8 終わりの鐘が鳴る-3
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スヴェンソンと朧月夜の星術連携は秀逸であった。スミソニアの懸命なサポートもあって、星術攻撃がプレアデスの喉元へ達するまでにさほど時間は掛からなかった。ファラ・アウローラとロリエルがユアノン兵を薙ぎ倒している傍らで、遂に姉弟と朧月夜が肩で息するプレアデスを取り囲んだ。
守護天使は召喚主の危機を認識してはいたのだが、対峙する鳳凰が満身創痍ながら全身全霊で掛かってくるため、意識を割くことが出来ないでいた。<アラヤシキ>も同様で、しつこく食い下がるプラズマとシャマスを完全に引き剥がすことは出来ず、プレアデスの擁護に回れていなかった。
クナイは亜獣をさばきつつも両戦場に気を配っており、守護天使と神獣をそう長い時間押し止めては置けないものと正しく把握していた。それ故、姉弟に急ぐよう促したかったものだが、そこは二人のプレアデスに対する心情を慮り、口に出しては何も言わなかった。
(スミアよ・・・・・・もう時間はないぞ。幻獣か剣導の何れか片方でも倒れれば、この戦域で勝ち越すことは叶わなくなる。俺はお前さえ連れて逃げることが出来れば問題ないが、お前はそうではないのだろう?納得がいくまで考え抜いて良い。姉弟で転向しても良い。それで悔いを残さぬのであれば、俺は俺の信念に従ってお前に尽くし続ける。最後には、お前を妻とする。それだけだ)
そのように誓いを再認した折り、クナイは背中に鈍い衝撃を感じた。振り返ると、亜獣・滅騎士の姿が至近にあり、不意の斧撃を浴びたものと理解するまでに少しの時間を要した。
「この・・・・・・ッ!」
クナイは剣を力任せに横に払い、滅騎士の甲冑を砕いた。崩壊した甲冑の隙間から星力が漏れ出し、滅騎士はそのまま滅んだ。
地面に勢いよく流れ落ちる青い血を眺め、クナイは背に負った傷が浅くないものと察した。そして、痛みによって自身の集中が散漫になる様子を肌で感じていた。亜獣は未だ六匹が戦闘距離に屯していて、ここで体を休めるわけにはいかなかった。クナイは憤怒の形相をして剣を下段に構え、残る亜獣の攻撃を待った。
「プレアデス様・・・・・・速やかに、降伏願います。私とスヴェンに、あなたを害する意思などありません。どうかシンディの戦闘状態をお解きいただき、<アラヤシキ>討伐に力をお貸しください」
スミソニアは鋼体術を解除し、決して居丈高にならぬよう心を落ち着かせて言った。隣に立つスヴェンソンは結界剣を常時起動したままで、朧月夜に至ってはいつでも星術攻撃へと移れる態勢にあった。客観的に見て、プレアデスの敗北は必至と言えた。
プレアデスは、部下たるユアノン兵が見知らぬ女騎士に制圧されつつある光景を眺め、重々しく息を吐いた。そして天を仰ぐと、余すところなく悔しさを滲ませた声色で告げた。
「・・・・・・儂の負け、なのであろうな。兵力こそ用意出来たが、お前たちのように優秀な手駒を失った陣容では是非もない。スミアよ、守護天使をどうするつもりだ?アレなくして、世界を魔獣の脅威から解放する手立てはないぞ?」
「シンディではなく、私をお使い下さい。それであれば、異存はありません」
スミソニアの言に素早く反応したのはスヴェンソンで、「・・・・・・そんなことは、絶対にさせない」と一人呟いた。朧月夜はそんな姉弟の様子を観察しながら、プレアデスの次なる出方を待った。
(下手に時間稼ぎに出るようなら、私が止めを刺すしかないですね)
「儂だけの力では、再び<始祖擬体>を作り出すことなど無理だ。必要とされる星術の技術レベルや星力の総量を、今のブランケットやユアノンでは賄うことが出来ぬ。ジキルもそうだったであろうが、いくら大国と言えど、アレは<アラヤシキ>の助力無しには辿り着けぬ領域のもの。ここで守護天使を失えば、儂の大望は露と消える」
「プレアデス様・・・・・・」
「事実上、賢者プレアデスの最期だ。儂は自分が為すべきと思ったことを為した。その上で、お前たちに阻止された。悔しくはあるが、この運命を受け入れようぞ」
プレアデスが敗北宣言とも取れる言葉を口にし、スミソニアやスヴェンソンはひとまず安堵した。消沈気味のプレアデスは、星術で守護天使と意識を繋げ、攻撃対象を変更するよう申し伝えた。
『ユアノンの守護天使よ。その者らに対する手出しを控えよ。その上で、召喚主として命ずる。神獣<アラヤシキ>を打倒せよ』
『・・・・・・拒否します。私は守護天使。召喚時の規程と照合した結果、<アラヤシキ>は私の敵ではないと判断します』
『何だと?儂の命令を聞けないと言うか?守護天使よ、何れユアノンに仇為す神獣を排除せよ!』
『拒否します』
『我は<アラヤシキ>。守護天使よ。裏切り者たるプレアデスを含め、この場に居合わせし全ての亜人と人間、それに守護者を速やかに抹殺せよ。これは規程に則りし優先命令なり』
プレアデスと守護天使とで交わしている星術会話に、突如<アラヤシキ>の意識が混線してきた。プレアデスは驚くばかりで、おまけに意識が繋がっていることから、守護天使が<アラヤシキ>の命令を受諾する意向を持つと知った。
(まさか・・・・・・守護天使の召喚時に、特殊な規則を仕込まれたとでも言うのか?)
『承知しました。・・・・・・この場の亜人と人間と守護者を、速やかに抹殺します』
『待てッ!守護天使よ!シンディよ!儂の命令を聞け!儂はプレアデスぞ!?そなたの召喚主ぞ?』
たちまちに守護天使の星術攻撃が変化を見せ、対決している鳳凰へと向けられるだけでなく、広範囲を標的とした光撃が拡散された。鳳凰は対抗し、一定数の光線や光球を打ち消したものだが、それでも百に迫る攻撃がアースヴィレジに降り注いだ。まるで絨毯爆撃のような無慈悲な破壊は、亜獣やユアノン兵をも巻き込んだ。
「姉上!プレアデス様!僕の傍に!」
上空へ向けて結界剣を構えたスヴェンソンが声を張り上げた。守護天使の無差別攻撃によって直ちに生命力や星力が散華させられ、空かさず朧月夜がスヴェンソンの防御下へと逃げ込んできた。
『守護天使。まずは裏切り者から始末せよ』
『承知しました・・・・・・』
宙に浮く守護天使が分身したかと思うと、鳳凰を幻惑して素通りし、考えられない高速度でプレアデスに迫った。その動きは鳳凰や朧月夜が追えるような代物ではなく、守護天使が手中へと具象化させた光槍の穂先が、遮るものも無しにプレアデスの胸元へ吸い込まれようとした。
超絶反応を示したのはスヴェンソンで、体ごと飛び込むようにして、守護天使が放つ光槍の先に結界剣を合わせた。それとほぼ同じタイミングで、鋼体術で自らを強化させたスミソニアもプレアデスの前へと割り込んだ。
正しく、プレアデスと強い絆で結ばれた姉弟であるからこそ実現した奇蹟と言えた。
「シンディ!」
スヴェンソンが叫んだ。守護天使の槍撃は結界剣を突き破り、さらにはプレアデスを護るスミソニアの胸をも刺し貫いた。スミソニアは盛大に喀血し、それでも己が胸部を貫いた光槍を両の手でしっかりと握り締め、それ以上の進攻を許すまじとした。
姉弟の献身は実り、光槍の穂先がプレアデスまで届くことはなかった。
「姉上!?姉上!姉上ッ!」
「スミア!?」
「・・・・・・シンディ。もう止めてください・・・・・・。貴女を、ここまで追い込んでしまったのは、あの日、ブランケット市を彷徨った、私たちの、せい・・・・・・。私たちが、プレアデス様に、拾われ、なければ・・・・・・巻き込まずに・・・・・・。・・・・・・私の、命でもって・・・・・・全てを、償わせて・・・・・・ください・・・・・・。・・・・・・私の・・・・・・かわいい、シンディ・・・・・・」
守護天使は、自分の槍に貫かれたスミソニアの悲痛な呼び掛けを受けて眉を顰めた。そして、食い入るように目の前の姉弟を見つめた。スヴェンソンとプレアデスは絶望の面相で立ち尽くしており、朧月夜だけが額に汗して星術の予備動作に入っていた。
<アラヤシキ>は守護天使の不調を鋭敏に嗅ぎ取っており、シャマス・セイントとプラズマを黒翼による打撃で強引に弾き飛ばすと、すぐさまプレアデスらに引導を渡すべく疾駆した。しかし、獰猛なる<アラヤシキ>の前には鳳凰が立ち塞がり、細剣をその身で受けて進撃を押し止めた。
『・・・・・・今、良いところなんだから。外野の手出しは、無用だよ』
『死に損ないめ。退くんだ!』
<アラヤシキ>の重い剣撃は<鳳凰>の翼や胸を深く斬り裂き、負わせた剣傷から星力が煙のように漏れ出した。それでも鳳凰は鬼気迫る形相で神獣の前に壁となって立ちはだかり、スヴェンソンらへ近付かせまいとした。
守護天使の手から光槍が消滅したのを受け、スミソニアはよろめきながら一歩二歩と前に踏み出した。その度に、青い血がばしゃばしゃと地面を叩いた。スミソニアは、そうして呆然と立つ守護天使に血だらけの手を差し伸べると、頬の表面を優しく撫でてやった。
「ああ、シンディ・・・・・・シンディ。弟を、愛してくれて、ありがとう。・・・・・・そして、ごめん、なさ、い・・・・・・」
『・・・・・・スミア?・・・・・・私は・・・・・・歌姫?スミア!?スミア!』
「スヴェン・・・・・・」
糸が切れたように、力を失ったスミソニアががくんと崩れ掛けたところを、守護天使がしっかり抱き留めた。掌中のスミソニアが、生命力を完全に失って果てたと分かり、守護天使の意識は急激に押し寄せて来た哀しみの濁流に呑まれた。プレアデスは両の膝を大地につき、半ば放心状態で「スミア・・・・・・」とだけ呟いた。
スヴェンソンは、自分の心の中で何か大事なものが壊れる音を聞いた。それは<光神>神殿の鐘の音と似通っているかのように感じられた。ともすると、終末思想に聞こえる、世界が終焉を迎える時に天使によって奏でられるという終わりの鐘なのではないかとも思われた。
唯一、その場で野心を失わずに動けたのは朧月夜であった。朧月夜は準備していた必殺の真空剣を、この絶好のタイミングで守護天使の首へ放たんとした。
「お前はああああああああああああああああああッ!」
スヴェンソンは神懸かり的な直感で朧月夜の攻撃意図を察知すると、盾モードのままの結界剣で力任せに殴り付けた。顔面を思い切り打たれた朧月夜は壮大に吹き飛び、地面に落下するやその衝撃で痙攣に見舞われた。
(・・・・・・お前等なんかに、シンディの命まで持っていかれてたまるかよッ!)
だが、スヴェンソンの意識が朧月夜を向いたことで、次なる一矢には誰も注意を払うことが出来なかった。無防備となっている守護天使の首を、一陣の風となり吹き抜けたファラの剣が正確に断ち斬った。
刎ねられた守護天使の首はいともあっさり地を転がり、それでも肉体はスミソニアを抱えたまま微動だにしなかった。斬撃で出来た切断面からは、花びらが風で舞い散るが如くふんわりと、青白色に光る星力の粒子が立ち昇った。
「シンディ・・・・・・」
朧月夜を殴り倒した姿勢のまま固まっているスヴェンソンが恋人の名を呼ばうと、それに反応した守護天使の体がゆっくりと歩みを進めた。守護天使の体は、スミソニアの遺体をそっとスヴェンソンへと差し出すと、そのまま言葉を残すこともなく星力に分解されて一切が消失した。
スヴェンソンは、まだ温もりがある姉の遺体を抱き締めつつ、目の前で儚くも失われていったシンディの姿を瞳に焼き付けた。プレアデスは弟子に倣ってか、濁った瞳でシンディの消えた空間をじっと眺めていた。
ファラは状況を正しく認識しており、この戦場における残る脅威を<アラヤシキ>ただ一つと定めた。そして、鳳凰を散々に打ち据えた神獣へと飛び掛かった。<アラヤシキ>は抵抗の余力を無くした鳳凰を黒翼で放り捨てると、突撃して来る<火の騎士>を迎え撃った。
「貴様も滅べ!」
ファラが気合いの乗った斬撃を放つも、<アラヤシキ>は細剣で軽々と受けて見せた。だが、当の<アラヤシキ>は貴族然とした青年の面に、凄みすら窺わせる怒りの表情を作っていた。<アラヤシキ>から発せられる殺気はファラも寒気を覚える程に研ぎ澄まされており、ここに来てはじめて神獣の生の感情が剥き出しになったものと感じられた。
『・・・・・・認める他にない。私の計画を立て続けに邪魔してくれた、魔族とかいうゴミの存在価値を。・・・・・・ミズ。この怒り、君が一身に受け止めてくれるのかね?』
ファラは斬り合いを回避して大きく飛び退き、全身から夥しい量の星力を放出させつつある<アラヤシキ>と距離をとった。
『<始祖擬体>の精製に必要な条件を満たした大国は、よもや全てが力を削がれた。私がかの力を欲しいままにするという計画の達成は、これで著しい遅れを見ような。フフ・・・・・・』
「可笑しいのはこちらだ。神獣の企みを潰すことが出来た。まさしく上々な運びだ」
『・・・・・・黙れ。君たちをここで皆殺しにしないと、もはや私の気が済まない。たとえ、星力の復活に数年を要しようともな!』
<アラヤシキ>は黒翼を分裂させて天高く、全方位に渡って大々的に広げ、ファラへの威圧を強めた。そして細剣の剣先は大竜の爪が如く四つ叉に裂かれ、柄が物理的に伸ばされた。それは地獄の悪魔が持つとされる矛が如きグロテスクな形態へと変じたもので、危険な香りを漂わせた。<アラヤシキ>が発する星力の凶悪さは格段に増し、地面伝いにアースヴィレジ全域を細かく震動させた。
ファラは精一杯の星力を火星剣に這わせると、迫る<アラヤシキ>との激突に備えた。そこへ、神獣にも負けぬ迫力を伴ったスヴェンソンが歩み寄った。
「・・・・・・恨み節なら、後にしてもらうぞ」
ファラのその言葉に何ら反応を見せず、スヴェンソンは憎しみだけが込められた強靭な視線を<アラヤシキ>にぶつけた。
「貴様が余計なことをしなければ!プレアデス様が胡散臭い実験に手を出すことはなかった!シンディだって巻き込まれずに済んだ!そして・・・・・・姉上だって、こんなことに・・・・・・ならずに、済んだッ!」
『私が手を貸さねば、ユアノンはデスペナルティの大兵力を前に屈しただろう。プレアデスも歌姫も、どうせ戦火に倒れたことさ。結末は同じだ、ミスター』
「・・・・・・この腕を、覚えているな?全力でやってやる。ここで僕の腕や体が朽ち果てようと、例え魂まで燃やし尽くされようと、貴様だけは殺す!姉上の仇・・・・・・僕がこの手で、討ち果たしてくれる!」
スヴェンソンの哀しみを湛えた怒声が、倒れ掛けた仲間たちの心に深く響いた。星力を半ば失った鳳凰が立ち上がり、プラズマもまた剣を手に合流した。朧月夜はずたぼろのシャマス・セイントへと肩を貸し、二人一組で神獣を囲む輪に加わった。そして最後に、プレアデスがその陣列に身を連ねた。
「・・・・・・プレアデス様」
「スヴェンよ。赦してくれとは言わん。儂とてスミアとお前をこの手にかけるつもりでいた。・・・・・・だがな、それは儂でなければ駄目だったんだ。お前たちを愛した儂だからこそ、その役目を担えた。スミアが儂以外の者の手にかかった以上、奸計を仕掛けてくれた<アラヤシキ>には相応の礼をくれてやらねばな」
スヴェンソンは<アラヤシキ>を囲む手負いの仲間たちを一通り眺め、そこに重要な人物が欠けていることに気付いた。そんなスヴェンソンの挙動から事情を察したプラズマが、静かな口調で回答を寄せた。
「クナイ氏は戦死された。亜獣どもと斬り結んでの、立派な最期だったと見える。・・・・・・その亜獣もどうやら、<始祖擬体>の消滅と共に消え失せたようだ」
「・・・・・・そうですか。では、姉上の彼岸へのお供だけは、クナイさんにお任せするとします。・・・・・・本当に、赦さない。・・・・・・貴様だけはあッ!」
スヴェンソンの左腕から膨大な量の星力が迸り、巨大な竜巻を形成した。その星術が戦端を開き、スヴェンソンと仲間たちは一挙に<アラヤシキ>へ殺到した。スヴェンソンは防御を度外視した態勢で、竜巻をはじめとする極大星術を次々に編み出しては叩きつけた。対する<アラヤシキ>は同規模の星力で力場を作り、それをぶつけることで抗戦した。ファラやプラズマは果敢に斬り込むも、その度に黒翼や四つ叉の矛に跳ね返された。プレアデスは、<アラヤシキ>の反撃から仲間たちを守るべく防御結界の構築に終始した。朧月夜とシャマスは、<アラヤシキ>が都度召喚する亜獣霊獣の類を処理することに専念した。鳳凰は、上空からの急降下攻撃を繰り返すことで<アラヤシキ>への牽制に努めたが、カウンターパンチを浴びるごとにその動きは鈍っていった。
上位の神獣であると豪語する<アラヤシキ>が本気で戦闘に及ぶと、その力はスヴェンソンらの予想の範疇を大きく逸脱しており、一同がいくら攻め立てても攻略の糸口すら掴めなかった。総力戦は徒にスヴェンソンらの疲弊を招き、さらには巻き込まれたユアノン軍もただでは済まなかった。
アースヴィレジは見るも無惨に破壊された。それ以前にユアノン軍によって魔族が駆逐されてはいたが、建物や地形は跡形もなくなる程に蹂躙され、ただ魔獣の躯が散らす星力とユアノン軍が流す血に塗れていった。
苦境の渦中にあって、プラズマは自身の講じていた策がいよいよ成就すると知り、それにすがる思いで声を張り上げた。
「来た!グレングラン、こっちを援護しろ!」
プラズマの視線の先、遙か上空の彼方より鳳凰の傍をかすめるようにして、筋骨逞しい飛竜が勇姿を現した。グレングランと呼ばれた成竜は、びっしりと牙が生え揃った大口を開けるなり、上空から燃え盛る業火のブレスを吐き落とした。<アラヤシキ>は黒翼をシールドとしてブレス攻撃を防いで見せるが、そこが起点となって、ファラとプラズマの剣撃が勢いを増した。
事情を知るノンノ・ファンタズムこと鳳凰やファラ以外の者たちは、急な飛竜の加勢を怪訝に思ったものだが、味方が増える分には構わないと割り切り士気を高めた。
ロリエルが撃つ遠距離からの雷撃にタイミングを合わせる形で、ファラの炎の剣が叩き込まれた。<アラヤシキ>は四つ叉の矛で受けるが、そこに疾風の如きプラズマの剣が続いた。
「そこッ!」
<アラヤシキ>は、竜のブレスを防ぐ為に黒翼を広げていたので、プラズマの剣に対するに再び矛を振るった。それによって、ファラの次なる連続技への対応が遅れ、遂にダメージを負う羽目になる。
「死ね!」
ファラの懇親の一撃が<アラヤシキ>の腹部を薙いだ。しかし、<アラヤシキ>はそれでも怯むことなく矛を一閃し、ファラとプラズマをいっぺんに撃ち払った。その上で、黒翼を延伸させて竜と鳳凰へ刺突を見舞い、一気に反転攻勢へと転じた。ここで大きく隙を見せたのはプラズマで、ダメージの蓄積が響いてか、倒されてから起き上がるまでに少しの時間を要した。そこへ、黒翼の一部が枝分かれし、勢いよく襲い掛かった。
(しまった!この態勢では、弾けん!?)
「光よッ!」
スヴェンソンが咄嗟に発した星術光撃は、まさにプラズマに命中する寸前であった黒翼の尖端部分を吹き飛ばした。それでもプラズマを救えた代償として、<アラヤシキ>に新たな星術を起動する時間を与えた。
<アラヤシキ>が準備に入った星術から危険な匂いを感じ取り、プレアデスが皆に警鐘を鳴らした。
「大量破壊の星術が来るぞ!各自、星術抵抗を準備せよ!」
プレアデスが注意を喚起した直後、<アラヤシキ>の星術が完成を見た。天より流星が如く星力の雨が降り注ぎ、その一線・一滴が莫大な威力を伴っていた。
「ぐおッ!?」
プレアデスは、味方全員を守る星術障壁に力を割いていたことで、己が防御が手薄となっていた。そのせいで<アラヤシキ>の流星雨に抵抗することが叶わず、全身を貫かれた。
「プレアデス様!?」
スヴェンソンは結界剣を掲げて堪え忍びつつ、倒れたプレアデスの様子を観察した。師は至る所から出血していたが、スヴェンソンの目には致命傷に至っていないと映った。それでも、治療を急がねば直ちに生存が危うくなるものと推測できた。
(しかし、この状況ではとても治療なんて・・・・・・!あまりにも、強過ぎる。これが伝説の神獣だというのか・・・・・・。<光神>や<星神>はどうして、こうまで無慈悲な実力差がある敵を、世界に放置し続ける?)
心中で嘆くスヴェンソンをよそに、<アラヤシキ>は敵があらかた静かになった頃合いを見計らって高らかに宣言した。
『レディース・アンド・ジェントルメン。これで終わりかね?もう策が尽きたのだとしたら、君たちはここから先、嬲られるだけだが』
星術抵抗を無事に成功させたファラは依然、火星剣を星力で燃やして戦意を示すが、彼女に続ける者は周囲になかった。プレアデスとシャマスは地に伏し、朧月夜とプラズマは息も絶え絶えどうにか立っているといった有様であった。中空で健在な鳳凰と飛竜グレングランも、先ほどの流星雨で深手を負っており、そうした仲間の様子を具に眺めていたスヴェンソンは、もはや敗北の時は近いと半ば諦め掛けていた。
(姉上。クナイさん。それにシンディ・・・・・・。僕は、皆の仇を討てなかった。弱い僕を許して欲しい。僕なんかじゃ、世界の敵を打ち払うには不相応だったんだ・・・・・・)
『・・・・・・そんなことはない。スヴェン、まだ諦めないで?私が力を貸してあげるから』
<アラヤシキ>が戦闘を続行せんとしたその時、スヴェンソンは、頭の中にシンディの懐かしい声が響いたように感じていた。そして、それは錯覚などではなかった。




