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不死の勇者は理不尽を謳歌する ~ドM、勘違いで【守護者】や【狂戦士】と呼ばれ困惑する~  作者: 溝上 良
第四章 白狐編

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第百十六話 助けに行った結果

 










「ありがとう、お兄ちゃん!」

「ふっ、こちらこそ」


 元気に手を振って親の元に駆けていく子供を見て、私はニッコリと笑いかけます。

 あなたは助かり、私は快楽を得た。まさに、ウィンウィンです。


「……ありがとう、エリク。あの子を助けてくれて」

「ミリヤムがお礼を言うことはありませんよ」


 私の隣に立って温かいまなざしを子供に向けつつ、感謝の言葉を発するミリヤム。

 しかし、彼女が言う必要はないと思いますが……。


 子供にも、しっかりとお礼を言われていますし。

 やはり、あの子はニルスに攻撃されるいわれはまったくない良い子でしたね。


「私も助けようとしたけど、全然間に合わなかった……」


 落ち込む様子を見せるミリヤム。

 彼女が追い目を感じることはまったくないのですが……。


「ミリヤム、たとえ身体能力が乏しくとも、私はあなたに何度も回復魔法で助けられています。人助けというのは、様々な形があるのです。私は自分の身体を張ることくらいしかできませんが、あなたはそんな私を回復して新たな人助けをさせてくれるんです。いわば、もっとも重要なことをしてくれているのは、あなたなんですよ」


 優れた道具も手入れしなければ使い続けることはできません。

 ここでいう道具は私で、手入れをしてくれるのはミリヤムなんです。


 ……自分で道具というのも、何だか興奮しますね!


「あの子は、私だけで助けたのではありません。私とミリヤム、二人で助けたんですよ」


 私のことを回復してくれなければ、あの子を助けることはできませんでした。

 確かに、ミリヤムは戦闘などの荒いことで貢献するということは難しいかもしれません。


 しかし、その戦いで傷ついた私を、最高の治癒力で回復することができるのは、ミリヤムだけなのです。

 苦痛も味わえて部位の欠損をも回復することができる彼女の魔法は、まさに私にとって必要不可欠なものなのです。


 今更、ミリヤムと離れることはできないくらいに、私は彼女に依存してしまっているのです。


「……そっか。そう言ってくれるのは、やっぱりエリクが優しいからだよ」


 ミリヤムは嬉しそうに微笑みます。

 やはり、彼女には笑顔が似合います。


 そして、私には苦痛にゆがんでいる表情が似合います。


「それに、そもそもミリヤムの身体能力が高くて子供とニルスの間に入り込むことができていたとしても、私は間に入っていましたよ」

「……え?」

「あんな苦痛を味わうのは、私だけで十分ですからね」


 苦痛に対する独占欲がにじみ出てしまいました。

 くっ……醜い! しかし、これで汚物を見るような目をミリヤムが向けてくれると考えると、身体が震えます……!


「私のことを大切に想ってくれるのは嬉しいけど……でも、少し悲しい」


 ミリヤムはそう言って、私の手を両手で包み込みます。

 柔らかくて温かいですねぇ……。


 私の好みは、硬くて冷たいものです。剣とか槍とか。


「エリクはさ、いつも私とか他の人のことを第一に考えて行動してくれるけど……自分のことも考えて。助けられるのは嬉しいしありがたいけど、傷つくあなたを見たら悲しくなる人もいるから……」


 ミリヤムは心の底から私を思って言ってくれているのでしょう。

 しかし、見当違いです。私は、私を第一に考えて行動しています。


 Mを満たすためというのが、私の行動指針であり事実今までそうしてきましたから。

 結果的に他の人が助かっているのは、良い副作用ですね。


「大丈夫です。自分のために、私は行動していますよ」

「……人助けをそう言える人は、エリクだけだと思う」


 いえ、人助けではなく……。

 しかし、良い方向に勘違いしていただけるのであれば、わざわざ訂正する必要はありませんね。


 とにかく、私は何と言われようとこの行動指針を変えることはないでしょう。

 私は自身を傷つけるために動き続け、そしてその過程で理不尽な思いをして快楽を得て、結果的に本当に困っている人を助けられるのであれば、それは良いことではないでしょうか?


 そんなことを思っていると……。


「おら! こっち来い!!」

「おぉっ、なんじゃなんじゃ。強引じゃのぉ……」


 男性の大きな怒声と、それにまったく見合わないのんびりとした女性の声が響き渡ったのです。

 声のした方を見れば、男の鍛えられた屈強そうな腕に手を引かれて路地裏へと入っていく白髪の女の姿がありました。


 その透明感のある髪色と、この辺りではなかなか見られない黒い衣服が目に留まりました。


「……東方の民族衣装だったと思う。旅……にしては距離が離れすぎている気がするけど」


 ミリヤムが耳元でそう解説してくれます。

 ははー……本当に民族衣装だとすると、私が知る由もありませんね。


 ……しかし、今は彼女の素性を探っている場合ではありませんでした。


「……助けに行くの?」

「もちろんです」


 そして、あの強そうな男たちにボコボコにしてもらいましょう。

 私がワクワクしながら向かおうとすると、ミリヤムがため息を吐きます。


「はぁ……言った側から……」

「しかし、ミリヤムもあんな光景を見てしまえば、見過ごすわけにはいかないでしょう?」

「うっ……」


 なんだかんだ言いつつ、ミリヤムは心優しい少女です。

 たとえ、私が助けに行かないという選択をとっていたとしたら、彼女だけでも助けに行ったに違いありません。


「では、行きましょうか。女性を助けに」


 ついでに、私をボコってもらうために。


「……うん!」


 路地裏へと走り出す私とミリヤム。

 近くに行けば、何やら騒がしい声や音が聞こえてきます。


 事は切迫しているようですねぇ……。

 これは、急いで女性を助けて身代わりにならなければ!


「あっ、エリク……!」


 私はミリヤムを置いて全速力で駆けだしました。

 私自身、大した身体能力ではないのですが、彼女と比べるといささか上です。


 そのため、本気で走ればミリヤムを置いて行くことになるのですが……距離も大して離れていませんし、すぐに追いついてくるでしょう。

 その間に、一発や二発はもらっておきましょう!


 私はウキウキしながら路地裏にたどり着きました。


「まったく……人間はやはり煩わしい者ばかりじゃの。盛った猿と変わらん」


 目の前の光景に、私は呆然としてしまいました。

 想像していた光景と、あまりにもかけ離れた惨状が路地裏に広がっていました。


 男たちが歓声を上げて女を押し倒しているのかと思いきや……まさに真逆です。

 立っているのは女性ただ一人だけであり、地面に転がっているのは男たち。


 いえ、これが彼女を引っ張っていた男たちだったのかと言われると、はっきりと頷くことはできません。

 彼らは原形をとどめることなく、全身をそれぞれ引きちぎられたようにバラバラにさせていたのですから。


 狭い路地裏は、血と肉片でおぞましいことになっていました。

 匂いもとてつもないもので、少し嗅いだだけで嘔吐してしまいそうなほどです。


 これを為したのが、白髪の女性なのでしょうか?


「うん? まだ生き残りがおったか」


 彼女は視線を感じてか、クルリと振り返って私を見ます。

 女性の美しいながらも何も感じさせない無の顔には、返り血がいくつか付着していました。


 しかし、それよりも私の目を引き付けたのは……。


「……尻尾?」


 女性の臀部から生えているいくつもの獣の尻尾が、ゆらゆらと揺れているではありませんか。

 彼女は、人間ではない? 魔物……?


 ふと見れば、頭にも二つの獣耳が生えていました。

 先ほど見たときはそんなものはなかったのですが……どういうことでしょうか?


 耳はその髪の色に合わせるように毛並みも真っ白でしたが、尻尾もおそらくは白なのでしょうが今は赤黒い血で少々汚れていました。

 やはり、この惨状を作りだしたのは彼女……。


「ふんふん……お主、美味そうな匂いがするのぉ。よし、決めたぞ。たまには良いものを喰わんとな」


 小さく鼻を動かして、そんなことを言ってくる女性。

 ふっ……何だか不穏な言葉で、私ワクワクです。


「すまんな。お主の肝、もらうぞ」


 女性がそう言った瞬間でした。


「がっ……!?」


 ズドッと衝撃を受けて身体が揺らされます。

 そして、少しの後にこみあげてくるものは、粘りの強い血の塊でした。


 耐えきれずに吐き出すと、地面に落ちる前に何かがそれを受け止めました。

 何か……それは、女性の臀部に生えていた尻尾の一つでした。


 それが、私の身体を貫いていたのです。

 いえ、それだけではありませんでした。


 私の身体を貫通した尻尾の先に包まれていたのは……赤々とした私の内臓でした。


「え、エリク……!?」


 激痛を感じるとともに、ミリヤムの悲鳴じみた声が聞こえました。



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