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記憶の贈り物  作者: カワウソ
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続きの始まり

僕は驚きを隠せなかった。

「君があの時の女の子だったんだ」



「え~、今日から本校で皆さんと一緒に勉強する仲間が増えることになりました。え~、本来は皆さんと一緒に本来に入学する予定でしたが、え~、都合が合わず、え~、約1ヶ月間遅れて本校に来ることになりました。え~、それでは登場してもらいましょう、え~、尾崎蒼也くんです。え~、どうぞ」

 俺は校長に手招きされ体育館の舞台裏から出て舞台の真ん中に行った。

 ザワザワ、ヒソヒソ、ガヤガヤとたくさんの音や声が聞こえる。

「今日からこの学校で皆さんと一緒に勉強することになりました、尾崎蒼也です。よろしくお願いします」

 言おうか迷っていたことを校長に言われてしまったから名前だけの自己紹介になった。でも、校長が何も言わずにすぐ俺を読んだとしても、言ったかはわからない。

 パチパチと拍手が聞こえてきた。それに、ちょけている人たちからは口笛や指笛といったものまで聞こえてきた。

 これは俺だけのための言葉じゃない。俺に向けられた言葉ではあるがここに立っていたのが俺じゃなくても彼らは拍手をしただろうし、口笛や指笛を吹いただろう。だから俺はそれを聴かない。

 いつからだろう、こんなにも物事や言葉に意味が必要になったのは。そして、自分だけのためのものを探すようになったのは。

「え~、では尾崎くん、君も皆と混じって、え~、話を聞いて下さい。え~、尾崎くんは1年2組なので、え~、端から2列目のところに座って下さい。え~、皆さん、尾崎くんは今日この学校に来たばかりなのでえ~、色々教えてあげて下さい。え~、では次の話ですが……」

 端といっても右か左か、後ろか前かわからなかったからウロウロしていると1年2組の担任の先生らしき人が手招きしていたのでそちらへ走った。

「尾崎くん、この列の前から4人目のところに座ってくれるかな」

 後ろを探すとちょうど4人目のところに隙間があった。そして、その後ろの後ろに沙姫が座っていた。

「あっ」

それを見て沙姫が笑いながら俺が座る隙間を指さした。

「そこだよ~」

「あっうん。ありがとう」

会話とも呼べない会話をして俺はそこに座った。そして校長の話を聞いた。


 ───曇り空の下、ガヤガヤ、ザワザワ、ゴンゴン、コツコツと聞いたことがあるようで、聴いたことがない音を駅前の商店街で聞きながら歩いていた。別にどこかを目指しているわけでもない。

「ねぇねぇ、一緒に行こうよ」

 誰かを脅しているような声がした。そちらを見た。

「ごめんなさい。今日は用事があって」

 同い年くらいの女の子が上下スウェット姿の男3人組に囲まれていた。

「用事ぐらいいいやろ。一緒に来た方が楽しいって」

「ほんとにごめんなさい」

 ふと、その時、その女の子と目が合った。助けを求めているようだった。

「君、いい加減いうこと聞いた方がいいよ」

 1人の男が怒った声でそう言い、手を振り上げた。でも、俺がその手を後ろから掴んだ。

「いい加減にするのはどっちだよ」

 男達がこちらを向いた。

「何だよ、お前」

 1人の男が俺を殴ろうとしたとき、彼女がその男をもう1人の男の方へ強く押した。

「走って!」

 俺は掴んでいた男を倒れている2人の方へ突き飛ばして彼女について走った。路地裏を通ったり、道路を横切ったり、とにかく走った。

 そして、海の見える大きな坂の途中で止まった。

「ハァハァハァ」

 かなりの距離を走ったから息が切れた。横を見ると彼女も息を切らしている。

「ハァハァハァ」

 そして、息が整うのを待ってから彼女は言った。

「ありがとう。助けてくれて」

「こちらこそ助かったよ」

 そう言うと彼女は笑った。その時初めて彼女の顔をよく見た。結構かわいいと思う。それと、なぜが見たことあるとような気がする。でも、そんなはずがない。きっと気のせいだ。

「私、加藤沙姫っていうの。君は?」

「俺は尾崎蒼也。よろしく、加藤さん」

「今日の空みたいでいいね。それと、沙姫でいいよ、尾崎くん」

「今日は曇りだけどね。それと、蒼也でいいよ」

 沙姫が手を出してきた。それが握手と気付くのに少し時間がかかった。

「蒼也って前からいた?」

「いや、いなかった。」

「うーんなんか見たことあるとような。」

「そうかな。前にここに住んでたけど10年ぐらい前だよ」

「そうなんだ。でも、これからはここに住むってこと?」

「うん。そうだよ」

「じゃあ転校生ってことだよね。何年生?」

「1年生。君は?」

「一緒、1年生。同じクラスだったらいいのにね」

「うん。じゃあまた明後日」

「じゃっあね~」

 そう言って彼女は帰っていった。俺がここに住んでいたのはかなり前なのにそれをかすかに覚えていたのだろうか。いや、さすがにそれはないだろう。

 今日は5月の初旬、曇り、気温22度。

 空は晴れ渡り、少し汗をかいた。───


「え~、これで集会を終わります。え~、担任の先生の指示に従って教室に帰って下さい」

 やっと終わった。周りを見ると、欠伸をしている人や伸びをしている人たちがいる。先生が1年2組の列の前に立った。

「じゃあ皆立って。体育館から出て上靴に履き替えてね。あっそうだ、誰か尾崎くんを教室まで案内してあげてね」

 体育館から出ると数人のクラスメートが声をかけてきた。

「じゃあ蒼也教室に帰るから一緒に来てねー」

 これは沙姫だ。すると周りの人たちが聞いてきた。

「なぁ、何で加藤と知り合いなん?」

「何で、入学遅れたん?」

「君何部入るん?決まってへんかったらラグビー部来いよ!いきなりレギュラーやで」

「おい何どさくさに紛れて部員勧誘してんねん!ラグビー部そもそも3人で部員足りひんだけやろ。それよりバスケ部入らん?ウチのバスケ部結構強いで!」

「お前も勧誘してるやろ!やっぱ部活は陸上部やんな!」

「あんたも勧誘やんか。ってことでバド部入らへん?沙姫も入ってんで」

 と、色々なことを言われたがほとんどが部活の勧誘だった。沙姫ってバドミントン部だったのか。

「ちょっと皆後ろ来てるから行こう。それと、蒼也、バド部は女子だけだよ」

 沙姫がそう言ったから皆も質問攻めをやめ教室に向かった。さっきの女子は本気で俺を女バド部に誘ってたのか?

 1年2組の教室は体育館から3つ目の校舎で2階の端から2つ目の教室だった。教室に行くまでには中庭、池、そのすぐ横にある大木や図書館があり、それらに俺の目は引きつけられた。教室に入るとまず目に入ったのは、「祝!!転入生」の文字だった。それは黒板に大きく書かれていて、黄色や赤色のチョークで彩られていた。黒板のチョークを置く所には黄色と赤色のチョークが置かれていて、先に急いで教室に戻っていた先生の親指と人差し指には黄色と赤色のチョークの粉がついていた。


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