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第百四話 マインの高笑い

 










「くっ、くくくっ……」


 恰幅が良く、いかつい顔つきの男が笑っていた。

 笑みだというのに周りの雰囲気を和ませるどころか、緊張させてしまう怖さがこの男にはあった。


 彼の名前はマイン・ラート。ラート領を治める貴族であり、反王族派の『救国の手(ノットファル)』に所属している。

 組織の中でも野心に溢れ、武力によって国家体制を崩壊させようとする過激派である。


 そして、ついにこの男は動き出そうとしていた。


「私兵団の数も大分揃って来たな。くくっ、王族にばれないようにこれだけの数を集めるのは苦労したぞ?」


 もともと、マインは武力派の貴族であるという形で名が知れている。

 だからこそ、大きな私兵団を持っていてもあまり違和感はないのだが……。


 だが、それは表向きでの話である。

 マインは表だけでも貴族の中ではトップクラスの規模の私兵団を抱えているが、公には知らせていない裏の私兵団も持ち合わせていた。


 その戦力の拡充が、最近ようやく終わったのである。

 兵数は、さすがに王都を守る騎士団よりは少ないものの、貴族の私兵団としては考えられないほど多かった。


 それこそ、全て発表していれば、王族や他の貴族からは確実に睨まれ疑われるほどだ。


「余裕を持って王族を打倒するなら、もっと兵数は必要だが……これ以上はいくら何でも怪しまれる。これが、ギリギリのラインだな」


 欲張って事前に見つかり、潰されてしまっては元も子もない。

 欲はまだ出してはいけない。王族を打倒してヴィレムセ王国をこの手に収めることができれば、贅を尽くせばいいのだから。


「練度も大分マシになった。これなら、王都の騎士団ともまともにやり合えることだろう」


 流石に、王都の騎士団に勝てるとは言えない。

 それは、相手を過小評価し過ぎだろう。


 王族を守る屈強な騎士団は、それこそ国の中で忠義に篤く戦闘能力に優れた者たちの集まりである。

 一方、マインの性格のこともあるためか、彼の元に集まる私兵はどうにも荒々しい者たちばかりだ。


 そういう連中は、主である自分が危機に陥った際、命を懸けて助けてくれるとは思えないが……。


「だが、うまみを見せているうちは俺に従うだろう」


 そういった連中は、甘い汁を啜れるうちは従順なはずだ。

 今でも民から吸い上げた甘い汁を、彼らには存分に与えている。


 これは、先行投資だ。この贅沢を知ってしまえば、自分の元から離れるのはそうそうできないだろう。

 それに、王族を打倒できれば、今まで以上の贅沢をすることができるのである。


 短絡的で馬鹿な私兵たちは、マインを裏切ることはないだろう。

 このままの生活を続けていたとしても、いつまで生きられるかわからないのだから。


 そんな彼らを鍛え上げ、いっぱしの戦士に仕立て上げることに成功したマイン。

 下ごしらえは万全であった。後は、戦の準備を気取られないようにするだけだ。


「正面から王国騎士団と殴り合う、なんて馬鹿な真似はしない。ビリエルのように、あっけなく押しつぶされるだけだからな」


 マインは、かつて『救国の手(ノットファル)』に所属していた貴族のことを思いだす。

 ビリエルは彼より早く王国に叛意を抱き、兵をあげたのだが、騎士団……それも全軍ではなくオラース王子とデボラ王女、そして勇者エリクによってあっけなく倒されてしまった。


 情けない。みっともない。そんな不様をさらすような者は、仲間ではない。

 だが、である。ビリエルを倒した王族と勇者を侮っていいのかと言われると、それは違うのである。


 彼らは有能だろう。

 勇者のことはいまいちわからないが、ビリエルの反乱軍を短時間とはいえ一人で食い止めたという噂が本当なのであれば、警戒するに余りある存在だ。


 オラース王子はヴィレムセ王国の王族とは思えないほどできた人間で、レイ王の後を継げば良き王になるだろう。

 だからこそ、今のうちに反乱を成功させなければならない。


 彼の治世になれば、自身が反乱を起こしても民から同意を得ることはできないだろうから。

 デボラ王女は癇癪姫として忌避され人望があるとは到底言えないが、その反乱の鎮圧に貢献したことで以前よりかは人々に受け入れられている。


 癇癪をほとんど勇者が受けていることも、その要因の一つだろう。

 そして、恐るべきは彼女のスキルである爆発である。


 あの力は、凄まじいものだ。軍を相手取ることだってできるだろう。

 下手に突撃をしてもろに爆発を受けてしまえば、一気に兵力が減ってしまう。


 とはいえ、強力ゆえにそう何発も大規模なものは使えないだろうが……脅威であることは事実である。


「気取られないように隠密に事を進め、一気に王都を攻め落とす電撃戦。俺が勝つには、それしかないな」


 顎を手でさすりながら作戦を立てるマイン。

 そして、その作戦が上手くいけば、彼はこの国の王となる。


「くはははっ! 笑いが止まらないなぁ……!」


 王になったら、何をしようか?

 まずは、ありったけの贅を楽しませてもらおうではないか。


 美味い飯を食べ、高級な酒を水のように飲み、そして美しい女を抱く。

 酒池肉林。それを心の底から謳歌しよう。


「そして、次は領域拡大だ……!」


 遊びながらヴィレムセ王国を掌握すれば、次は近隣諸国である。

 この国にはない食べ物や文化があるだろう。それを、この手のものにする。


 そして、特色のある美女を集めて後宮を作るのもいい。

 まさに、この国の……いや、大陸の覇者となるのだ。


 全て自分のもの! 全て自分の思うがまま! そんな素晴らしい世界を作り上げるのだ!


「そのために、最初でつまずくわけにはいかん! 絶対に成功させなければな……」


 そして、そのためにマインが持っている最大にして最強の切り札が……。


「アマゾネスの奴らにも、今回は動いてもらわんとな」


 そう、アマゾネスだ。血と闘争を好み、女性だけで構成されているのにもかかわらず、下手な騎士団を遥かに圧倒する戦闘種族。

 そんな種族が、マインの領地に街を構えていた。


 彼女たちを領地に置き、闘技場をも作ってそこに剣闘士を供給し続けているのは、このためである。


「奴らはここでしか生きていけないからな。俺に逆らうことはできん。良い駒になるだろう」


 アマゾネスという種族は、その特性から戦場に赴く者が多い。

 それは、どこぞの国の正規軍に加入して参戦するという者も存在するが、非常に数が少ない。


 多くは傭兵として参戦し、戦場をかき回すのだ。

 そのため、諸国からは非常に苦々しく思われている。


 アマゾネスに忠義はない。ただ、戦いたいだけの集団である。

 昨日は味方として戦っていたと思えば、次の日には敵となって戦っていたこともあるほどだ。


 そんな集団は国から押しつぶされるのが常だが、アマゾネスの厄介な点は、個々の戦闘能力が高いことである。

 潰したいが簡単には潰せない集団。それがアマゾネスである。


 だが、マインの領地から放逐されれば、彼女たちがいずれ全滅するまで追い詰められるのは自明の理である。

 それゆえ、アマゾネスはマインに従わなければならないのだ。


「さて、そろそろ命令を与えるか。おい! アマゾネスの女王に、『動きをとれ』と伝えろ」


 マインは使用人を呼んで、アマゾネスに命令を下すことを伝える。

 去っていく使用人の足音を聞きながら、マインはあくどそうに笑った。


「俺の鍛え上げた私兵団に、戦闘種族であるアマゾネス……。気づかれていない今なら、不意打ちと電撃戦で必ず勝てる!」


 大きく腕を広げて、高らかに笑う。


「この国は、俺のものだ! 『救国の手(ノットファル)』の連中を出し抜いてやったぞ! はははははははははははっ!!」


 気がかりなのは、『救国の手(ノットファル)』の助言者を自称していたあの青年である。

 どこか、底を見させない何かがあったが……まあ、どうでもいいことだ。


 奴は権力などに興味はない様子だったし、奴の言う通り情報とやらを与えておけば大人しくなるだろう。

 ますます、思い通りに進む現状に、マインは笑い声を大きくしたのであった。




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