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第4話「割の良い仕事」

 

 暑い日照りの中を二人で歩き続けていると

 遠くから、やたらうるさい騒ぎ声が聞こえてきた。

 とっくに収穫祭の会場がある街の中心からは外れているのにも関わらずだ。

 収穫祭の会場が、離れていく俺たちに着いてきたなんて事はあるわけない。

 そもそも聴こえてくるのは前方からで会場とは逆方向である。

 おそらくルチアが目当てにしているギルドからきっと発せられているのだろうと俺は推測した。


「もう少しみたいですね!」


 ルチアが胸の前で小さく拳を握った。

 その目は期待に満ち溢れているかのように輝いている。

 徐々に俺の腕を引っ張るルチアの力が強くなっていき、最後には

 走り出した。

 俺も付き合わされバタバタ走る。

 元気のいい飼い犬を手に入れたみたいだ……。

 綺麗な子ってのはやっぱり昔から言われているように一癖も二癖もあるんだな……。

 まぁ、それ相応の魅力を持ち合わせているからこそ許されているんだろう。



「見えてきました!」


 ルチアが嬉しそうな声でそう言った。

 巨大というわけではないがかなり大きい一回建ての建物がそうなんだろう。

 屋根は赤いペンキで塗られており、使われているレンガも一般的なものよりかなり赤く作られている。

 今まで見てきた建物とは比べ物にならないほど派手な建物からは台風が一箇所にとどまって猛威を奮っているような騒ぎ声が発せられている。

 煩いのが嫌いな俺はとてもじゃないがそこに相容れることはできないだろう。

 今からでも、家に帰りたい。


 そんな俺の思いにも気づかずこの美少女はドンドン進んでいき、あっという間にギルドの出入り口に着いてしまった。

 しかし、入ることはできない。

 酒樽を抱えた山のような男が入口を塞いでいるのだ。


「気持ちよさそうですね~」

 ルチアが男の前に立ち止まりそう言った。

 この男、傍迷惑な事にギルドの入口で寝ているのだ。

 昔、プレイしたゲームでこんなイベントあった気がする…………。


「……えと、どうするんです?」


「そうですね、お腹をお借りしましょう!」


 ルチアが男の腹の上を闊歩し、ドアを開けた。

 この娘は軽いから大丈夫だったんだろうが問題は俺だ。

 横にも縦にも3mはありそうな大男であろうと男が乗ったら流石に堪えるだろう。

 踏まずに行く方法を考えよう。

 ____________

 __________

 ________


 よし行くぞ!!と俺は大男の前で足を踏み切った。

 走り幅跳び、後にも先にもこれ以外のアイデアをおもいつくことはなかったのだ。


 上から見ると大男の身体は非常にデカかった。

 公園の砂場の端から端までくらいのサイズだろう。

 だが、この調子なら……そう思ったとき、呆気なく俺の足は大男の鳩尾に突き刺さってしまった。

 バランスを崩した訳ではなく、単に飛距離がでなかったのだ…………。

 その瞬間大男が大きな叫びを上げた。

 俺は見られる事がないようにもう一度大男の上で足を踏み切るとルチアが開けた扉の中に飛び込み、速やかに扉を閉めた。


「今、悲鳴が!」とギルドの中を入口から伺っていたルチアが振り返る。


「……気のせいです」と俺はルチアの腰に手を回して後ろを振り返ることもなくギルドの集団の中に飛び込んだ。


 割り込んできた俺たちをギルドの中にいた奴らが睨んでいた気がするが気にしない事にした。


 ここ数時間でメンタルが物凄く鍛えられた気がする。


「時間だよッッッ!!」


 集団の中に迫力のある女の声が飛び込んできた。

 たった今、とてもとても長い道のりを経てギルドに来たばかりだというのに休む間もない。


「今、この場に居る野郎ども全員を定員とし、ディゲス狩りを開始する! 一匹につき50ヴェニュスだ! お前ら、このチャンスを逃すんじゃないよッッッ!!!!!!!!」


 ヴェニュス…………この町の金か……少し名前が安直すぎる気もするが……。

 というかディゲスってなんだよ……。


「カルマさん! 頑張りましょうね!!」


 ルチアが横に居る俺に向かって話しかけてくる。

 頑張りたくはない…………だが、とりあえず頷いた。


「私、このイベントのことをロベルトさんに聞いた時から参加することをとても焦がれていたんです!」


 ロベルトはなんて余計なことをしてくれたのだろう。

 だからルチアは急いでいたんだな…………。

 そもそも……


「更にッッッ!!!」


 女の声が俺の思考を遮った。


「卵を発見、及び破壊した者には10000ヴェニュスを支払うッッッ!!!!!」



 ディゲスが一匹50ヴェニュスで、その200倍か…………

 確かに、孵化する前に退治出来れば楽だとは思うが、どうして卵にそんな値段が付いているのだろう。


「おいおいおい、知らないのか?仕方がない教えてやる。

 ディゲスは一つの卵から何百匹も生まれてくるんだ。街の近くでそんなのが生まれたら、国民に被害が及ぶのは避けられないだろ? その驚異を事前に退けるのが俺たちの役割ってわけだ!」


 俺以外に疑問に思った奴がいたらしい。

 この話を聞き、俺は安堵した。

 一度に何匹も子を産むのは、弱い生物が強い生物に狩られても数匹は生き延びれるように遺伝子が働きかけた結果だ。

 つまり、ディゲスという生物はゴキブリみたいなものなんだろう。

 そんな弱っちい生物を倒すだけで当分の生活費が稼げる…………なんてうまい話なんだ…………。


「おい!!!!!みんな来てくれ!!!!!ディゲスが街に入ってきた!!!!!」




 乱暴にギルドの扉を開けて、大男が鬼気迫る表情で叫んだ。



 ああ…………この時油断さえしなければ…………



 悔やんでも悔やみきれない。


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