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第百一話 救出隊vs.アマゾネス

 










「びっくりしたなー」


 ガブリエルは眼前に立つエレオノーラを油断なく見つめる。

 強い。それは、見るだけで分かった。


「こんな風に闘技場にやってきた人は初めてだよ」

「まあ、観戦しに来たわけではありませんからね。殴り込みですから」


 ガブリエルはエレオノーラと話しながら、アマゾネスたちにジェスチャーで指示を出す。

 この騒ぎに乗じて剣闘士たちが逃げ出すことを画策するかもしれない。


 エリクやユーリという不当に閉じ込められた者たちならばともかく、本当の犯罪者たちを逃がすわけにはいかなかった。


「殴り込み、ねぇ。目的は?」


 ガブリエルの問いかけに、エレオノーラはすっと指をさす。

 それは、彼女が抱きしめているエリクに向けられていた。


「もちろん、エリクさんの救出です」

「救出? ……エリクくんの仲間か」


 ガブリエルは目をスッと細める。

 エレオノーラは動かないが、一人の少女――――ミリヤムがこちらに近づいてきていたからだ。


 しかし、攻撃を仕掛けてくるというような予兆はまったくなかった。

 敵意すら向けられてこない。


 彼女の顔は焦りに満ちており、その目は傷だらけのエリクだけを捉えていた。


「どうか攻撃しないでいただきたいです。彼女に、戦闘能力はありませんから」

「それは分かるけど……」


 困惑したようにミリヤムを見るガブリエル。

 こんなに無防備に、敵に近づいてくるような子は大丈夫なのかと思ってしまう。


 もちろん、エリクの仲間らしいので、敵意を見せてこない限りは迎撃するつもりはないのだが。


「あのっ、エリクを返してください! 回復しないとダメなので……!」


 ミリヤムは息を切らしながら、切羽詰った表情でそう言った。

 返して、というだけだったらガブリエルはエリクを抱きしめる力を弱めなかっただろが、回復という言葉を聞けば話は違う。


「ん? 君、回復魔法を使えるの?」

「使えますから……早く!」


 一刻も早くエリクを回復したいんだろうなと思わせるほどの必死さ。

 ガブリエルはミリヤムを信じて、彼女にエリクを渡した。


「エリク……!!」


 ミリヤムは倒れてくるエリクの身体を、ギュッと抱きしめた。

 自身が血に汚れることは、まったくいとわなかった。


 愛おしそうに抱きしめた後、ミリヤムは彼を横たわらせた。


「ごめんね。ちょっと我慢してね」


 ミリヤムはそう言うと、回復魔法を使う。


「ぐっ……あぁぁぁっ……!!」

「ちょっ……!」


 すると、意識を失っているエリクが|苦悶の声(嬌声)を上げるではないか。

 ガブリエルはミリヤムを制止しようとして……。


「……おぉ」


 エリクの傷だらけの身体がみるみるうちに回復していくのを見て、声をかけるのを止めた。

 ガブリエルに負わせられた怪我や、カタリーナやアンネとの戦いで負って回復しきれなかったものが、傷跡を残すことすらなく癒されていった。


「ひ、酷い……っ」


 ミリヤムはエリクの切断された右腕を近くに持ってきて回復魔法をかけると、それすらくっついてしまった。

 しかし、その傷と失われた片目を回復しながら、憤りの涙を浮かべていた。


「ミリヤムさんの回復能力は、おそらく大陸でも一番のものでしょう。ただ、その過程で耐え難い苦痛を味わうのです」

「ふーん、副作用ってやつ? でも、失った部位も回復できるんだったら、それくらい我慢しても受けたいって人も多いだろうね」


 エレオノーラの言葉に、感心したように頷く。

 エリクのような優れた男の近くにいる女も、やはり只者ではないのだということを認識したガブリエル。


 のんきな声音に、キッとミリヤムが彼女を睨みつけた。

 エリクのことをこんな酷い目にあわせたのに、後悔している意思がまったく感じられなかったからである。


「しかし、よくもここまでエリクさんをズタズタにしてくれましたね。謝罪の意思はないのですか?」


 エレオノーラも丁寧語で表情は変えていないが、憤りはにじみ出ていた。

 だが、それを受けてもガブリエルは首を傾げる。


「謝罪? それは意味が分からないかなぁ。あたしとエリクくんは、本気でぶつかり合ったんだよ。ただ武力でぶつかっただけじゃなく、あたしたちの戦いは心もぶつかり合っていたと思う。それなのに、あたしが彼に謝ったら、それは戦士に対する侮辱でしょ?」


 ガブリエルの言葉は、アマゾネスの独特の価値観からくるものであった。

 彼女たちにとって、戦いとは崇高なものだ。


 だからこそ、見事な戦いを見せる男にアマゾネスは惚れる。

 エリクは決して強いとは言えないかもしれない。だが、その戦い方は、アマゾネスたちに戦士として認められるには十分なものだったのだ。


 ガブリエルは、愛おしそうにエリクを見つめる。

 彼女は彼を痛めつけたいわけではない。だが、戦いたい。


 ただ、それだけなのである。

 だから、エリクが目と腕を取り戻せそうでなによりだ。また、戦いをすることができるのだから。


 心と心がぶつかり合い、血沸き肉躍る素晴らしい戦いが。

 ……なお、エリクの(せいへき)ガブリエルに微塵も伝わっていない。


「……そうですか。うっすらと思っていましたが、あなたはやはり私の天敵のようですね」


 エレオノーラはとげとげしい手甲を身に着け、ガッとぶつけ合わせる。


「いいですか? エリクさんをボコボコにしていいのは、私だけなんです。断じて、アマゾネス風情ではないのです」

「エレオノーラさんもエリクをボコボコにするのは止めてください」


 鋭い目をするエレオノーラにツッコミを入れるのはミリヤムである。

 彼女からすれば、加虐性をぶつけるのも止めてほしい。


 ガブリエルはエレオノーラの言葉に苦笑する。


「ボコボコにする目的はないけどさ。……でも、エリクくんみたいな良い男と戦いたいって思うのは、普通のことじゃないかな?」

「それも止めてください」


 ガブリエルも戟を構える。

 ミリヤムは戦闘種族のアマゾネスとエリクが戦うことも止めてほしかった。


「あのさー」


 可愛らしい声が届く。

 それは、デボラのものだった。


「エリクは僕のものなんだよね。そこのところ、理解してくれないと困るなー」

「エリクはあなたのものじゃありません」


 デボラの周囲には魔力の風が巻き起こる。

 ミリヤムは忌々しそうに舌打ちをした。


「じゃあ、奪いとらないとね。アタイたちはアマゾネスなんだから」

「お姉ちゃん、加勢するよー」

「ふ、増えた……」


 デボラの前に立ちはだかるのは、カタリーナとアンネである。

 知らないうちにアマゾネス三人がエリクに好意的になっていて、ミリヤムは反吐が出そうだ。


「まあ、軽く揉んであげるよ、騎士ちゃん」

「断罪します」


 ガブリエルとエレオノーラの激突を皮切りに、デボラとアンネ、カタリーナが衝突するのであった。


「はぁ……皆死ねばいいのに……」


 ミリヤムはエリクの頭を膝に乗せ、髪を撫でながらそんなことを呟くのであった。




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