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第百六話 裏切り

 










「な、何故だ!? どうしてこんなことに……!!」


 戦のための鎧を身に着けたマインは、顔中に汗を浮かび上がらせながら愕然としていた。

 アマゾネスたちが王国騎士団の主力と苛烈に激突している間に、自身が率いる私兵団は背後から王都を襲撃。手薄になった王城へと一気に攻め込み、レイ王などの王族やその側近を一網打尽にするという作戦。


 そのために、今までこそこそと王族にばれないように準備を整えてきたのだ。

 それなのに……。


「こちらが攻撃されてどうする……!!」


 マインは苦々しげに顔を歪める。

 今回の反乱作戦で肝要だったのは、先制攻撃と電撃戦である。


 それが、戦力が低い方が勝つ最善の手段だったのである。

 しかし、現在マインとその私兵団は攻撃を受けていた。


 まだ、彼の領地から出ることすらできていなかった。

 レイ王とその勢力に反乱を察知されて、先に攻撃を受けた?


 いや、違う。攻撃を仕掛けてきているのは……。


「何故だ!? ガブリエルぅぅぅぅぅぅっ!!」


 マインの私兵団に襲い掛かっているのは、褐色肌で笑みを浮かべて武器を振りかざしている女戦士たちの集団。

 彼女たちはアマゾネス。血と闘争を好む過激な女戦士たち。


 その戦闘能力は凄まじく、鍛え上げていたマインの私兵たちはどんどんと打ち倒されていく。

 しかし、本来であればアマゾネスたちに彼の私兵たちが倒されていくのはおかしいのだ。


 何故ならば、彼女たちはマインの手ごまだったはずなのだから。

 彼の作戦で最も大きな役割を担っていたのは、アマゾネスたちである。


 正直、マインの私兵団だけでは、レイ王を守護する王国騎士団を打倒することは不可能だろう。

 だが、それにアマゾネスの戦士たちをぶつければ話は変わる。


 彼女たちの戦闘能力は、目を見張るべきものがある。

 彼女たちがいれば、騎士団に打ち勝つことができるかもしれない。


 それは逆に言うと、アマゾネスが味方をしてくれなければ勝つことはできず、彼女たちが敵に回ればなおさらなのであった。


「も、もう無理だっ! 逃げろぉっ!!」

「ま、待てっ!? 貴様ら、俺を見捨てて裏切るのか!?」


 武器を捨てて逃げ出す私兵たちを制止するマイン。

 しかし、誰も彼の言葉に耳を貸さない。


「アマゾネスの数は、我々よりはるかに少ない! このまま戦い続けていれば、必ず……!!」

「馬鹿か、テメエは!! その間に、自分が死んだら話にならねえだろうが! 数で押しつぶせる前に、どれだけ死ぬんだよ!!」


 マインに敬語も使わず言葉をぶちまける私兵。

 彼はそのことに青筋を浮かばせる。


「いいか!? そもそも話が違うんだよ! アマゾネスは味方なんじゃなかったのか!? どうして俺たちに襲い掛かってきているんだよ!!」

「そ、それは……」


 マインは答えることができなかった。

 彼にも分からないからである。


「あんなゴリラ女どもとまともに戦えるわけがねえだろうが! ここは、さっさと逃げて……!」


 男の言葉が途中で途切れた。

 マインが我慢できなくなって怒鳴り返したから?


 いや、違う。彼の首が切断され、頭部が宙に飛んだからである。

 見事なまでに斬られ、自身が死んだことにも気づいていないような顔つきだ。


 つい先ほどまで生きて話していた生首がクルクルと回って地面に落ちるのを、マインはただ見ることしかできなかった。

 そして、それを為した人物は……。


「あ、ごめん。話し中だった?」


 肩に血の付いた戟を担ぎ、キョトンとした表情を浮かべていた。

 彼女はガブリエル。女戦士アマゾネスたちの女王であった。


「き、貴様……!!」

「やっほー、マイン様。久しぶりー」


 手をひらひらと振って可愛らしく微笑むガブリエル。

 彼女がつい先ほど人を殺したことが嘘のようだ。


 一般的な価値観を持つ人間なら多少感情の上下があるのが普通だろうが、ガブリエルはアマゾネスだ。人殺しなどしても、罪悪感など抱かないのかもしれない。偏見だが。

 しかし、今はそんなことはどうでもいいことだった。


 マインには、彼女に聞きたいことがあるのだから。


「ガブリエル! 貴様、どうして俺を裏切った!?」

「どうしてって……」

「今まで貴様らアマゾネスのために、色々と融通してやっただろ!? 街の自治権や剣闘士用の犯罪者! どれも、貴様らのために俺が認めてやったものだろうが!!」


 マインの血の吐くような怒声を正面から受けても、ガブリエルはとくに表情を変えなかった。

 頬を指でかき、苦笑いする。


「いや、確かに街を作らせてくれてそこに住まわせてくれたことには感謝しているよ? でもさぁ……剣闘士用の犯罪者って、本当の犯罪者はどれだけいたの?」

「な、なに……!?」

「マイン様の都合の悪い人たちを、犯罪者としてこっちに送りつけてきていたんじゃない?」

「そ、それは……」


 マインはガブリエルの目を正面から見ることはできなかった。

 彼女の言う通り、彼は自身にとって都合の悪い人々をアマゾネスの街に剣闘士として叩き込んだからだ。


 むろん、闘技場で戦わせられた彼らの多くは命を落とす。

 処刑したとなれば民からの評判も悪くなり王都から調査官が派遣されるかもしれないが、剣闘士として闘技場に叩き込めば、試合で死ぬことなんて日常茶飯事なことから疑われる心配もない。


 マインにとって、アマゾネスの闘技場は敵を葬り去るために非常に有益な施設だったのだ。


「あたし、そういうの好きじゃないからさ。それをやったマイン様のことも、嫌いなんだよね」

「ぐぐぐぐ……っ!」


 冷たく切り捨てるガブリエルに唸るマイン。

 非常に不愉快な物言いだが、自身のやっていたことに利用されていたと知って良い顔をするはずもない。


「だ、だが、俺を裏切って、その後はどうする? 放浪するのか?」


 マインは汗を浮かび上がらせながら、別の観点からガブリエルに言い始める。


「貴様らアマゾネスは、様々な戦場で猛威を振るった。貴様らを憎く思う者も多いだろう。そんな奴らに復讐されることに怯えながら、いつ終わるやもわからない旅をするのか? あれだけの大所帯で。不可能だろう。皆殺しにされるぞ?」


 言っていて自身の言葉に説得力があると思ったのか、ニヤニヤとした笑みを浮かばせる。


「それだったら、俺に従っておけ。俺が王国を手に入れたら、今よりも大きな領域を貴様らに渡してやろう。なに、今ならまだ許してやらんこともない。俺に土下座をして謝罪をすれば……」

「ああ、それは大丈夫。ちゃんとマイン様を裏切る前に、王女様から安全の約束をしてもらったから」

「なっ……!?」


 マインの口が、それこそ拳が入るくらい大きく開かれた。



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