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第一話 幽閉生活からのスタート、だと!?

 気が付くと、畳の床に寝転がっていた。

見上げていた天井をじと目で見て、思わず呟く。


「きたにゃいてんじょぅ……………っ!」


 出てきた言葉の滑舌の悪さに愕然として、心の中で床に手をついて落ち込んだ。

 子供、ですやん………。それも、三歳児とかそこらへんの子ども並みの滑舌の悪さと声やん………。目を覆おうとして、掲げた手の平があまりにもちっちゃすぎて、赤子の紅葉の手の平を連想させて、落ち込みを通り越して皮肉げな笑いが込み上げてきた。


 ああ、またか。


 仏教用語に“輪廻転生”というものがある。意味は人が生まれ変わり、死に変わりし続けること。「輪廻」は車輪がぐるぐると回転し続けるように、人が何度も生死を繰り返すことを指す。「転生」は生まれ変わること。「転生輪廻てんしょうりんね」ともいう。


 また、民俗学や陰陽道の分野に『魂魄こんぱく』という概念があるの。《「魂」は、人の精神をつかさどる気。「魄」は、人の肉体をつかさどる気》死者のたましい。霊魂、だと云われている。


 まあ、それはいいんだ。

 

 なにが言いたいかと申しますと、実はですね……。“僕”はまた、輪廻を巡って記憶を引き継いだまま“転生”というものを果たしてしまったらしい。


 ぶっちゃけ死にたい。もう死んでしまいたい。穴があったら埋まってしまいたい。僕は貝になりたい。モノホン(本物)の貝にはぜったいなりたくないケドっ!!


 死ね、ない………。


 何度死んでも、何度生きても、何度生まれ変わっても、終わりが来ない!! 


「正直、泣きたい………。(泣いてもどうにもならないんだけども)」


 ふと気になって、股間に手をやる。


「………………あは、ははははは。…………ついてる………」


 再びがっくり項垂れる。

 今生、男でした。前世もそのまた前もそのまたまた前も女だったから、ちと期待したのに―――男、でした。


「うわぁぁぁあんっ! 泣きたいわこのあふぉんだらァ!!」


 男って、男って、なんで男なんだよっ!! 生きにくいわこのヤロウ阿保野郎っ、女なら貞操の心配して、逃げ足強化して、安心して寄りかかれる大樹を見つければあとは一安心だったのに、男って……っっ!! 自分の身は自分で護って、死ぬまで自分の生活費の心配と金策に悩まされ、なにかあったら大人に真っ先に殺される対象じゃんっ! 女なら貧しくても遊郭に売られて生き延びられるけれども、男だったら口減らしで殺される対象じゃねえかっ!! どーすんだよ、死亡フラグがたったよ?勝手に死亡フラグが建ったよチクショウめ!


「あ」と声が出て目を見開く。なんで鉄格子なんて嵌ってんだこの座敷。おかしいぞ、ガキだよな? この体ガキだよな? なんで座敷牢になんか入れられて、って……うわっ!?


「………っ、………なんだこれ?」


 後ろに下がった拍子に足に引っかかった“モノ”を見やる。白銀の……毛むくじゃら―――違った、人間だ。僕と同じような薄汚れて擦り切れた和服もどきを着ている。和服じゃない、和服“もどき”だ。ゴミと変わらんボロ雑巾の如き布を和服とは呼ばん。


 少々のイビキをかきながら体を丸めて縮こまるように眠る“ソレ”。見たところ、年の頃はこの“(からだ)”の僕と同じくらいか、少し上。長く伸び放題になってしまっているぼさぼさの白い銀の髪を掻き上げてみると、幼児というべき子供ながらにして、そら恐ろしいほど整った美貌が(あらわ)になる。

その顔をもろに見てしまった“僕”は目を瞠り、絶句した。いや、思考回路がぶっ飛んだ。次いで思わず握った拳を口元まで持っていって、眉根を寄せ、難しい顔をしてしまう。


「ヤバいぞこの少年。まだ幼いのにこれだけ顏が整ってるなんて、将来が心配だわ」


 ほ、と息をついて口元に当てた拳を開けて、そのまま頬に持って行ってしまうのは、長年“女”として過ごしてきた時の癖。早く直さないと、と自分の現在の性別を思い出して、腕を組む。男としてなら、こちらの方が自然な仕種だと思うから―――。


 世の中には人攫いどころか、男が好きな衆道者や変態、男茶屋とかいう男相手に色を売る男娼なんてのも居る。奴隷制度は多分ないだろうが、無いと信じたいが、このぐらいの容姿だと将来も見込まれてさぞかし高く……―――やめよう。取らぬ狸の皮算用は。


 彼は少し手入れすれば見られるようになる綺麗な獣だ。自分で何とかするだろう。少なくとも女には困りはしない。大丈夫だろ、なんとかやる。彼だってこれから“男”になっていくんだから。


 それに見ず知らずの“他人”の心配までするなんて僕がバカみたいだ。それで何回裏切られて殺されてきた? いい加減学習しろ。自分の分だけ考えて、自分が二十歳以上まで生きられる道を探らなければ。状況も、立場も、自分の情報さえ怪しい幼児の身ではなんともいえないが、少なくとも10歳以前での死だけは避けたい。


 そっと寝入る少年の傍に腕を組んだまま、胡坐をかいて座ろうとすると、幼い白銀の獣が身動(みじろ)ぎする。手足をばたつかせ、秀逸な美貌を顰めて何かを探すように手を彷徨わせる。その手を僕が掴もうとしたその時、


「う~………あっ!」

「うぎゃっ!?」


 掴まれた手ごと体を引っ張られて、僕の体はすっぽりと少年の腕の中に埋まり、身動きが取れなくなってしまった。彼は満足そうに僕に擦り寄ると、そのまま僕を抱き枕にしたまま、また眠りにつく。暫らくしたら、すぅ、すぅ……という健やかな寝息が彼から聞こえてきた。


 幼いながらも整い過ぎた東洋系の顔と長い(まつげ)を見つめながら、僕は胡乱気に呟く。


「どないせいっちゅうねん」


 抱きしめられた少年の体は思いのほか小さく、それ以上に自分の体格と同じくらいで。抱きしめ帰した体は、ちゃんと食べているのか、問いたくなるくらい、今にも折れそうなくらい細くて、ガリガリで。心底いろいろと心配になった自分は、子を護る『母』的な女の気質が染みついていると思った。


 少年の頭の横から窺い見える鉄格子はとても大きくて、冷たくて。灯りのロウソクの火もほぼなくて、薄暗くて、不気味で。だけど、少年の体だけは温かかった。


 あ~ああ、女子大生から始めた輪廻転生人生。もう何度目かもわからない転生を果たしたのだが、今度は男、しかも幽閉からのスタート、だと!?


 ほんま、どないせいっちゅうねん。でもま、しゃないから地道に生活改善からがんばりましょか。先ずはこの鉄格子の座敷牢から抜け出したる。そんでこの少年をちょっとばかし綺麗にするんや。自分の容姿も確認したい。ふふふ、生きる楽しみがひとつ、ふたつできた。では、〝いつもの如く”。


 志と合言葉は『目指すは高嶺(たかね)(はな)。泥にまみれても心は気高く曼珠沙華(まんじゅしゃげ)』! 


 この世にまた生を受けた以上は、いっちょ(あらが)いまくって遊んでやりますか。

こちとら戦乱の世を駆け抜けた元、忍者(の経歴もある)です。毒にも刺客にも戦争にだって負けません!! 負けないようになってみせます!!


 でもま、今は………この温かみに身を任せてもいいよね? 


 おやすみなさい。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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