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王の剣士2「絶滅種」  作者: 雅
第一章
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第十章

 朝になってもジウスの現われる気配は無かった。レオアリスの黒い瞳の中に、翳りの色が浮かぶ。


「仕方ない、行こう」


 もし来た時の為にと、宿に言伝だけ置いて、二人は宿を出た。


 昨夜は暗くて判らなかったが、ミストラ山脈は既に街の東を阻むように、高く目前に連なり聳えている。

 山脈の尾根から湧き出したかのような厚い雲が、空を塞いでいた。


 街の門へと歩き出そうとした時、抑えた声が掛けられる。

 振り返ると、路地の陰に中壮の男が立ち、二人を素早く手招いた。


 昨日宿にいた男達の中に見た顔だ。

 レオアリスが歩み寄ろうとするのをロットバルトは一度止めたが、それを手で押さえて男に近寄る。


 男は二人が自分の方へ来るのを見て、更に数歩、細い路地の奥に退った。


「何の用だ」


 石の壁に手を付いてレオアリスが問うと、男は誤魔化すような笑みを浮かべる。


「あんたら、サンデュラスの商人と会えたのかと思ってな」


 ロットバルトが傍目には分からない程度の、警戒の色を蒼い瞳に浮かべる。


 男の眼に少しの間視線を注いでから、レオアリスは首を振った。


「――残念ながら、会えなかった」

「なるほどなぁ」


 男は一人納得したように頷くと、二人に意味ありげな視線を向けた。


「何だ?」

「……今はものが少ねぇ。分かんだろ?」

「何の事だ?」


 レオアリスの瞳に浮かんだ光が鋭さを増す。

 男はその光に僅かにたじろいだが、浮かべた笑みを崩さないまま両手を軽く広げた。


「とぼけても無駄無駄。わざわざサンデュラスの奴と商売するなんて、目的は一つしかねぇよ。忠告しといてやるが、一般にゃ知られてなくたって聞く奴が聞きゃあすぐ判る」

「――」

「別に軍に突き出そうってんじゃ無い。ただ、せっかくエザムからはるばる来といて手ぶらで帰るんじゃ、商売上がったりだろ。

ま、おたくら商人風にも見えねぇから、単に道楽かもしれねぇがよ。……街に直接行けば、もしかしたら手に入るかもしんねぇ」

「……どこで」

「教えてやんなくもねぇが……」


 そこで言葉を切り、右手の掌を上に向け、親指と人差し指の二本の指を軽く弾く。

 レオアリスは小さく溜息を吐いた。


「場所と、店なら店の名前。幾らだ」

「そうだなぁ。場所で十、店の名で五。銀貨でな」


 銀貨十五枚といえば、王都でも中流の住民達のひと月分の稼ぎに相当する。レオアリスはもう一度、話にならないというように大きく息を吐いた。


「アホか。確証も無い情報に誰がそんなに出すかよ。合わせて五」

「十四。その後ろのキレイなのは金持ってんじゃねぇのか? 見たとこ、十五なんてそいつの着てる外套一枚にもならねぇぜ。なぁ」


 男は探るような目つきでロットバルトに顔を向けたが、レオアリスはそれを無視して短く言葉を告げる。


「六」

「……十三でどうだ」

「六。たった二言喋るだけでそれだけ入るんだ、十分美味しいだろ」

「十二!」


 レオアリスがただ肩を竦めて譲る気の無い事を見せると、男は大げさに息を吐いた。


「ちっ。……先払いだ」


 突き出された男の掌の上に、取り出した銀貨六枚の内、三枚だけを乗せる。


「……ガキのくせにしっかりしてやがんなぁ。――鍵屋通りのエルロイって店に行ってみな。そこなら金次第で、ま、ほぼ確実に手に入る」


 受け取った硬貨を懐にしまって男が路地を出るのを見送り、レオアリスは重い息を吐いて路地に寄りかかった。

 視線を上げた先には、建物に一部切り取られた灰色の空が見える。


「あんなのが多いのか。思った以上に流れてるな」


 真偽はともかく、ここまで簡単に情報が手に入るのは、決していい傾向ではない。

 アリヤタ族の内臓の密売が、想像以上に容易く、一般化している事をも意味する。


「一件一件上げても埒が明きません。根元を押さえればそこから張った根を伝える。まずはサンデュラスに向かいましょう」


 頷いて、レオアリスは壁に預けていた身体を起こした。






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