第一章
シリーズ物ではありますが、単体でもお読みいただけます。
石造りの家並みはどれも無残に崩れ、焼け爛れてあちこちで煙を上げていた。
周囲を取り囲む鬱蒼とした森を照らし出す紅連の炎の中に、赤子の泣き声が響く。
足音が近づき、瓦礫の中を覗き込んだ。
瓦礫の周囲には、炭化した幾つもの黒い影が倒れている。
男は燃え盛る炎の中に、無造作に手を差し入れた。
瓦礫に隠されるように埋もれていた包みを、ゆったりとした腕が拾い上げる。
そこだけ炎が避けて通ったかのように、包みには焦げ跡一つ無い。
布に包まれていた赤子は男の腕に抱きかかえられると、ぴたりと泣くのをやめて自分を覗き込む黄金の瞳を見上げた。
途端に瓦礫が最後の支えを失って音を立てて崩れ落ち、激しく炎を巻き上げた。
(一)
彼等は初めから、その厳しい地にいた訳ではない。
だが彼等の種としての弱さは、他種との競合の中で、次第に彼等をより過酷な地へと追いやっていった。
急峻な山肌、果実を結ばぬ木々、天を突く先峰に陽光は遮られ、大地の恵みは乏しい。
時に餓えで幾人もの仲間を失い、それでもそこは、彼等にとって安住の地ではあった。
単にそこ以外行く場所を持たなかったとしても。
一つの選択を示そう。
彼等はある手段を持っていた。
それは彼等の餓えを満たし、命を繋ぐ。しかも容易く。
それは、恵みをもたらすばかりの手段ではない。
どんな選択が最善か。
どの段階で、誰に答えられるだろう?