第十一章
押し潰されるような空の下を隊士達は山脈の奥へと向かった。
呼吸が塞がったような苦しさを感じ、ジェビウスはよろめくように窓を開き、庭に臨む露台へと出た。
張り巡らされた苔の葺く手摺りに掴まり、上体を支えて大きく息を付く。
ただ、もっと気分が悪くなるものかと思っていたが、予想に反して冷静だった。
ジェビウスは顔を上げ、階下の小さな庭を眺め、警備隊の敷地を高く張り巡らされた壁を眺め、そしてその向こうに広がる街を眺めた。
ぐるりと顔を巡らせれば全てを見渡せてしまうほどの、小さい街だ。寂れて煤けたような灰色の街並み。活気はなく、まるで廃墟のように感じられる。
産業も無く、大地の収穫も薄い。昨年の秋も殆んど実りはなかった。
年々減少していく収穫がジェビウスの心に焦りを募らせているからこそ、ジェビウスは今、自分の行ってきたこと、これから行われることに苛まれずにいられるのだ。
「そうだ、この冬は死者が無かったではないか」
支援を受けてから、飢餓の為に命を落とす者達は辛うじて無くなった。
だが、収穫はそれ以上に減っている。前の秋は支援が無くては街全体が冬を越せないほどだった……。
「支援があるからこそ、この街は生き延びられているのだ」
正しいやり方とは言えないかもしれないが、選択の余地は無かったのだ。
けれど、以前より街の住民達は無気力になってしまったのではないか。
ふとそんな考えが過ぎる。
配給で命を繋ぐ事ができるようになった今、辛い畑仕事や労働を好まなくなったように感じられる。
ごくりと喉が鳴った。
だが乾いた喉は潤わない。
「そんな事は……」
浮かんだ考えを打ち消そうとしたが上手く行かなかった。
ひどく喉の渇きを感じたまま、ジェビウスはのろのろと身体を返し、部屋に戻ると台帳を収めている棚へと向かった。年毎に商益や作高を記してある台帳だ。
震える手が何とか硝子を嵌め込んだ扉を開き、数冊の台帳を掴み出す。
完全に掴み切れず、取り出した革の冊簿はバラバラと床に落ちた。
束の間、ジェビウスは引っ繰り返った革の表紙とそこから覗いている記帳の数字を眺めていたが、弾かれたように屈み込むと、手に触れた年から勢い良く台帳を捲り始めた。
この数年を比較するように、並べた記帳面を交互に忙しく視線を走らせる。
次第に、ジェビウスの唇から呻き声が洩れた。
僅かずつ、月毎に見ただけでは判らない程の数値ではあるものの――
支援が始まるのに反比例するように、全ての数値が減少し続けていた。