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閑話.梅雨の山菜と師の記憶

主人公の名づけ話、書こうとして、長くなったから半分に割りました。

また、この前に時系列的に割り込み投稿するかもしれませんが、ごめんなさい。よろしくお願いいたします。



 数えで4歳児の幼い少年の体に転生したと気づいて早30日。

 約一ヶ月が経った。

 屋敷の外庭に紫陽花が咲き乱れ、木々は雨露に濡れて青々と生い茂る。

 日に日に気温が上がっていくのがつらい。夏は苦手なのだ。多くの人を亡くした季節だから。記憶上の“僕”自身たちも、その身内も―――………夏は苦手だ。

 僕は働いていた手を止める。

 常は暖かな日差しが差し込み、吹き込む風が年中通して過ごしやすい気候を作ってくれる中庭に面した部屋。そのなかの一室、銀の部屋の開かれた障子戸から、昼にしてはほの暗い空を見上げると、ちょうど雨が降って来たところだった。

 ぽつり、ぽつりと降り始めた天の雫は、時が経つにつれて、しとしとと降る大地に優しい長雨になり、軒下から伸ばした僕の手の平を濡らす。

 蒸し暑い梅雨の季節が確実にやってきている。

 僕は手の中に落ちた天の雫を握りしめ、なにも干していない物干し竿を見て呟いた。


「今日はなにも洗濯物干してなくて良かった。服がないもの」


 まぶたを閉じて、握った拳をそっと胸に当てる。優しく降り注ぐ天の雫が奏でる音楽が耳に心地良い。


「雨のニオイと空の様子による僕の天気予報、大当たり哉」


 早朝、寅の刻(朝4時頃)に起きて、体力不足を補うための、ぶっ倒れるまで走り回る全力運動と、ご飯を狩る為に山に登った時、分け入った草木が雫で濡れていたから、昨日降った雨がまた、今日も降ると思っていたんだ。明るくなっていく空も、雲も、風のにおいも、ぜんぶ、ぜんぶ今日、雨が降るって僕に教えてくれていたから。


 可笑しくなって、くすりと笑う。

 裏山で取れた山菜を千切ったり、水で洗うなどして、下ごしらえをしながら、暫らく音を聞いていた。


 (わらび)、三つ葉、山椒(さんしょ)の葉。木イチゴにゆすら梅。

 たくさん取れた山菜たち。


 鍋に水を張り、重層と一緒に入れてアク抜きをしているワラビの一部は今日食べよう。


 健康にいいお茶を作って、貯蔵しようと、マタタビの葉もとってきた。

 これを猫にとられないように干して、乾燥させて、いぶして、パックに詰めれば、美味しい健康茶が出来る。元手はほぼタダだから、お財布にも優しいしね。


 もう少ししたら、マタタビの実を使って、マタタビ酒を造り始めましょう。滋養強壮の効果があって、体にいいのよねぇ。生の実や、お酒を作った後の残りカスで味噌漬け、塩漬けもいいわね。苦みがあったり、独特の味がする大人の味だから、子供は嫌がるかもしれないけれど、村人たちは好きかもしれないわ。一番最初に山に登った時、出会ったおじさんが村長さんの息子さんらしくて、味噌(みそ)とか、(ぬか)(どこ)とか、調味料の類をわけてくれたり、なにくれとよくしてくれるもの。恩返しと御裾(おすそ)わけしなきゃ、女が(すた)る。少なくとも猫は好きだし、ダメなら野良猫にばら撒くか、自分で消費すればいいのよ。大人になれば、お酒も自分で消費したいけれど、20歳を超えるまでは、体に悪いからダメね。成長を阻害してしまうもの。それより、金策に使った方が無難かしら?


 陰干しにするため、マタタビの葉を洗っていた手を止めて、難しそうに眉根を寄せる。


『またたび』という樹木は、旅人がこの木の実を食べると、再び元気を取り戻しまた旅をしたことから、この植物の名が付いたと言われているもの。滋養強壮の効果もある。

 旅のお供に、だとか、最近ご無沙汰ぶりの夫婦仲や恋仲、遊郭でも一杯どうですか?なんて、売り文句で売り込めば、今月の生活費分くらいは稼げるかしら?


 妙に艶めかしく、顎に指を添えて、金策に思考を巡らせる。と、気づいた。

「………いけねぇ、いけねぇ。僕、男やん。家事しとると思考が女になるからいけねぇよ。座り方まで、あらあらまあまあ……」


 やり始めた時は、胡坐(あぐら)をかいていたはずなのに、いつのまにか内股に座り込んでいた己の有様をみて、マタタビの葉を一旦置き、ポンと貧弱な雪のように白い太もものあたりを叩いた。心の中で自分を叱咤(しった)し、今度は意識して、胡坐をかき直す。


「男らしい仕種を早いとこ身に着け“なおさないと”、男の格好していても女に見えるオカマさんになってしまうよ。おお、イヤだ、嫌だ。恰好に反した仕種をするなんて、僕の矜持に反するね!」


 手に取ったマタタビの葉や、他の山菜をじゃぶじゃぶと、無理やり“男らしく”を心掛けながら、土を落して洗っていく。胡坐をかいていたら、やりにくかったので、片膝を立てて、将来のもしかしたら像“男に掘られるオカマ(?)な自分”の図を、マッハパンチからの回転蹴りで百万光年先に男らしくぶっ飛ばして、心の中でシャドー(ボクシング)をかます。


 脳内に蘇るのは、戦国時代の“僕(女)”に忍術と武術、薬術、遁走術、その他戦場で生き延びるためのほぼ、全ての術を教えてくれた師匠の姿。

 ほっそりした長身の“男らしい”鍛えられた体躯に、キリリと釣り上がった目元鋭い美人の………化粧が濃いオカマ。


 そう、オカマだったんだよあの人。

 僕の師匠は、4代目風魔小太郎の幼馴染で、独身で、美人で、有能で、オカマだった。

 本人曰く、オネェ言葉と仕種は、変装時の女装のし過ぎによる弊害といっていたから、真正ではないのだろうが、それにしたって他にも変装の幅はあるだろうに、記憶の中のあの人は、共に任務を受けた時は、必ずと行っていい程、女装をしていた。

 それがまたよく似合う。

 化粧が濃いのが難点だが、もとが要らない筋肉のない極限まで鍛え抜かれた細見の美男子だったので、その変わり様といったら見事の一言しか尽きず、なおかつ所作まで完璧で………当時の僕の女としてのプライド、粉々粉砕だよ。例えるなら、険しい滝壺に落ちる流水か、空気を切り裂く鎌鼬さえ受け流す如き柳のような御人でした。

 アレだ。なんかキツくて、激しいんだ。そしてやり手なんだ。


 今の僕がもし、あの人を目指したとしても、あんな見事に擬態できまい。それどころか、そこらの女より艶やかな黒髪をお持ちのキツめ美人オカマは、記憶の中で高笑い、僕にダメ出しをする。

『オーッホッホッホッホ! 日頃から意識してないから恰好だけ変わっても異性に見えないのよ! いいこと? 自然な男女の動作は、日頃の行いが作るの。アナタみたいに意識を忘れると現在の格好から外れる様ではまだ二流、三流!』


 つんと澄まして、見下げ果てた視線を薙げてよこす師匠。僕は惨めな気持ちになる。


『一流名乗ンなら、意識してなくても、それらしい格好に即した動作が出来なくては、ダ・メッ! 先ずはアタシを真似してみなさい。次に周囲の人間をよく観察して真似てみなさい。その上で、アタシを越えるつもりでなりきって見なさい! “男としてのアナタ”という別人格を作り上げるつもりで、想像力を練り上げ、なりきるのよ! 大丈夫。アナタなら出来るわ』


「おっす、師匠!」

 思わず実際に声が出た。

―――銀はいつも通り、寝ているから別にいいよね。あ、寝返りうった。髪が邪魔そう。今度、刃物を研いだら、散髪してやらないとね。僕も銀も。伸び放題だから。


 記憶の中の師匠は、大輪の花が咲くが如く艶やかに微笑む。


『うそこさ出来んきゃったら異性の格好した変態が出来上ぎゃるだけだぎゃあ、しっちゃばいてぼこした後、けっさらって谷にかっぽるべえよ。……その上でいつもの5倍の鍛錬をさせてあ・げ・る』

訳:(仮に出来なかったら、異性の格好した変態が出来上がるだけだから、シバいて酷い目に合した後、蹴っ飛ばして谷に捨ててあげるわ。谷から帰って来たあなたには、その上でいつもの五倍の鍛錬メニューを強いるわよ? アナタを苛めるのが楽しみね。オーッホッホホホホ!)


 語尾にハートがつきそうな、相州(さしゅう)(神奈川)弁風の甘い口調で、師匠はそら恐ろしいことを喋りはる。脳内で師が言わなかった言動も自動再生済みだ。ここには師匠は居ない筈なのに、記憶上、作られた、骨の髄どころか魂の底まで染みつかされたトラウマが蘇り、夏なのに極寒の如き寒気がする。


 僕はぶるりと体を震わせた。


 師匠ならやりかねない。そして、出来るまであの人は僕を谷底に突き落として、高みから嘘泣きしてみせながら、あからさまに嘲笑うのだ。ざまあみろって。


 だけど、あの人を真似るなら、日頃の男の格好でもオネェみたいな人になるってことで……。


「それだけはイヤだ。恰好に沿った姿をするから、変装術やお洒落なんかは楽しいのに。ああ、嫌だイヤだ。カマだけは嫌だな。うん。女の格好している時なら、笑って流すが、男の格好をしていてもカマ呼ばわりだけは嫌だ」


 ちなみにこのやり取りが過去にあった時、言われた日の僕は結局、異性側の変装術をその日のうちに習得できず、本当に師匠にシバかれ、大事な幼馴染の前で辱められ、足柄山近くの谷底に命綱付けた状態で蹴っ飛ばされて、リアルバンジージャンプさせられた。ついでにいうなら、その命綱はピンと張った状態で切れ、海まで流れて土佐に流れ着き、国主の子と仲良くなって、大量の魚貰って帰ってきたら、五倍だった鍛錬が10倍に増えていたのは、完全なる余談である。


「だけど……身の振り方は、考えていかねばなりませんね」


 洗い終わった山菜を今日食べるものと、干すものや、保存するものに分けて、農作業用に手作りしたザルに入れる。


「女装を嗜むにしても、武芸者になるなどの男街道を突き進むにしても、ここで若隠居生活を送るにしても、………今生は、どう過ごすか、早めに決めないといけませんね」


 外を見ると雨が小雨になってきたところだった。

 けれど、今日はきっと一日中降るだろう。ニオイと勘がそういっている。


「とりあえず、体力改善して自衛が出来る程度には鍛えますか。目指せ一流。なせば成る」


「と、その前に昼餉(昼食)の支度をせねば。ああ、主婦(?)は忙しい、忙しい。屋敷の掃除も8割方まだ残っていますし、昼食が出来たら銀を叩き起こさないと。ああ、メンドイ、メンドイ。楽がしたい」


 僕はザルを持って、ぱたぱたと小走りで台所へ向かった。




相州弁こと神奈川弁わからん。

わたし(作者)は兵庫の人間じゃあ。暴露すると、東京なんぞ、一回、でぃずにーらんどに行ったことしかありゃせんて。

忍者は好きだが、地元からなら京都の太秦映画村(←影響)や、伊賀が近い。風魔を選んだは、響きとBASA〇〇の影響たい。風が入ってて素早さそうなのが良かった。城主の気風も平和で好みだった。それだけのこと。

 伊賀は守銭奴のイメージが強くて、技を誇りにして、性格キツソウなのが多いイメージで、ちょっと遠慮したかったネ。

 風魔は後年、泥棒、野党になる荒くれ集団的側面あったけんど、速くて情報網に優れていたらしい。

 甲賀は………特にイメージなし。服部半蔵? よくわからん。調べる。


 山菜は財布にも健康にも優しいです。

 残暑見舞い、申し上げます。敬具。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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