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第2話 ・・・ペットになりました。


 ほこらの横にはそこだけ草の生えてない小道があり、その小道を少し外れた場所に、少女は立っていた。


 茶色い髪を両サイドにお団子にし、水色のワンピースのような服を身にまとうその子は、青色の瞳を大きく開き、驚いている様子だった。

 僕は目線が合ってしまったために動けない。


《どうしよう。…………ど、どうすれば》


 心の中でアルマさんに指示を仰ぐ。


 困った時の頼れるアルマさんだ。


《落ち着いてください。 服飾品があるということは服を作製可能な文明社会があるようですね。ツヴァイはそのまま、猫の継続を》


 猫の継続を、と言われても。目線があってしまっているだけに動きづらい。

猫らしい行動を考えていると、見つめ返しながら様子を窺っている少女に変化があった。


 右足、左足と、ゆっくりとこちらに、にじり寄ってきているではないか。


 さすがに少女と言えど、猫の目線だとその体は大きく見え、にじり寄ってくるためにとても威圧的だった。


…………とても怖い。


《ツヴァイ、彼女は今の我々にとって情報を得るための貴重な情報源です。解析のために、彼女との身体的接触をお願いします》


 アルマさんの言うことも分かるが、こちらへと、にじり寄る彼女の姿はとても大きくなっている。

 ツヴァイが動けずにいる祠まであと少しのところまで来ると、彼女はおもむろに、その場に腰を落とした。

右手をこちらにのばし、くぃっくぃっと指をわずかに動かしている。


 こちらを誘っているのだろうか。そんな手には引っかからないと決意を固めるも、なぜか、その手の動きに惹かれ、無意識のうちに前へ一歩進んでしまう。


《ツヴァイ、接触が目的です。ここは向こうの誘いに乗ってみましょう。さいわい、武器のようなものは見受けられません》


 少女がしゃがんだことにより、先ほどより幾分か威圧感は減ったものの、いまだに、威圧感は消え去ってはいない。

 伸ばされた右手の巧みな指さばきを見ていると、その手に飛びつきたくなり、少しづつ警戒心は薄れてきた。


 怖いけど、がんばろう。

 ゆっくりと恐る恐る、少女に歩みを進めていくと、突然、少女のほうから「ぐうぅう……」と、お腹の鳴る音がする。

 少女は顔を伏せてしまい、表情は読み取れない。


《彼女の空腹を訴えている音と推測》


《アルマさん、これ、掴まって食べられたりしませんよね?猫、食べるとこありませんもんね?》


《猫は食用ではありません、しかしながら、未知なる食文化の可能性も否定はできません》


 アルマさんの予想外の返答に、踏みだしていた足が立ち止まる。


《仮に猫を食する文化が存在していても、トランスで元に戻り、逃げることが可能です》


 あ……。自分は今、猫にトランスしていたんだった。

 そのことを忘れるほど、今の状況に流されていたみたいだ。

 

 もしもの時の対策をアルマさんに聞き一安心。


 僕は不思議な動きをしている彼女の手へと、歩みを進める。


 徐々にはっきりしてくる少女の顔立ちは、整ってはいるものの、まだ幼さを残していた。先程、池で見た自分と近い年齢ではないだろうかと、ぼんやり考える。


「触ってもいいかな?」


 少女の手まであと少しの距離まで近づいたとき、僕のことを誘っていたその手が動いた。

 何をするのだろう。あっけにとられ身を固くするも、動いた手は僕の頭にそえられ、ゆっくりと頭を撫でまわされる。


《あ、きもちいいかも……》


《撫でられていますね。言語認識、良好。接触を確認、解析を開始。ツヴァイ、しばらくそのままでお願いします》


 アルマさんの声を聴きながらも、意識は頭上で動く手に向いている。

 頭を撫でる手に、不思議と気持ちが良い感想を抱きながら、しばらく撫でられていると、彼女に対する警戒心はすっかり薄れていた。


「……君は……どこから来たのかな?」


 少女の突然の問いかけに、自然に返答しようと思うも、猫にトランスしていることを思い出す。ここは、猫で通したほうがよさそうだ。


「にゃー」


 と、ひと鳴き、手探りで猫らしさを演じる。


 変じゃないはず……たぶん。

 

 頭を撫でていた手があごの下に周り、左手も追加されて、あごの下をもそもそと触られる。


《あ、これいい、これすごい、すごくきもちがいい》


 無意識のうちに喉がゴロゴロと鳴る。 

 この少女は猫の扱いがとても上手なのかもしれない。猫のツボをよく心得ていらっしゃる。

 喉を鳴らしながら彼女のテクニックに身をゆだねると、とても気持ちがよかった。


 しばらく撫でられていると、あまりの気持ち良さに、少しづつ眠気を感じ始める。


 少女の適確で天才的な猫撫でテクニックに、眠気の訪れつつある意識の中、少女に賞賛を送る。


《と、とても気持ちがいい。これは……良い》


《解析完了、どうやら、人間種のようですね。個体年数は九年と推測。若干の緊張が感じられます》


 アルマさんの報告に、睡魔の海に沈みかけていた意識がゆっくりと浮上する。

 九才となると、僕と歳は近いかもしれない。僕は今、幾つなのか少し気になる。


 それにしても、緊張しているとはどういうことだろう、自分よりも小さな生き物に、緊張などするものだろうか……猫の手には鋭い爪があるから、引っ掻かれたりしないか、気にしてるのかもしれない。

 こんなに、気持ちのいいことをしてくれる少女に、引っ掻いたりなどしたら申し訳ないと思い、肉球から爪が出ないように気を付けることにした。


「首輪もないし……迷子の子かな?」


どうしてここにいるのか、元居た場所に帰る方法も分からないので、家はあるかもしれないが、迷子には違いない。


「にゃー」と返答しておく。


 あごの下から体へと、移動した手に身体を撫でてもらいながら、草むらにごろんと寝転がる。


《あぁ……これは、心地いい、寝ちゃいそうだぁぁ……ぁぁぁ》


 少女の手に身をゆだね、再び睡魔との格闘をはじめたところで、体を撫でる手が止まった。気持ちよかっただけに、中断されたことに一抹の寂しさを覚えつつも、少女のほうをあおぎ見る。


《緊張と不安が感じられます……周囲サーチ開始……異常なし……ツヴァイに緊張している可能性有り》


 アルマさんは周りの変化により少女が緊張しているのではと思ったみたいだが、違ったみたいだ。

 

 周囲に変化は無く、どうやら少女は、僕に緊張しているらしい。



「君は私が……怖くない?」


 怖いです、大きくて怖かったです。と少女の問いに本音を心の中で吐露するも、元の僕ならば、少女と背丈はそう変わらないであろう、と考え直す。

 なによりも、撫でられて気持ちよかったので、少女に対する僕の印象はとても好印象である。


 怖くない。

 この気持ちをなんとか、少女に伝えたいと思ったものの、猫なので喋るわけにもいかず、何かいい方法はないものかと考えた結果、猫らしく手でも舐めてみることにする。 


 撫でられている身体を少し起こして、撫でてくれている少女の手をぺろぺろと舐めてみる。


「あ…………君はいい子だね」


 少女がほんのり、笑顔になってくれた。気持ちは伝わったと思いたい。


「私はリリィ、リリィ・モーリス。君は何て名前かな?」


 どうやら、少女の名前はリリィというらしい。

 自分の名前を伝えようにも、猫は喋れないので、またゴロンと横になる。


 リリィの手が伸びてきて、また、身体を撫でてくれる。

 横になって寝そべることがとても心地よい、猫は寝る子と聞いたことがあるけれど、誰に聞いたんだろう。またそのうち思い出だせるだろうか。

 無くしてしまった記憶に思いを馳せながら横になり、猫のように伸びをする。


《ツヴァイ、思い出せないものは致し方ありません。脳に大きな負荷がかかりますので無理に思い出そうとしないようにしてください。》


 思い出そうと考えていると、アルマさんから注意が入る。無理はよろしくないみたいだ。改めて、リリィのほうに意識を戻すと、撫でていてくれた手は止まり、何やら考え込んでいるように見受けられる。


「……よし、…………君はうちの子にする!」


「……え」


 思わず、声が出てしまったものの、幸いにもリリィには聞こえていなかった。

 出会ってすぐのどこの馬の骨とも知らない猫をペットにしようとは、僕のどこをそんなにお気に召したのだろう。

 脇をしっかりつかまれ、抱えあげられてしまった。リリィさん、意外と強引です。


《これは、このまま飼い猫ペットになるのが……正解?》


《ペットということは、自由に行動できるか少々疑問ですが、いざとなればトランスで解決可能です。問題ありません》


 トランス、何でもできるんですね、そうなんですね。 

 試しに、逃げ出せるか、こころみると腕にがっちりとホールドされてしまい、腕の中から脱出することはできなかった。

 リリィに抱かれる形で腕の中に収まる。


「お母さんに相談しないとね」


 小道を歩き出したリリィ、何か忘れているような気がするものの、今一つ思い出せなかったが、そのうち思い出すだろうと、リリィの腕の中で気楽に構えることにする。


リリィの腕に抱かれながら、しばらく森の中を進むと、森を抜けて開けた場所が見えてきた。 

 周りにはマスの目のように、きれいに区分けされた草原があり、その中央には道のようなものが一筋通っていた。

 マス目の中で人々が土をいじったり、何かしているようだ。


《どうやら、文明社会のコミュニティと思われます。食糧生産場の一種と考察》


 リリィが僕を抱えたまま、マス目の真ん中を通る道を進んでいく。

 歩いている道の左右にマス目上に区切られた草原は広がっていて、リリィよりも大きな人影が、ちらほらと見つけることができた。


《ツヴァイ、どうやら穀物の生産場のようです。目視で判断する限り、……未知の品種です》


《えーと……食料生産場、つまり畑かな?》


《肯定》


 知識はあるものの、なんでこうゆう事は覚えているのだろう。と疑問に思うも、視界に白い壁のようなものが見えてきたので、疑問はとりあえず置いておく。 

 遠くに丸太のようなもので、できた壁が見えてくる。


《あれは、丸太や石による柵、あるいは防御壁かと、コミュニティを外敵などから守ることが目的と思われます》


 アルマさんの説明に納得する。身を守らなければいけないような敵がこの辺りにいるのかもしれない。


 しかし、外敵とは何が来るのだろう?


 丸太で出来た防御壁に徐々に近づいていくにつれて、防御壁の途切れている場所に、変わった服を着て、長い棒のようなものを片手に持つ人が立っているのが見えた。


《守衛か門兵と思われます、服ではなく、身を守る防具と、武器となる槍かと考察》


 分からない事には、アルマさんがその説明をしてくれるので、とても助かる。

 

 丸太の防御壁が途切れた個所にリリィが行き着く。

 2人の門兵が行く手を遮るように、手に持つ槍を斜めに交差させ、バツ印のような形にする。


「止まりなさい。 お嬢ちゃん、通行証はあるかい?」


 門兵の一人がそう話しかける。

 近くで見る防具は、頑丈そうな印象だった。

 僕を抱えているために、通行証なるものが出せないのか、リリィがいったん僕を地面におろす。


「ちょっと、まっててね」


 ささやく声で僕にそう告げ、リリィは首に掛かっている紐を引き、胸元から黄色い石のようなものを取り出し、門兵に見せている


「お願いします」


「あぁ、…………確かに、 通ってよし」


 通行証が確認できたのか、交差していた槍が解かれた。


 通って良いみたいだ。

 見せていた通行証を服の中にしまったリリィが、先に門をくぐる。


「さぁ、おいで」


 リリィに呼ばれるがままに、門兵の間を通過する。

 僕が逃げる、といった心配はしてないみたいだ。


 石で出来た門を通り過ぎると、広場のようなものがあり、その奥に道が五本、放射状に続いている。そこには木や、石などで出来た建物が均一に並び建っていて、通りには人の声が聞こえる、活気があるみたいだ。


「しっかり、ついてきてね」


 五本ある道のうち、左から二番目の道へとリリィは進んで行くので、後を追う形で歩きだす。


 間違えたら迷子になりそうだ。


《ツヴァイ、なるべく多くを観察してください。そうすれば、より多くの情報が集まります》


 なるべくキョロキョロと、リリィを見失わないように多くを見ることにする。


 足元には石が敷き詰められていた。

 石畳というものだろうか足裏には石表面の感触が伝わる。進んだ通りは、花や、丸い不思議な形の物、なにやら、かぐわしい香りのする建物もあった。


《花屋に、壺やうつわの商店かと思われます。匂いの元は食事処と推測》


 時折ときおり、リリィがこちらを気にしている。

 ちゃんとついてきているか、気になるらしい。


 建物の中には、オレンジ色に塗られた壁や、白い建物もあり、ツヴァイの興味が尽きることはなかった。その都度アルマさんに補足をしてもらいながら進んでいく。


 日が少し傾き始め、空がオレンジ色に染まりだした頃、ある建物の前でリリィが止まった。


「ここが私の家だよ」


 リリィが立ち止まったのは、木製の柵に囲まれた石造りの一軒家だった。

 家屋の一部から、煙が出ている。


《ほうほう、ここがリリィの家》


《空気中の臭気から、あれは燃焼による煙と推察。建物内にも居ると思われます》


「ちょっと、ここで待っててね」


 そう言い残してリリィは扉を開き、建物の中に入っていった。

 リリィが戻ってくるのを、建物の入り口で待つ。


《どうやら、それなりの規模と思われる街のようですね。》


 どうやら、街らしい。

 街中を歩いてきたものの、広場の通りは賑やかなところだったが、人の匂いのに混じって、違う匂いが感じられた。


 あれは何の匂いだったのだろう。


《人間種以外にも、他種族の可能性が考えられます。落ち着いたら、調査してみるのもいいかと》


 人以外の種族とは、どのような種族なのだろう?

 猫や犬とかだろうか? そういえば、猫や犬が見当たらなかった、街中には少ないのかもしれない。

 そんなことを考えていると、扉を開けてリリィが戻ってきた。


「おかあさん、はやく、はやく」


 奥からもう一人出てくる、リリィよりも大きな人だ。お母様らしい。


「あらあら、小さなお客さんね」


「森の中で見つけたの、この子、すごいんだよ」


 そう言い切る、リリィはとても自慢げだ。

 僕の何がすごいのだろう。凄いことをした覚えもないし、思い当たらない。もしかして、トランスしていたのが、見られていたのかもしれない。


《トランス時、周囲に反応はありませんでしたので、その可能性は低いかと》


 確かに、トランスをするときに、アルマさんが周囲に何も居ないと言っていた、そうとなると、何がすごいのか少し気になってくる。


「おいで」


 リリィはしゃがみ込み、手を前に出しながらツヴァイを呼ぶ。

 ここは素直に従う。また撫でてもらえるかもと期待しながら、リリィの前まで行き、腰を下ろす。


 いわゆる待ての姿勢だ。

 

 リリィの手が下りてきて、僕の頭を撫でる。

 やはり、撫でられるのは気持ちがいい。


 リリィが僕を撫でていると、リリィのお母様が近づいてきて、じっくりと僕を観察している。


「まぁ、良い子ねぇ」



 茶色い髪に、リリィに似た顔立ち。

 リリィのお母さんが、にこにこと微笑んでいるが、表情が読めない。


「ね、すごいでしょ。飼ってもいい?・・・ちゃんと面倒見るから」


 僕の頭を撫でながら、お母さんに飼う許しを請う、リリィ。


 《すごいでしょ》


 よくわからないが、すごいらしいので、僕も得意げなのだが、僕は面倒をみてもらえるらしい。中身は猫じゃないので、少し複雑な心境だ。


《食事と住居が一度に手に入るのです。好条件かと》


 すかさずアルマさんに、たしなめなられる。


「たしかにすごいわねぇ……ちゃんと面倒見るのよ」


「やったぁぁ」


 よっぽど、猫を飼えることが嬉しいのだろうか、唐突にリリィが僕に抱き着いてくる。

 突然のことに内心驚き、僕の心臓は鼓動が速くなる。リリィからは、なんだか花のようないい匂いがした。

 優しく、けれど存在を確認するように、強めにツヴァイのことを抱きしめるリリィ。


「そんなに強く抱き着いたら、お客さんが困っちゃうわよぉ」


 お母様に言われて、リリィは僕から離れる。強く抱きしめられて、苦しかったはずなのに、少し名残惜しいと思ったのはなぜだろう。よくわからない感情だ。 


「名前はもう決めてあるかしら?」


「うん、ツヴァイの祠の前にいたから、ツヴァイ」


《あの祠には、そのような名称が…………名前が同じでよかったですね、ツヴァイ》


《良かったのかな?》


《名称が複数ある場合、呼ばれた際に気付きにくいといった統計があります。名前を呼ばれた際に、反応しやすいかと》


 とりあえず、ツヴァイでよかったと思うことにした。同じ名前を付けられるとは、不思議なこともあるものだ。


「君の名前はツヴァイだよ。 これからよろしくね。ツヴァイ」


 リリィに改めてツヴァイと呼ばれたので


「にゃーん」


 と鳴いて答える。


「さぁ、家の中に入りましょう。もうすぐ、スープが出来るわ」


 リリィの母親に促され家の中に入る。

 建物の入り口から中に入った瞬間、足元がスーッとして、毛が逆立つ。


《うっ……足がスース―する》


《足に付着していた土がなくなっていますね。家屋に、土を持ち込まない工夫でしょうか。仕組みが非常に気になります》


《なんだか、見たことがないものばかりだ。》


 リリィが奥の部屋へと入っていくが、家の中にあるものに目を奪われ、足が止まる。家の中には、壁や廊下の脇などに、見たこともない果物や、何かの印だろうか、不思議な模様が壁に描かれている。

 玄関には円形の整った模様の刺繍が入った布が地面に敷かれていた。


《これは、魔方陣と推測。先程の足の汚れが消えたのは、魔法によるものかもしれません》


《魔法というと……特殊能力?だっけ》


《術者の資質や媒体により、その効果は大きく左右されるものの、様々なことが出来ます。扱うには資質が必要で、実際に行使できる者は、一部の者に限られるのが魔法です。便利なものには違いありません》


《なんでもできるの?》


《死者を蘇生すること以外はある程度可能と記憶しています。》


 何でもできる、それはとても面白そうだった。僕の記憶を戻す魔法があるかもしれない。


《記憶に関する魔法は、高度な魔法になるので、使用者はさらに少ないと言われています。》


《僕も、魔法が使える?》


《いえ、ツヴァイには魔力が皆無ですので……使用は難しいかと》


 魔法が使えないと知って、ショックを受ければいいのか呆然とすればいいのか、僕が廊下で魔法を使えないことを告げられ、ショックを受けていると、先に部屋へ入っていたリリィが戻ってくる。


「ツヴァイ、ツヴァイってば、こっちだよ」


 リリィに呼ばれ、意識を取り戻す。

 ある部屋から、いい匂いが漂ってくる。


 とりあえず、お腹が空いているので、魔法のことなど忘れて、いい匂いの出どころへ歩いていく。


 リリィの後に付いていき、いい匂いのする部屋へと入ると、真ん中には木で出来たテーブルが置かれていて、その上には白い器が乗っており、何やら煙のようなものを出していた。


 すでに、リリィのお母さんはテーブルについている。


「さ、ツヴァイ、ごはんだよ」


 リリィがテーブルの下に、白い器をおいてくれた。何やらいい匂いがする。

 思えば、意識が戻ってからまだ何も口にしていない、心して食べようと、器に舌を伸ばしてみる。 


 舌で舐めるように口に含んでみると、なにやら、スープのようだった。

 

 数種類の野菜が溶け込んだ味わい深いスープ。


 何かの肉のようなものを噛むたびにじゅわりとスープが染み出してきた。これは美味しい、体が喜んでいる。

 僕はそれを、無心で口に頬張る。


 忙しそうに舌を動かすツヴァイを、楽しそうに見つめるリリィ。

 ツヴァイの初めての食事はとても、おいしかった。


◇◇◇◇◇◇



 食べ終わった後の食器洗いをリリィと一緒にしていると、ひとつ引っかかることがある。


(あら、猫って猫舌で熱いものが、ダメなんじゃなかったかしら?)


 疑問に思うも、居間で横になっているツヴァイを、隣で食器を拭きながら楽しそうに眺めているリリィを見て、「疑問も今は目をつむろう」そう思えた。



スープのイメージはポトフのようなものです。

誤字・脱字等、ありましたらよろしくお願いします。

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