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王の剣士2「絶滅種」  作者: 雅
第一章
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第五章

 彼は助けて欲しいと、そう言って男を見た。



 

 

 男は薄暗い部屋の中で眼を見開いた。


 湿った黴臭い臭いが部屋を満たしているが、既に慣れてしまった。

 強ばった身体を動かすとあちこちが悲鳴を上げる。


 家族はどうなっただろう。妻と幼い子供は。

 それを考えると恐ろしく、いても立ってもいられなくなる。


 彼等は男のやってきた事を知らない。

 知ったら、どう思うだろうか。


 視線を転じた床の上に、夜目にも白いものが幾筋も散らばっているのに気付き、男は痛む腕を伸ばした。


 毛足の長い純白のそれを一本摘み、目の前に持ち上げる。



 

『助けて欲しい』



 

 男は小さく笑った。それは自嘲の響きを孕んで暗い室内に散る。



 

『どうか』



 

 自分達は。



 ――自分は、一体何をやってきたのだろう。



 そんな事に至るまで、本当に何も考えて来なかったと言うのだろうか。


 恐怖に似た感情が身を震わせ、男は身体を抱え込むように蹲った。




 

『彼女は』




 

「やめてくれ、聞かせないでくれ」


 泣き声に近い響きで振り払うように呟く。


 間に合うだろうか。

 間に合わなければどうなるのだろう。


 もう既に、一歩違(たが)えてしまっている。



「違う」



 既に、大きく違えているのだ。



 男はもう一度、自らを嘲るように笑った。


 笑うしか成す術がない自分を嘲り、低く笑い続けた。







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