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第3話 真夜中の外出

 夜のとばりに包まれて数時間。

 月明かりが窓から差し込み室内を照らすなか、ツヴァイはリリィの部屋に置かれた(かご)の中で眠っていた。


 食事が終わり、体を濡れた布でふいてもらった後、リリィの強い希望で、リリィの部屋で寝ることとなった。

 ベッドの横には僕の寝床となる、籠が置かれている。

 

《ツヴァイ、起床してください……》


 アルマさんの声が脳内に響く。


 初めての場所、初めての寝床で落ち着けず、リリィの部屋は不思議なにおいがするなぁと思いながら、ようやく就寝。 ……のはずがアルマさんに起こされ、しぶしぶ目を開き口を大きく開けて欠伸をする。


《まだ暗いし、話なら……また明日にお願いしたいかな》


 せっかく眠れたところを起こされたので、寝かせてほしいと思いながら、アルマさんに返す。


 ベッドのほうを見ると、リリィはまだ寝ているようだ。


《室内が静かになったので、おそらく母親のほうも就寝したと思われます。動くなら今かと》


《…………動く?》


 そんな約束は心当たりがない、何かの間違いじゃないだろうか。


《トランス時、着衣していた物をその場に放置したままです》


《……あ、そっか、水色の服……忘れてた……》


《現状、記憶喪失以前に身に着けていた物です。手元に回収しておくのが得策かと》


 あの服は記憶を失っていた時に身に着けていた唯一の持ち物だ。それを今まで、あそこに置き去りにして、忘れていたなんて……。


《……よし、取りに行こう、すぐ行こう》


《最優先事項と確認》


《……ん、一階の玄関から出ればいいかな?》


《玄関から外に出た際、鍵の施錠が出来ずセキュリュティに問題が生じます。この部屋の窓からならば二階なので、まだ一階を開けていくよりは良いかと》


 アルマさんの意見に納得し、寝床に視線で別れを告げる。

 音を立てずに、するすると窓枠の下まで移動。猫の脚力で窓枠へと飛び乗る。


 窓は横にずらして開閉するタイプなので、窓枠に爪を引っ掛けてずらし、空いた隙間に身体を滑り込ませる。


 月明かりが差し込む中、窓枠の外へと移動した。

 出た後に隙間から夜風が入って、リリィが風邪をひいたら申し訳ないので、動かした窓枠を静かに戻す。


《屋根づたいに、昼間通った門まで向かいましょう》


 屋根の上を歩きながら周りを見渡すと、大通りのほうだろうか、まだ明るい光が漏れていた。

 わずかにする美味しそうな匂いに、足が向きそうになるも、忘れ物を思い出す。

 屋根づたいを静かに、一定の速度を保って進んでいく。


《ん……なんだろ》


 少し進んでから、昼間とは違うものの、気になる匂いを嗅ぎとる。

 

 何の匂いだろう。

 臭くはないが、どこか同類のような匂いがする。


《ツヴァイ、後方から接近する反応あり。……周囲にも猫の反応を検知》


 アルマさんの声に何事かと、周囲を窺う。

 

 目を凝らして周囲を見てみると、ちらほらと猫の目のようなものが見える。


《猫?……昼間は全然居なかったのに》


 この辺りは昼間、人以外の生き物の気配を、感じられなかった場所だ。

 動物は夜型なのだろうか?

 立ち止まり、後ろを振り返ると、こちらに近づく影が視界に入る。


「おーい、そこの兄さん」


 近づいてくる影に話しかけられる。


《これ……もしかして、相手は猫?》

《現在、猫なのですから、会話は可能かと》


 どうやら、猫に話しかけられているらしい。猫がしゃべることに衝撃を受けつつ、近づいてくる猫を観察する。


「兄さんとはお初やね」


 黄色い首輪をつけた、茶色いとらじま模様の猫が僕の前までやってきた。

 話しかけらたので、無難に挨拶をする。


「は、はじめまして」


 初対面なのだから敬語で返す。


「そんな硬くならんと、気楽話してくれたらええよぉ わいはロビや、兄さんなんて名前なん?」

「う、うん……ツヴァイ……です」

「ツヴァイ、珍しい名前やなぁ」


 初めての猫の会話で何を話せばいいのか、語尾に、ニャアとでもつければいいのかと、焦りながらも話を聞く。


「いやな、珍しい匂いがしたんで、新顔かな思うて、声かけたんや」

「ここには 今日来まして……」

「今日からかぁ、まぁ東の門に続く屋根づたいは、ワイもよう通るんで挨拶だけでもと思うてな」


《東の門、進行方向からおそらく昼間、通過した門のことと思われます》


「ツヴァイは、どこから流れてきたん?」


 流れて……どこから来たのか聞かれているのだろうか、記憶がないため、それは説明できない。どう答えようかと戸惑う。


《下手に話を偽造するとボロが出ますので、そのまま話してもよいかと。猫ですからそれほど、警戒する相手ではありません》


 ボロが出る、何だろう馬鹿にされているような気がする。


「実は、目が覚めたら名前以外、記憶がなくて……」

「はぁ、記憶喪失かぁ、えらい大変やなぁ、ツヴァイも気ぃ落とさず、何かあったらいうてなぁ」


「あ、ありがとう」


 意外に良い猫かもしれない、心配してくれている。


「おっと、話し込んだら遅れてまうな、んじゃ、また今度ゆっくりなぁ」


 そう言って、ロビは僕の進行方向に駆けていく。


《ふぅ、緊張したぁ》


 初めての猫との会話を何とか切り抜け、緊張の糸を緩める。


《昼間は全然見かけなかったけど、猫、いたんだ……》

《周囲にも小さな反応を検知、昼間猫を見かけなかったのは偶然かもしれませんね》


 いきなり話し掛けられた時はどうなるかと思ったけれど、話してみると普通にいい猫だった。また今度会うことがあれば、いろいろ聞いてみようと、頭の片隅にメモを取る。


《では、ツヴァイ、東の門に参りましょう》


 あ、そうだった、僕も行かないと。

 夜の月明かりが照らす屋根を、ロビの後を追うように、ペースを上げながら駆けていく。




 東の門の広場につくと、結構な数の大きな人間がいた。 皆、いちように体格がいい人が集まっているようだった。

 何か不思議な動きをする人たちや、良い匂いのする料理、何か黄色いものを飲みながら楽しそうに話している。

 篝火かがりびがあちこちで焚かれ、夜の街を不思議なほど、明るく彩っていた。


「いやぁ、今日は危なかったなぁ」

「なぁに、わしらシルバーグレイスに、不可能はないわい」

「まだまだ若いものにまけておれんわ」


「「「「 シルバーグレイスに乾杯 」」」」


 夜なのに、人々の笑い声が聞こえる。にぎやかだなぁという感想は心にしまいつつ、門のほうへと視線を移す。昼間、通過した門は丸太で出来た、頑丈そうな扉で閉じられていた。

 門へと続く壁へ、飛び移れそうな建物に近づき、屋根から壁の上にうまく飛び乗ることに成功。門の上にはやぐらのようなものも見え、篝火かがりびかれている。


 壁の上には、歩ける通路のようなものがあり、離れたところには見張り番らしき人が居て、昼間の門兵と似たような服を身にまとっている。


《夜間警備と推測》


 少し離れた所にいる門兵に見つからぬよう、猫の身体能力を信じて壁から飛び降り、静かに地面に着地。


《……シュタッ!》


 無事、壁の外へと出られた。


 暗闇の中、月明かりが照らしだす昼間とは違う畑の姿に、こうも違うものなのだなと楽しんだ後、昼間の記憶を思い出し、月明かりに照らされた道の上を進んでいく。


《ツヴァイ、体の調子はいかがですか?》


《ん、なんともないけど?》


 先程は眠かったものの、今は昼間と違った静かな雰囲気の中、夜の道を歩くのがで嫌いではなかった。猫になって、特に違和感もない。気のせいか撫でられることに一喜一憂し過ぎているような気もするが、問題はないだろう。


《そうですか、異常がなければ問題ありません》


 虫の鳴き声を聴きながら、畑をしばらく歩いていくと森が見えてきた。

 昼間通った小道を探すが、なかなか、それらしきものが見当たらない。


《確か小道だったよね》


《ツヴァイ、もうすこし右奥のほうかと》


《あ、あった、あった》


 言われたほうに視線を移すと、小道らしきものが見えた。アルマさんに感謝しつつ、その小道を頼りに、虫の合唱が聞こえる夜の森へと、静かに歩みを進める。


《ツヴァイ、夜行性の野生生物がいないとも限りません。遭遇時の対処方法について、何かお考えですか?》


 野生の生き物、全く考えていなかった。そもそも、何かあった時どうやって身を守ればいいのか考えていない。全力で走って逃げればいいのだろうか。


《ツヴァイはトランスが可能です。いざとなれば、石材や高硬度の物質に、身体を変質させることで、通常の打撃は防げるかと》


 なるほど、硬い物にトランスすればいいのかと、納得する。


 薄暗い森の中を、歩いていると、祠が見えてきた。

 池は昼間と変わらず穏やかで、月明かりを反射しながら、二つある月を水面に映しだしている。 

 確かトランスした場所は、池の傍だったはずだ。草をかき分け、池の傍を歩いていると、水色の布が見えてきた。


《まだある、よかった》


 服を見つけられたことに安堵する。

 無くならずに済んで、本当に良かった。さっそく服をどう運ぼうか、考える。口で咥えていけば運べるものの、引きずってしまうだろう。ここは、元の姿に戻って、運んだほうが正解かもしれない。


《運んだあとはどこに置いておくのですか?》


《……僕の……寝床とか?》


《見つかり、取り上げられる可能性もありえるかと》


《……屋根裏に隠しておくとか》


《屋根裏はありますが、頻繁に荷物の出し入れが見受けられました。すぐに見つかるかと》


 では、どうすればいいのだろう。僕の頭ではいい案は思い浮かばない。

 答えの出ない問題に、頭を悩ませる。


《覚えていないようなので、進言。影の中に入れる事を推奨》


《影?……の中?》


 影とはどういうことだろう、僕の喪失した記憶のことみたいだ。


《ツヴァイは魔法が使えません、しかしながら魔法の万能性には劣るものの、それに代わるものはありました。それが、影を使った能力です》


 魔法の代わりに、その能力が使えるということだろうか。


《影の中に物を取り込む能力を使えば、服は見つかることなく保持することが可能かと》


 この服を見つからずに隠せるとは、まさに求めていた答えかもしれない。そんなことが出来るなら、魔法が使えないことが、少し気になっていたものの、案外僕も捨てたものではないと、気持ちが前向きになる。


《説明をいたしますか?》


《是非、お願いします》


《使うものは影です。影とは光が遮られて出来ますので、必然的に薄暗いことが重要になってきます。夜ならば、最適な環境と言えるでしょう》


 なるほど、夜のほうが都合がいいみたいだ。


《影に取り込みたい対象を意識しながら、影の中に入れるようにすれば、取り込まれます。 実践したほうが理解が速いですね。その服を、ツヴァイの影に取り込んでみましょう》


 理論よりも、実践形式のアルマさんだ。


《ど、どうやれば?》


《服を小さくまとめ、取り込もうと意識しながら、影に落としてください》


 言われた通り、猫の手を器用に使い水色の服を小さく折り畳み、丸めて筒状にする。これで、だいぶコンパクトになったはずだ。それを、取り込むことを意識しながら両手で持ち上げ、影の中に落としてみる。

 コロン、丸めた服は影に入らず、落ちて地面を転がる。


「…………あれ?」


 もう一度、同じことを繰り返してみるも、先ほど同様、服は地面を転がる。


《取り込む対象よりも、影が大きくなければ成功しません。待ての姿勢で影が大きくなるように、座ってください》


 言われた通り、先ほどよりも影が大きくなるように座り、再度、服を自分の影に落とし込む。


 落した服は、音もなく影の中に消えた。

 

《……おお、本当に入った!!》


 丸めた服は、嘘のように影も形もない。

 無事、影の中に取り込むことに成功したみたいだ。


《うまくいったみたいですね。取り出すときは、取り出す対象と同じ大きさの影に、取り出したいものを意識すれば、取り出せます》


《どのくらいの物が入るの?》


《容量制限はありません。影を大きくすればそれだけ大きなものを取り込めます》


 たくさん入るポケットのようなものだろうか。


《制約としては、影が薄いと取り出すことも、入れることも不可です。なので、基本的には夜間帯推奨です》


 制約はあるものの、便利な力みたいだ。

 さっそく服の出し入れをして、やり方のコツみたいなものを掴もうと、何度も出し入れを繰り返してみる。


《よし、だいたい感覚は掴めた……かな》


繰り返すこと10回、ひとまず、これで難なく物を取り込めると思う。


《よし、帰り《ツヴァイ、接近する反応アリ》……ん?》


《まだ距離はありますが、大きな反応の接近を確認。現在地より移動を提案》


《大きな反応……人なの?》


《いえ、人よりも大きな反応です。先程の門の様子からして、夜間は門の外に人がいる可能性は低いと思われます》


 気が付けば、さきほどまで聞こえていた虫の声も聞こえず、あたりは静まり返っている。

 静かな森は昼間とはうって変わり、逆に不気味ですらあった。


 人ではなさそうだが、何が近づいているのか、少し気になる自分がいる。


《一度森を抜け、見晴らしのいい場所から、遠目で見るのが安全かと》


 アルマさんの指示通りに、ひとまず森を抜けることにし、小道を音が立たたないよう、気を付けながら引き返す。


《距離が縮まってきています》


 アルマさんの淡々とした報告を理解すると、とたんに焦りが出る。

 だんだんと追い付かれているようだ。


 途中、転びそうになるも、ひたすらに足を動かす。

 やがて、小道を進み、畑が木々の合間から見えるところまで来た。ここまで来れば大丈夫だろうか。

 速度を落とし、少し後ろを振り返る。


《ツヴァイ、すぐそこまで接近しています》


 少し急ぎ足のアルマさんの声に、わずかな緊張感を感じながら、とりあえず木の上に避難しようと、近場の大きな木に走りながら助走をつけ、爪を立てて登っていく。

 木の中ほどまで登り、枝に腰を落ち着けた。


《今、どこにいる?》


《反応は真下に来ています》


 恐る恐る、下をのぞき込む。


 …………………………そこには、……何かがいた。



 四本の脚に、頭部には何か角のような突起物が見て取れ、暗闇の中で青白く光っている。

 身体は黒く堅そうな鱗で覆われ、月明かりを鈍く反射させている、得体の知れない何かが、そこには居た。

 

 思わず、息をのむ。その黒い生き物は、木の匂いを嗅いでいた。


《探してる……のかな?》


《こちらを見失ったようですね……しばらく、身を潜めましょう。ツヴァイ、トランスで木に同化を》


《わかっ……木!? ……変質トランス


 木に同化など、木の感覚なんて分からないと、思いながらやってみると、あっさり木と同化できた自分に、拍子抜けする。


《あれ、できた?》


 猫の形のまま、木の一部に同化することが出来た。

 はたから見れば、猫の姿をした、木のこぶに見えるだろう。


《やや、違和感はありますが、上出来です。ツヴァイの気配の消失を確認。後は去るのを待ちましょう》


 息を潜め、じっとしている。

 自分の鼓動が五月蠅いくらいに、緊張すること数分。


 しばらくすると、その黒い生き物は、森の奥へと移動していった。


《徐々に離れていきます》

 

 ほっと胸をなでおろす。

 木に同化しているので、体は動かないものの、脱力感が体を包む。これで、ひとまず安心だ。

 さっきのは、いったい何だったのか、初めての未知なる遭遇である。


《ツヴァイが、記憶を喪失する以前の履歴にも、該当記録はありません。未知の生物と思われます》


 記憶をなくす前の僕でも出会ったことがないらしい。夜の森は油断ならないと、身に染みたところで、これからどう帰ろうか考える。


 下に降りて、また同じように追いかけられたら意味がない。


《鳥にトランスし、飛行による帰宅を提案します》


 なるほど、確かに空中ならば、見つからず、追いかけて来ることも難しいだろう。さすがアルマさん。ただ、トランスして、いきなり飛べるものなのか、疑問が残る。


《やってみなければ、何事も分からないかと》


 実践派のアルマさん、もし落ちても、また木に登ればいいだろうと、なんとなく保険も考えながら、当たって砕けろの精神で、トランスする鳥を思い浮かべる。

 夜に紛れるよう、黒い小型の鳥を思い浮かべ、心の中でつぶやく。


変質トランス


 手を伸す感覚で、羽を広げてみる。無事、トランス出来たみたいだ。はた目から見れば、小鳥に見えるだろう。

 さて、鳥には成れたものの、うまく飛べるか、羽を広げ動作を確認。


 あまり帰るのが遅くなると、リリィに抜け出したことがばれるかもしれないので、羽を何度かはばたかせ、ひと思いに飛び立つ。


 落下するような感覚に陥るも、羽を使いバランスを保ちながら滑空かっくうしていく。


 畑の上を、風をつかむように羽を広げ、軽く羽ばたかせ、高い位置を飛ぼうと心掛ける。何とか、風をつかむことが出来たみたいだ。

 やってみれば案外うまくいくものだな、という感想を抱きながら、飛んでいく。


《飛行成功を確認。この高度を維持してください》


 羽を適度にはばたかせ、高度を体感で維持しながら飛んでいく。上から見ると、畑は規則正しくマス目のように配置されていることがよくわかった。


 遠くにはぼんやりと山の輪郭山が見え、視界に石で出来た壁が見えてくる。

 空がうっすらと明るくなってきた。


《まもなく、日の出です。高度を維持したまま、リリィの家まで向かいましょう》

 

 門の上空を通過する。

 先程より人数は減っているものの、広場にはまだ、人が何人かちらほら見える。朝方までやっているようだ。


 上空から見ると、五本の道が放射状に広がっているのが良く見え、反対側にも、同じような門が見える。

 記憶を頼りに、左から二番目の通路の上空を滑空していく。猫の視界とは全く異なり、遠くまで見渡せてこれはこれで面白かった。 家屋のところどころから煙があがっている、早い人はもう起きているのかもしれない。


 家を出たときに、見覚えのある屋根が近づいてきた。


《まもなくです、リリィの家をガイドします。着陸準備を》


 すると突然、視界に黄色い旗が現れる。アルマさんの補助だろうか?

 黄色い旗のついた屋根に向けて、徐々に高度を下げていく、屋根の上で軽く羽を羽ばたかせ、勢いを殺して一思ひとおもいに着地する。


《……ピタ……ふぅ……》


 かぎづめでしっかりと屋根をとらえ、無事着地できた。


《ナイスフライト。おつかれさまでした》


 アルマさんに、ねぎらいの声をかけてもらいながら、腕を軽く動かしてみる。少し突っ張っているような、腕が筋肉痛になりそうな不思議な感覚だ。

 遠くの山からは、わずかに日差しが見えてきて、もう日の出らしい。


変質トランス


 小鳥のまま窓枠に足を掛けるも、鳥脚では無理があったので、猫に戻る。


 窓枠に爪をひっかけ、通る隙間を作ろうと引っ張るも、なかなか動かない。行きは軽々と動いたのに短時間で渋くなるものだろうかと、疑問符が浮かぶものの、そうしている間にも、徐々に辺りは明るくなってくる。


 朝日でリリィが起きてしまうかもしれないと思うと、朝日が僕をせかしているようにさえ感じられ、そう考えると、手に入る力は自然と強くなる。

 がたがたと、窓枠を引っ張るツヴァイ。


《ツヴァイ、少々よろしいでしょうか?》


《後でもいいかな、早くしないと朝日でリリィが起きちゃうかもしれない》


 がたがたと、窓枠を引いていると、急に先ほどまでの渋さが嘘のように窓枠がスライドする。


《あ、空いた……え?……》


 空いたことに安堵をしながらも、予想に反して、大きく空いた窓枠に疑問を抱いていると、答えはすぐにわかった。


「あらあら、ツヴァイは朝早いのねぇ」



 頭の中が真っ白になる中、アルマさんの声が遠くに聞こえる。


 …………空いた窓枠は、リリィのお母様の部屋だった。



誤字・脱字等、ありましたらよろしくお願いします。m(__)m

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