第百十話 調査
「よく来たな、勇者よ」
「いえ。国王陛下のお呼びとあらば」
私は早速ヴィレムセ王国の国王であるレイ王の眼前に跪いていました。
やはり、跪くという行為は、私に快感を与えてくれますね。
その相手が、私のことを明らかに快く思っていない人だと思うと、なおさらです。
私の隣では、茶色の髪をポニーテールにまとめているミリヤムも跪いています。
……が、私と違ってこのような行為を良くは思っていないようで、顔を伏せてはいますが不快に思っている雰囲気がひしひしと伝わってきます。
これが、レイ王のところまで届いて私に叱責をしてくだされば嬉しいのですが……ミリヤムも感情をコントロールするのは慣れたもので、近くにいる私しか気づかないでしょう。
まあ、ミリヤムは私と同じ性癖を持っていませんから、嫌いな王族を相手に屈するというのが快く思えるはずもありませんね。
私のために、申し訳ないことです。
「そうか。最近は、よくデボラとも行動しているようだな」
レイ王は、冷たい目でこちらを見てきます。ありがとうございます。
レイ王の仰る通り、今の私はほとんどデボラ王女と行動を共にしています。
私は彼女の忠節の騎士ですし、彼女がよく私を冒険と称して外に連れ出すので……。
そのため、最近はレイ王の意味不明なほど厳しい命令も聞けていなかったので、寂しかったです。
それに、デボラだけではなく、騎士であるエレオノーラさんやアマゾネスのガブリエルさんとも行動を共にしますね。
まあ、エレオノーラさんは騎士としての仕事があり、ガブリエルさんも妹のアンネさんから助力を求められて良く街に戻っているので、四六時中一緒にいるというわけではありませんが。
とはいえ、エレオノーラさんには加虐性を抑えるための訓練と称してボコられ、ガブリエルさんは戦い大好きですので模擬戦をしてボコられていますので、私としては大満足です。
顔を合わせたら、二人は一触即発の厳しい雰囲気を漂わせますが、その間に立たされることもまた快感なのです。
「ええ。王女殿下には、よく使っていただいています」
「ちっ。そうか、死ね」
い、今ボソリと自然に素晴らしい罵声を飛ばしませんでしたか!?
舌打ちもつけていただいて……私は感動です!
「…………」
大喜びする私とは裏腹に、隣にいるミリヤムはスッと顔を上げました。
……レイ王を見る目が怖いです。鬼のようです。
それで、是非私を見つめてほしいのですが……。
レイ王は退くくらい親馬鹿ですからね。もう一人の子であるオラース王子にはそれほど過保護でも溺愛しているわけでもないらしいですが、やはり一人娘は可愛いのでしょうね。
「よ、よく来てくださった、勇者。この度お前を呼びたてたのは、お前にお願いしたいことがあるからだ」
空気が悪くなっていることを悟ったのか、レイ王の側近である宰相がそう言いました。
汗を流していますね。苦労人であることが、簡単に分かってしまいます。
「陛下、私から説明しても」
「ああ。ワシの可愛いデボラをとる男とは、話したくもないしな」
宰相の言葉に、鷹揚に頷くレイ王。
彼は一言多いのでしょうね。ミリヤムの怒りの雰囲気と宰相の汗が比例していきます。
「き、近時、この国では貴族による怪しい動きがある。以前、お前がアマゾネスと協力して未然に反乱を防いでくれたが、その首謀者がマイン・ラートという貴族だ」
それは知っています。
ガブリエルさんの協力のおかげで、惨事が起きる前に防ぐことができました。
「だが、あやつだけではない。貴族の中には、不敬極まりないが王族に叛意を持つ者がいる」
宰相の言葉に思い出されたのは、ビリエルやナータンというかつて戦った貴族のことです。
ナータンはエレオノーラさんの敵でしたので戦ったためにいまいちわかりませんが、少なくともビリエルは本当に反乱を起こしました。
彼らは、王族に敵意を持っていたんですね。
「そんな奴らは一つの組織でつながっていた」
「組織ですか?」
「そうだ。それが、『救国の手』という」
「はぁ……」
……何だか凄い名前の組織ですね。
王族からこの国を救おうという意味でしょうか?
レイ王やデボラは私にとって素晴らしいのですが……まあ、確かに一般国民からすればダメかもしれませんね。
しかし、レイ王はともかくデボラは政治をしているわけでもないので民に迷惑をかけたことはありませんし、オラース王子は民のことを第一に考えた素晴らしい王族です。
彼らをどうこうするのは、少しおかしな気もしますが……。
「我らはその遺憾な組織を破壊しなければならない。そして、勇者よ。お前にも、是非とも手伝ってもらいたい」
「なるほど……」
まあ、私としては、マインたちのような貴族を味方にしてこの国をどうにかしようとする気は毛頭ありません。
もちろん、強制的に悪事に従事させられるのであれば、それは悦ぶべきことなのですが……自ら行くというのは違いますね。
それに、そもそも断ることもできないでしょう。私は王族の忠節の騎士ですし。
宰相もお願いしているような形はとっていますが、実際に拒否権はないでしょう。
「まさか、断るなんてことはあるまい? ワシは貴様の故郷に多大な援助をしているのだからな」
ニヤニヤと嗜虐的な笑みを浮かべてレイ王が言います。
そう、私が勇者としてレイ王に従っている限り、私とミリヤムの故郷は金銭的な援助をしてもらっているのです。
故郷を盾にしてこき使われる……心が躍りますねぇ……。
「…………ッ!」
一方、ミリヤムは強く歯をかみしめていました。
人質をとって強制するようなものですし、私みたいな人種以外にはなかなか不快でしょうね。
「もちろん、陛下には感謝しています。その組織の壊滅のお手伝いも、させていただきたいと思います」
「そうか、そうか。勇者が恩知らずでなくてよかったぞ」
ニコニコと笑い合う私とレイ王。
私は純粋な笑顔ですが、レイ王は嗜虐的な笑みですねぇ……。
ミリヤムの身体が震えはじめます。
「さ、早速だが、勇者よ! お前に頼みたいことがある」
宰相がまた慌てて空気を換えるために言葉を発します。
彼も大変そうですねぇ……とくに、胃がヤバそうです。私が代わってあげたいくらいです。
「不穏な動きを見せている貴族の領地……カッレラ領に行ってもらいたい。そこで、かの貴族が『救国の手』に与しているかどうか、調査をしてもらいたいのだ」
その言葉に、私のMセンサーが反応を見せます。
……これは、また私が愉しむことができそうですねぇ。
第四章 白狐編、始まります。
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