第十七章
僅かな振動の後、光はあっけなく消失した。
呼吸をすら忘れ、その光景を見つめていたロットバルト達の前で、巨大な手は一度だけゆらりと揺れ、大気に溶けるように姿を消した。
大気は穏やかに薙ぎ、そこに残ったのは、まるで何事も無かったかのような静寂だけだ。
暫らくの間、誰一人動く者はいなかった。
ふいに高く上がった飛竜の鳴き声に呪縛が解かれ、ロットバルトは大きく息を吐き、茫然と眼下を覗き込む。
谷は深く抉られ、全く様相を変えていた。その中心に倒れている影が見える。ロットバルトは飛竜の背を蹴った。
「ロットバルト!」
ヴィルトールの声を背に谷底に降り立つと、ロットバルトは倒れているレオアリスに駆け寄った。傍らに膝を付き、その顔を覗き込む。
呼吸が弱いながらも規則正しいリズムで刻まれているのを確認し、息を吐く。それからもう一度だけ、上空を仰いだ。
既にそこには、あの手の残滓すらない。
ロットバルトは外套を脱ぐとレオアリスの身体を包み、抱え上げた。ヴィルトールを乗せた飛竜が谷底に舞い降りる。
駆け寄ってきたヴィルトールもレオアリスの顔に視線を落して安堵の色を浮かべ、深い息を吐いて両手を膝に当てた。
周囲を見回し、改めて茫然とした表情を浮かべる。
「凄まじいな……」
断ち切られたかのように、地層を覗かせた断面が四方に高く聳えている。削り取られたはずの土砂は跡形もない。
「これは当分の間、アリヤタの村を捜そうなんて無謀な輩は出ないだろうね。いっそのこと、アリヤタは全て滅びたと、そう言うか」
飛竜の背の上にレオアリスを乗せると、ロットバルトも頷き、上空に集まってきた飛竜達を見上げた。
旋回を続ける飛竜達の背に、アリヤタの白い身体が僅かに見え隠れしていた。