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王の剣士2「絶滅種」  作者: 雅
第一章
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第十六章

 遠くの大気が地響きのように震えていた。


 強烈なまでの圧迫感に身体を叩かれて跳ね起き、自室の露台に飛び出したイェンセンの目にも、それははっきりと映った。


 金色の光を纏った巨大な手が、ミストラ山脈の上空に浮かんでいる。


「――王……」


 茫然と呟いた舌は喉の奥に張りつき、声は空気を擦るようだ。


「……何、やってやがる、師団は……」


 何故、何に対して王が顕現したというのか。


 今、ミストラ山脈にいるのは――。


「……まずいんじゃないのか……?」


 呆けたように呟いた自分に気付いて舌打ちし、イェンセンは身を翻し居室を出ると、付近にいてやはり茫然としている部下に指示を飛ばしながら大将シスファンの居室へと走った。


「中央に確認しろ! それから全軍をいつでも動けるようにしておけ!」


 軍都サランバードが俄かに慌ただしさを増していく。


 おとないを告げるのももどかしく駆け込んだ大将の居室で、大将シスファンはまだ寝間着姿のまま広い窓の前に立ち、そこから見えるミストラの上空を睨んでいた。


 既に手の影は掻き消え、窓の外には何事も無かったかのような深い夜が広がっている。


 イェンセンが声をかける前に、シスファンは厳しい表情を浮かべた顔を向けた。


「指示はしたのか」

「中央への確認と、全隊待機を」


 シスファンはひとまず頷いて、再び瞳を窓へと戻す。


「……王の顕現だ。我々の範疇を超えている。既にあの場での事は終わり、我々に出来る事はおそらく何もないだろうよ」


 そう言うと寝間着の肩から軍服を羽織り、傍の長椅子に腰を降ろした。束の間考え込むように伏せた瞳を上げる。


「……北の再現だと思うか?」


 シスファンの問いにイェンセンは黙る事で返答を保留する。


 丁度その時扉が慌しく叩かれ、兵が一人入室すると、二人の前で踵を打ち鳴らし緊張した面持ちで敬礼した。


「失礼します! たった今、総将アスタロト公より、急使にて指令が届けられました」


 早口でそう告げると手にしていた書状をイェンセンに差し出す。


 イェンセンはいくつかに折り畳まれたそれを振るように張って開き、そこに書かれた数行の文字に素早く視線を走らせた。

 その顔にさっと緊張が走る。


「早いな。公は何と?」

「いえ、我が方の急使に対する回答ではありませんが……内容はご指示を仰いだ事と隔たりはありませんな。オルセを陥し、サムワイル男爵を捕縛せよとの仰せです」


 オルセはサムワイル男爵の居城がある街の名だ。


「サムワイル? ミストラについては?」

「ミストラについては、現時点での介入の必要なし、と」


 複雑な色を浮かべたイェンセンから書状を受け取り、目を通す。


 イェンセンの言うとおり、書状には正規軍総将アスタロト本人の直筆で、一個中隊を以て可及的速やかにオルセを陥せ、と書かれていた。


「確かに閣下のお()だな。直々にという事は、王命か」


 シスファンは立ち上がると、引き締まった顔をイェンセンに向けた。


「準備が整い次第、中隊をオルセへ向けよ。包囲後一度開門勧告、応答がなければそのまま()とせ。朝日が上がる前に陥落させる」


 イェンセンが頷き、右腕を胸に当て敬礼してから退出する。

 それを見送り、シスファンは寝間着を脱ぎ捨て、軍服に袖を通す。


 果たしてミストラの山中で何があったのか。第七軍がそれを確認する時間はない。

 アスタロトはミストラへの関与を認めておらず、また仮に今、山中に兵を送っても、その場に近づく事は難しいだろう。

 その間に近衛師団が現場の処理をしていくはずだ。


「剣士か? 厄介な事だ」


 溜息を一つつき、シスファンは居室を出ると、自ら指揮を執るために執務室へと向かった。






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