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第十一話 ダンジョンとデボラの力

 










 私とミリヤム、そしてデボラ王女は王都からほど近いダンジョンに向かっていました。

 ここは首都から近いということもあって、デボラ王女を引率するにはとても良い距離でした。


「エリク、ギルドに寄らなくてもいいの?」


 ミリヤムが私の手を引いて、前を先導しているデボラ王女に聞かれないようにこっそりと話しかけてきます。

 うーむ……ギルドですかぁ。


 確かに、ダンジョンに潜るのであれば何かしらギルドの依頼を受けておけば、報酬が手に入るのですが……。


「本当なら何かしらの依頼を受けてダンジョンに向かいたいところなんですが……デボラ王女のことを公にするわけにはいきませんからね」

「…………そう」


 ギルドに王族が現れたら、騒ぎになることは間違いありません。

 そして、この国ではオラース王子以外の王族は、あまり良い感情を抱かれていないといっていいでしょう。


 デボラ王女はレイ王ほどではありませんが、やはり癇癪で人を爆殺するような恐ろしい王女だということが知れ渡っており、その理不尽さから忌避されています。

 そんな彼女が人目の届きにくいダンジョンに潜ると知れば……悪だくみをする人もいるでしょう。


 私としてはそれも大歓迎なのですが、あまりミリヤムを危険にさらすわけにもいきません。

 彼女を失うことは許容できませんからね。


 しかし、ミリヤムは煩わしそうにデボラ王女の背中を見ます。

 うーむ……この子の王族嫌いは、なかなか根が深いですねぇ。


「なに、依頼を受けないのですから、それほど深い階層まで降りませんよ。デボラ王女が満足するまで、うろうろと低階層を徘徊すればいいんです」

「……でも、ダンジョンはなにが起こるかわからない。気をつけないと」

「ええ、あなたのことはしっかり守りますとも」

「…………そうじゃない」


 ぷいっとそっぽを向かれてしまいます。

 まあ、耐久力だけが取り柄の私程度では頼りにならないのでしょうが……。


 しかし、今回はミリヤムに言った通り、あまり無理して深いところまでは行かないつもりです。

 私は最下層に置き去りにされても嬉しいのですが、ここでデボラ王女も失ってしまうと、レイ王が怒り狂ってミリヤムや故郷を潰してしまうかもしれません。


 私の性癖のために他人を傷つけるようなことは、『極力』避けねばなりませんからね。


「おーい!早く来てよー、勇者ー!」


 くるりと振り返って、元気に私たち……というより私を呼ぶデボラ王女。

 ミリヤムとは、王城で少しありましたからね。


 二人はいがみ合っているという状況です。

 こういうことは、命を懸けるような場所に行くときは解消させなければならないのですが……これは後々私にとって都合のいいことになりそうなので、このままにしておきます。


「呼ばれていますし、行きましょうか」

「……うん」


 私とミリヤムは、少し駆け足でデボラ王女を追うのでした。











 ◆



「へー……ここがダンジョンかぁ」


 私たちはダンジョンの中にいました。

 デボラ王女が、珍しそうにきょろきょろと辺りを見渡します。


 ふふ……私も少し前まではそんな感じでMを満たしてくれるような魔物を探していましたから、少し懐かしいですね。

 今は、大体気配を悟ることができるようになりましたが……。


「ええ。世界にはダンジョンがいくつも存在しますが、ここは多くの冒険者が攻略したダンジョンですね」

「えー!僕はもっと冒険をしてみたいんだけどー!未攻略のダンジョンとかの方がいいなー」


 デボラ王女が私の計画通り食いつきます。

 いちいち、言わなくていいことをわざわざ言ったのですからね。


「最初は簡単なものから慣れていきましょう。それで大丈夫だと分かってから他のダンジョンに行っても、悪くないと思いますよ?」


 そう言えば、次も私を連れて行ってくれるかもしれません。

 どんどんと難易度が上がって行くにつれて、私の受ける怪我というのも深刻になってくることでしょう。


 うーむ……今から胸が期待に膨らみますねぇ。


「むー……!勇者が言うんだったら、仕方ないなぁ……」


 やれやれと首を振って先に進むデボラ王女。

 そのまったく警戒していない行動は、私を信頼してくれているからなのか、それとも自分に絶大な自信を持っているからなのか……。


 まあ、間違いなく後者でしょうね。

 私はそんなことを考えながら、彼女の後に付いて行きました。











 ◆



「……おや」


 しばらく、魔物も出てこないダンジョンを歩いていると、私のささやかな気配察知に何かが引っ掛かりました。


「エリク……」


 ミリヤムも気づいたようで、私に注意を促すように服の袖を引っ張ってきます。

 正直、性癖のせいで不意打ちされることを無意識のうちに好んでいるきらいのある私は、あまり気配察知が得意ではありません。


 一方、戦闘に関しては普通の少女であるミリヤムは、当然襲撃されることなんて望みませんので、こういった察知能力は私よりも高かったりします。


「ええ、大丈夫ですよ。ちゃんと分かっていますし、あなたのことも守りますとも」


 そして、身を挺する機会を増やしていきたい……。


「う、うん……」


 下を向きながら小さな返事をするミリヤムを確認し、私は前を歩くデボラ王女に声をかけます。

 彼女は何も変わらず、興味深そうに辺りを見ながら歩いているので、おそらく気づいていないでしょう。


「デボラ王女」

「ん?なに?」


 振り返って、可愛らしく首を傾げるデボラ王女。

 うーむ……こういう姿だけを見ていると、本当に悪名高い『癇癪姫』だとは思えませんね。


 まあ、私は実際にあのすばらしい爆発を体験しているのですが。


「こちらに魔物が近づいてくる気配があります。戦闘準備をお願いします」

「おっ、やっと来た!?ようし……僕が強いってこと、勇者にも教えてあげるよ!手出しは無用だからね!」

「ええ」


 どうにも、デボラ王女はやる気満々のようです。

 本当に任せてもいいのか……とも思いますが、私がこの身体で感じた爆発の威力も考えれば、このダンジョンの階層に出現する魔物なら問題ありません。


 それに、いざというときは私が介入して攻撃を受ければいいですしね……。

 ふっ……ワクワクしてきますね。


「手を出したら、酷い罰を与えるからね!」

「…………ごくり」


 これは、デボラ王女が優勢でも乱入した方がいいでしょうか。

 魔物の攻撃と、デボラ王女の爆発。


 くっ……!この二つを両方受けられるのであれば、私は……私は!


「ギギィッ!!」


 喉を鳴らしつつ葛藤していた私の元に、そんな声が聞こえてきます。

 現れた魔物は、やはり大したことのない魔物であるゴブリンでした。


 とはいえ、あまり舐めてかかると殺されてしまいます。

 彼らも、小さな体躯とはいえ魔物。人間を殺すには、十分な力を持っています。


 しかし、幸いなことにこのゴブリンは一匹。よっぽどのことがない限り、冒険者がやられてしまうことはありません。

 さて、デボラ王女はどうなのでしょうか……。


「ふっふっふっ……。僕の相手に、こんな雑魚なんてふさわしくないね!ドラゴンみたいな強い魔物じゃないとね!」


 デボラ王女はとても勝気です。

 いやー……しかし、本当にドラゴンなんて来たら全滅間違いなしですよ。


 まあ、ドラゴンの火炎に焼かれるのは興奮しそうですが……。


「ギィィィィィィィッ!!」

「よっ」


 ゴブリンがデボラ王女にとびかかります。

 その速度はそれほど脅威的ではないにしても、初めてゴブリンを見る者なら硬直してしまうこともあります。


 見目は悪いですからねぇ、ゴブリン。

 その気持ちの悪さから、冒険者たちからは忌み嫌われているほどです。羨ましい。


 しかし、デボラ王女は見事にそのとびかかりを避けました。


「てぇぇぇいっ!!」

「ギャァァァァァァァァァァッ!!」


 そして、スラリと抜いた剣でゴブリンを一刀両断!

 見事、ゴブリンを倒してみせました。


「ふふん!どうだ!」

「おお……流石はデボラ王女ですね。ゴブリンを一撃で仕留めるとは……」

「まあ、僕なら当然だよね!」


 自慢げな様子のデボラ王女を褒め称える。

 爆発も使わずに倒したことは、本当にすごいです。


 ダンジョンに来たのも初めてでしょうから、初対面でゴブリンに臆さず倒したということになります。

 彼女が王女でなければ、将来が期待される冒険者になっていたでしょうね。


 デボラ王女の装備している剣や防具が、駆け出しの冒険者には到底手の届かないほどの高価なものだとはいえ、彼女の実力は本物です。


「……でも、所詮ゴブリンだからなぁ。全然ドキドキしなかったよ」


 デボラ王女は少々不満そうです。

 彼女ほど力があれば、ゴブリンは不足なのでしょう。


 しかし、やはり最初はコツコツと経験を積んでいくことが大切なのです。

 私も、レイ王に命令されて初めてダンジョンに来たときは、よくゴブリンにリンチされたものです。


 ふっ……あれはよかった……。


「なに、ここにいるのはゴブリンだけではありません。他にも、多種多様な魔物が……おや?また来ましたよ」


 とにかく、デボラ王女を宥めていると、私の探知範囲にいくつかの気配が引っ掛かりました。

 どうやら、今回は一匹ではなく複数の魔物がやって来たようです。


「ようし!今回も僕に任せてよ!」


 自信満々に拳をつくるデボラ王女ですが、流石に複数を相手にするのは少々難しいでしょう。

 それに、そろそろ私も攻撃されたいので、次は私も……。


 と、私が前線に出ようとすると、ミリヤムに手を引かれます。

 おや、心細いのでしょうか?


 そんなことを考えて振り向くと、私の考えは違っていたようで、あまり感情を表に出さない彼女にしては珍しく強張った表情を浮かべていました。


「ひっ……!え、エリク……あ、あれ……!」


 ミリヤムが指さした方向、そこから魔物がやってきました。

 うぞうぞうぞうぞと、何とも恐怖を煽ってくる音がしてきました。


 こ、これは……。



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