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王の剣士2「絶滅種」  作者: 雅
第一章
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第十五章(一)

 アリヤタ族の村は、折り重なる山脈の奥深く、深い谷のその中腹にあった。


 普段ならひしめく木々に遮られ、上空からそれと知る事は出来なかっただろう。

 しかし今、夕闇の落ちかかった空に、険しい斜面の中腹から幾筋もの煙が立ち昇っていた。


 何があったのか、漠然と想像は付く。

 酒場にいた男達の言葉。


『明日になれば』

『これが、最後の――』


 彼らは、最後の狩りをしたのだ。


 村の上を師団の飛竜が数騎、ゆっくりと旋回している。


 飛竜の上から、凍りついたようにその光景を見つめているレオアリスに、ロットバルトは促すように口を開いた。


「……制圧は完了しているようですね。残党を捜しているのか――上将?」


 ふいにレオアリスが眼下の斜面に向けて、飛竜を降下させた。


「何を――」


 それを追ったロットバルトの視界も、木々の間から覗く白いものを捉える。

 薄闇の中ではっきりとそれが捉えられたのは――、その数が一つのみではなかったからだ。



 二人は飛竜から降り立ち、ゆっくりとそれに歩み寄った。


 目にしたものを咄嗟に理解するのは難しかっただろう。

 夕闇が辺りを覆っていたせいではなく、信じ難い光景故にだ。


 夕暮れの中まばらな木立の間に、点々と、白と赤黒いものが転がっている。土や短い下生(したば)えも、飛び散った飛沫にまだらに赤黒く濡れている。


 純白の毛皮が見えるのは僅かだ。

 腹を割かれ内蔵を抜かれた死骸が、点々、点々と転がっている。

 数十体もに及ぶ、その数。


 まだ乾ききっていない、ねっとりとした血の臭いが全身を押し包む。


 思考が白くなる程の怒りを――、これ程の怒りを、この光景に感じるというのに


 何故、これを引き起こす者がいるのか。


 己の欲と利益の為だけに、これが出来るものなのか。

 


 それとも、相応の理由さえあれば、許される行為だろうか。

 


 押し黙ったレオアリスの背中に視線を向けたまま、ロットバルトは静かに息を吐いた。


(――一つだけ言えるのは)


 売買は、需要と供給によって成り立っている。

 欲する者もまた、間接的にこの殺戮に加担している。


 手に入れようとする者の欲が、それによって利益を得ようとする者の欲を刺激する。


 欲する者がいるからこそ、この光景は現実として、今ここにあるのだ。


「上将……」


 レオアリスは振り向かないまま、更に数歩その光景に歩み寄り、両手を握り締めた。

 搾り出すような、聞き逃しそうな程の微かな声が、ロットバルトの耳を打つ。


「俺は、これをやろうとしたのか」


 ロットバルトはただ黙ったまま、レオアリスの僅かに覗く頬の線に視線を向けた。


 答えを求めている訳ではないのは、その響きから判る。ただ自らを突き詰めようとする自問だ。


 何が正しい選択なのか。


 もちろん、直接の原因は売買に関わる者達にある。けれどおそらく多くの者が、この光景を前にすれば、自らに問いかけずにはいられまい。


 自分はこれを、この光景を、作らずにいられるか?


「――行こう」


 視線を落とさないまま、レオアリスはそれに背を向けた。







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