても不思議ではない魔物でした。

 キィキィと鳴き声を上げながらやってきたのは、硬い甲殻を持つ虫のような魔物でした。


「ぐ、グソクムシ……」


 ミリヤムが震えながら私の背に隠れ、その魔物の名を呼びます。

 グソクムシ。ダンジョンでは比較的低階層で出現する魔物です。


 非常に硬い甲殻を持ち、冒険者ビギナーの剣ではなかなか倒すことが難しいです。

 しかし、魔法にはとても弱いため、魔法使いとパーティーを組んでさえいれば基本的には大丈夫なのですが……。


 ミリヤムはこの魔物をとても苦手としていました。


「えー、なに?君、こんな弱そうな魔物にビビっているの?ぷぷー、ダサっ」


 ようやくデボラ王女がミリヤムに話しかけたと思ったら、まさかの煽りでした。

 口元に手をやり、頬を膨らませて嘲笑する。


 いえ、確かに強くはない魔物ですが、初心者はなかなか倒せないですよ?


「はぁ……君みたいな女が勇者の近くにいたら、勇者がかわいそうだね。足手まといは勇者には必要ないよ。なんだったら、僕が代わりになってあげようか?僕も冒険できるし、一石二鳥じゃん!」


 やれやれと首を横に振るデボラ王女。

 うーむ……この煽り方は、まだ少女だというのにとても堂に入っています。


 流石は王族の一員だというところでしょうか。

 しかし、私がミリヤムを足手まといに思ったことは一度もないので、彼女の言っていることは誤っていますね。


 あのすばらしい回復魔法が使えない以上、私がミリヤムを捨ててデボラ王女と共に旅をすることはないでしょう。


「…………ちっ」

「なに?今、舌打ちした?僕に?」


 ミリヤムも負けていません。

 荒んだ目でデボラ王女を見て、思い切り舌打ちします。


 それを耳さとく聞き取ったデボラ王女は、能面のような顔でミリヤムを見ます。

 ミリヤムは私の背にいるのでその冷たい視線が私に当たって……興奮します。


「あのー……デボラ王女」

「なに!?」


 とはいえ、興奮してばかりいてはいけません。

 グソクムシが嫌われる理由……とくに、女性から嫌われているのにはわけがあるのですから。


 しかし、デボラ王女はミリヤムのせいで怒り心頭のようで、私にも鋭い視線を向けてきます。いいですねぇ。


「あまりグソクムシから目を離さない方が……」

「ふんっ、勇者もこんな弱そうな魔物に怯えているの?期待外れだなぁ」


 まるでごみを見るような冷たい目。グッドです。

 ふふふっ……失望される快感もいいですねぇ……。


 ……ではありませんね。今は忠告をしておかないと。

 私はまったく問題ありませんが、デボラ王女に代わりはきかないのですから。


「いえ、確かにグソクムシは強い魔物ではありませんが、その魔物は……」

「もう黙っていて!こいつは、腰抜け勇者じゃなくて僕が倒すから!」


 おっふ!いいですねぇ……。

 私が快楽で悶えている間に、デボラ王女は剣を抜いてグソクムシと対峙します。


 ……まあ、これだけ気の強い彼女なら、女冒険者にやたらと嫌われる理由が判明したとしても大丈夫でしょう。


「さあ、来い!」


 キリリっとした格好いい顔でグソクムシを迎え撃つデボラ王女。

 ふむ、ここは深い階層で肉壁として機能するために休ませてもらいましょうか。


 おや、早速グソクムシはそのとっておきの嫌われ技を使うようです。

 ぐっぐっと地面の硬さを確かめるように上下すると……。


「キィィィッ!!」


 弾かれるように大ジャンプを見せました。

 そして、グソクムシの向かう場所とは、ポカンとしているデボラ王女の顔面。


「…………え?」


 空気が凍りつきました。

 グソクムシの嫌われる理由とは、この顔面を狙った大ジャンプです。


 人間に懐いているように見えさえするこのような大ジャンプを披露する魔物なのです。

 まあ、バリバリと人間も食うので懐いているわけありませんが。


 そして、このグソクムシは上から見る限りそれほど気持ちの悪い魔物ではありません。

 しかし、これの裏は別です。


 たくさんの足がつながっている場所で、それらがうぞうぞと蠢く姿は、想像するだけで興奮……ではなく恐怖を覚えます。

 とくに、こういった虫のような魔物は女性から恐ろしいまでに嫌われていて……と。


 先ほどまで威勢のいいことを言っていたデボラ王女が、顔面にグソクムシを張り付けたままピクリとも動きません。

 あまりのんびりとしていると、むしゃむしゃと顔面から齧られてしまうので気をつけなければいけないのですが……。


「――――――」

「ぷっ……ぶふっ……!」


 固まったままのデボラ王女を見て、ミリヤムが噴き出します。

 ミリヤム、性格悪いですよ。


 先ほど散々悪口を言われたので、ざまあ見ろという感じですかね。


「――――――」


 しかし、こういった自分の見下されるような態度に敏感に反応しそうなデボラ王女は、そでも硬直したままです。

 ……気絶でもしたんでしょうか?


 もしそうだったら非常に危ないでしょうし、手助けさせていただきましょうか。


「――――――…………み」


 私がデボラ王女の元に向かおうとした時、ようやく硬直から解放されたように彼女がぽつりと言葉を話します。

 おや、意識はあるようです。よかった。


 これは、私の手助けは必要な――――――。


「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 デボラ王女、絶叫する。

 凄まじい勢いで張り付いていたグソクムシを放り投げると、辺りに急速に魔力が収束してきました。


 こ、これは……!


 ズドドドドドドドドドドドドッ!!!!


 私の期待……予想通り、凄まじい爆発が次々に起きました。

 これは、デボラ王女の爆発!


 私を数発で快楽の絶頂……すなわち、瀕死まで押し上げようとした破壊力を誇る爆発が何度も発生すると、ダンジョンをもどんどんと破壊していきます。

 壁が落ち、瓦礫が次々に出来上がっていきます。


 そして、ついに地面が崩落しかけてしまい、地割れが起きてしまいます。


「きゃぁっ!?」


 ミリヤムが悲鳴を上げます。

 彼女は地割れに飲み込まれそうになっていました。


 そうはさせません!


「ミリヤム、私に掴まって!」

「う、うん!」


 私は落ちかけていたミリヤムを大切に抱きしめ、落ちることを防ぎます。

 彼女を助けた私に残された使命は、デボラ王女!


 彼女の方を見ると、やはり彼女を中心にして爆発が起きているせいで崩落はあちらの方が早いです。

 このままでは、地面は崩れてデボラ王女の小さな身体も宙に投げ出されています。


「うぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 しかし、そのことにデボラ王女は気づいていません。

 未だに激しい爆発を繰り返しています。


 それらは、何匹もいた硬い甲殻を持つグソクムシを次々に爆殺していきますが、あまりにも範囲が広い。

 このままでは、デボラ王女は墜落死してしまうでしょう。


 それは、避けねばなりません!

 私はデボラ王女目がけて、崩れる地面に苦労しながらも走り出します。


「ぐふっ!げはっ!あぁ……っ!」


 近づくにつれて、どんどんと爆発が私の身体に命中します。

 血を吐き出しながらも、私は止まりません。


 もっとキツイ爆発をください!

 最後に少し喘ぎ声じみたものも出てしまいましたが、ミリヤムは私の腕の中でギュッと目を瞑っているため聞こえていません。


 そして、私は爆発を何度も受けながらも、ついにデボラ王女の元にたどり着いて腕をつかむのでした。


「くっ!?」


 しかし、それと同時に地面が崩落。私たちは宙に身を投げ出されてしまいます。


「で、デボラ王女……!!」


 私はデボラ王女を引き寄せてミリヤムと同様に抱きしめ、私の身体が下になるようにしながら下の階層に落ちていくのでした。



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