第5話「第二の魔法」
冒険者は一斉にギルドから飛び出した。
入ってきた大男や街の住人を心配して、というよりは我先に獲物を得ようとしている感じだ。
蹲っている大男には見向きもせず中には踏んづけてる奴も居る。
冒険者だろうと職業であり金を得る為の手段でしかないということは分かるが、道徳性まで犠牲にすることはないと思うのだが…………
まぁ、大男が蹲っている原因はディゲスではなく俺なので街の方に向かっても何もいないだろう。
自分に都合が良いように進むのは大好きだ。冒険者がいない今のうちにディゲスが出るとかいう場所まで行ってみよう。上手くいけば大金がゲット出来るぞ……。
俺がゲスな事を考えていると、ルチアが真剣な面持ちで走り出した。
冒険者たちに触発されたのだろうか、たった数時間ではあるが初めて彼女の真剣な表情を見た気がする。
「大丈夫ですか!?」
ルチアは大男の横にしゃがみこんで尋ねた。
走り出したのは傷ついた大男を見つけたから……なのか。
自分の卑屈な考え方が嫌になってきた……。ルチアといると殺菌されてしまいそうだ……。
「……ああ、血は出てねえしな」
そう言いながらも大男の表情は歯を食いしばったり、眼を強く瞑ったり苦痛一色だ。
見た目の割に痛みに弱いのかも知れない。
それでもギルドに危険が迫っている事を身体を引きずりながらも伝えに来た事は純粋にすごいと思う。
「すぐに回復魔法が使える人を探してきます! カルマさん! それまで、この方をお願いします!」
「待ちなッッ!! アタシがやる」
ルチアが俺に大男の看病をまかせ、街へ向かおうとしたその時、ディゲスについての説明をしていた迫力のある女の声が後ろから聞こえてきた。
俺は声のデカさに驚き、身体が固まった。
カツ、カツ、カツとヒールの音が傍にまで迫ってくる。
目だけを女が歩いてくる方向に向けていると、まずツンッと通っている鼻が視界に入ってきた。
それから豊かな胸、赤いドレス、毛先がゆるくカールしている。
パレードで見た女だった。
「ミカッッ」
女が短くそう言い切ると大男が倒れ込んだ。
少し離れた位置に居たルチアが大男の元へと戻ってくる。
「眠ってるだけだ」
そんなルチアに女はこう言い切り、それよりと続ける。
「特に外傷はなし。 これはディゲスの仕業じゃあないね。 ディゲスに襲われて倒れたんだとしたら腕の一二本は食われてないとおかしい」
淡々と言い切る女の声の鋭さに内心ビクついた。なるべく外には出さないように気をつけたが……。
「ディゲスはまだ、街に来ちゃ居ない! このままじゃ本当に街に入られちまうッ!! お前ら手伝いな!!」
女の目的は犯人探しではなかったので少し安心した。
このまま犯人が俺だという秘密が露呈しないことを祈るばかりである。
色々と思うことはあるが……一応俺に都合良くは進んでいるし問題はない。
俺たちはギルドを出て街とは逆の森へと向かった。