終章
長身を黒衣に包んだ男は、自分の周りに膝を付いた村人達に、片腕に抱えていた布の包みを差し出した。
鳥の頭を持った村人達が手を伸ばし、宝物を抱えるようにそれを受け取る。
覗き込んだその中には、生まれて間もない赤子が包まれていた。
黒い瞳が、泣きもせずに覗き込む顔を見上げる。
「故郷から離すのも忍びない。そなた達に託していこう。その対価として、年に一度、望みの物を贈ろう。金でも財宝でも、何なりと言うがいい」
「特に必要なものはありません。彼らの友として、この子は我らが喜んで育てましょう」
慈しむように向けられる幾つもの視線に、赤子が笑う。
赤子を抱えていた老人が懐から小さな青い石の飾りの付いた鎖を取り出し、小さな手に握らせる。
赤子は嬉しそうに声をあげ、それをしっかりと握り締めた。
老人が、思い付いたように顔を上げる。
「――お言葉に甘えさせていただくのなら」
「何だ」
「書物を、頂きたい。この辺境の村では、知識は年々古くなっていくばかり。この子が成長して外へ出た時に、困らないほどの知識を身に付けさせたいのです」
男は面白そうな笑みをその頬に浮かべた。
「良かろう。毎年この日に届けさせよう」
赤子の笑い声に男が黄金の眼を細める。手を伸ばし、その頭を撫ぜた。
「面白い赤子だ。一族の中で、最も高い能力を受け継いでいる。成長し、もし望むなら、私の許に来させるといい」
村人達は男に向って、ただ静かに頭を下げた。
「名前がいるな」
もう一度、男が赤子を腕に抱え上げる。
青い石が、明け方の光を弾いた。
「名は――」