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二日目・距離を少しずつ縮めます

 皐月の目の前に広がるのは豪華な料理。

 見るだけでよだれが出てきてしまう。自分では食い意地ははっていないと思っていたばかりに皐月は意外な気分だった。


 しかし、この料理を目のあたりにしてしまうと、それも仕方のないことだろう。この料理を作ったのは、この仮面舞踏会を企画した高校の中のある一つの高校のOBで、有名なレストランのシェフだという話だ。

 近いうちに、世界的な料理の評価本の星をもらえるのではないかと専門家の間ではうわさになっているらしい。

 その料理の匂いを思い切り吸うとお腹がなってしまった。思わず皐月の顔が紅くなる。


「翔君はお腹が減ってるんだね。私の食べる?」


 優しげな声で語りかけてきた葵を見てみると、スプーンにおいしそうなお肉を乗っけて皐月に向けていた。

 ごくりと生唾が皐月の喉を通る。

 緊張しながら、葵に近づいて、おそるおそる口をあけて食べようとしたところで、葵はくるりと翻り皐月から離れてぱくりとお肉を口に含んだ。


「ん~。おいしい!」

「滅びろ」


 瞬間的に皐月はそう呟く。

 そもそも皐月の翔君仮面が顔の全体を覆っているので、皐月は料理を口にすることができないのだ。もちろん葵もそれを分かっていてやってきたのだろう。

 なんて非道な行為だ。

 仮面があるのも忘れて口を大きく開いたのに、なんという仕打ちだ。

 皐月は葵に非難の視線を向けるが、当の葵は何処吹く風でセバスに近づいていき、


「こ、これ……おいしい、です」

「確かに。おいしいね」

「…………えへへ」

 

力が抜けたようにはにかみながら、セバスと会話をしているのであった。


「ぐぐぐ……」

「なんて声を出してるんだい君は……」


 いつの間にか隣に来ていた王子が皐月に話しかける。

 話しかけられた皐月は王子のほうを向く。葵がいじめてきて悲しい気持ちなので王子に慰めてもらうことにしよう。

 そう思ったが、王子の手にはおいしそうな料理が乗った皿。

 王子はお箸でそれを掴むと口に入れる。


「うむ、美味である」

「嫌がらせか!」


 ここにくるまでで皐月が仮面の都合上食べ物を食することができないことは王子とセバスに伝えていた。

 これは、確信犯に違いない。


「王子にだけ上手いものを食わせてたまるものですか……!」

「うぐっ! や、やめ……お腹押さえないで……!」


 皐月は胃から王子の食べたものが逆流するかなとお腹をぐいぐいと押す。ちらりと王子の顔を見てみると顔が青くなってきていた。けっこうな効き目があるようだ。


「今回はこれで勘弁してやろう」

「いや、本当に頼むよ」


 本当にきつかったのか、王子はげほっと咳をしてから真剣な声色で皐月にお願いするように話す。口約束だし別にその時の気分だし、と皐月は王子の言葉を心の中で軽く流してから、セバスと葵の二人の様子を眺める。


 セバスがいい人だからなのか、葵はいっぱいいっぱいになりながらも、楽しそうに会話ができているようだ。セバスと葵の両人の表情が笑顔であることが証明になっている。

 これなら、皐月がいなくても葵はセバスと交友を深めることができて、大丈夫なのかもしれない。


 しかし、葵のセバスと仲良くなりたいという願いとは別に、皐月もセバスのことを見極めようとしている。

 ここで、あとは若い二人におまかせしますわーなどという仲介のようにどこかへ行くような手はないのだ。

 葵とセバスが楽しくやっているようだが、ここは心を鬼にしていかなければならない。


「ほら、行きますよ」


 水を飲んでお腹の調子でもと整えるつもりのようであった王子の腕を引っ張って二人の元へと行く。

 青いとセバスの二人はすぐに皐月と王子に気づいて、にこやかな笑みを浮かべてくるが、王子の様子に怪訝そうな顔をした。


「王子どうしたんだ?」

「いや……まあ、色々あったのさ」


 王子はそのように言うものの、セバスのイメージよりは勢いがいまひとつ足りないようで首を傾げて不思議そうにしていた。しかし、セバスが深くは突っ込んでほしくなさそうな態度を取るものだからそれ以上は聞けないようだ。皐月としても、そちらのほうがありがたい。

 そこからは葵が皐月に気を使って機転をきかせてたのか別の話題に移っていく。

 セバスが同じ場所にいても、普段通りの葵に近い状態が維持できていた。さっきの乙女モードはなんだったのかと皐月は葵に問いたくなる。実際は上手く場が弾んでいるので、文句を言うとしてもこの日の仮面舞踏会が終了した後になるのだが。


 ひとしきり、ご飯を食べて一段楽したところで、王子が皐月に例の話について尋ねてきた。すなわち、ゲームの件だ。


「それで、ゲームとか言っていたね。何をするんだい?」

「そうですね……」


 皐月はもったいぶったような口調で話をするめる。

 考える時間はたっぷりとあったので納得できるような候補が思い浮かんだのだ。無論、先ほどまで焦りで汗が噴出しそうになっていたのはほかの三人には内緒である。


「ここは、男女が混合しているので王様ゲームとかはどうでしょう」

「へえ、王様ゲームか」

「王様ゲーム……!?」

「王子様ゲームではないということか」


 皐月の提案に各々がそれぞれの反応を示す。

 セバスは何か面白そうな感じで、葵は虚を疲れたような驚いた声を出し、王子にいたっては独特すぎて皐月にはよく分からなかった。

 なんだ王子様ゲームって。パチモンじゃないか。


 ここでまた葵からお呼びがかかり、セバスと王子から少しはなれたところに連れて行かれる。これも二回目である。皐月は逆らうことなく葵につれられていく。


「ちょっと王様ゲームって、ただの例として出したんじゃないの?」

「大丈夫、大丈夫。けど、定番でしょ?」

「まあ、そうなんだけど……」


 どこか腑に落ちずに、どうにかして言葉を捜そうと葵は頭をひねる。

 しかし、皐月は話すことはこれしかなく、これ以上理由付けを求められても、それに対応することはできない。

 葵の手から抜け出してセバスと王子の下へと戻る。


「あっ!」


 後ろのほうで葵が気づいたようだが時すでに遅しだ。

 セバスと王子が葵がこちらに来ることを待っている。皐月を呼び戻して文句を言うこともできない状態だ。

 おそらく葵は憎憎しげに皐月を睨んでいるのだろう。じっと皐月のほうをみている。それでも何もなかったように、葵は笑みを浮かべてこちらに寄ってきた。

 葵が合流したところで再び会話が始まる。


「けど、俺王様ゲームとかしたことないなあ」

「そうなのですか? セバスはばりばりやってそうに見えますが」

「どこからそんな印象がでてきたんだよ……」


 皐月が首をかしげながら言うことに、セバスは呆れ気味で反応した。

 顔全体が見えないので判断しづらくはあるが、それでもセバスは異性の友達が多そうだし、女子とはほどほどに遊んでそうだというのが今の皐月の印象である。


「し、失礼なこと言っちゃだめだよ!」


 皐月に大抗議するように大声を張り上げる葵は当の本人のセバスからなだめられていた。

 本当に女慣れしているのではなかろうか、と皐月に疑惑が生まれる。

 セバスと仲がよいという王子なら知っている可能性もあると思い、王子に顔を近づけて耳打ちする。


「セバスってけっこう女の子の友達多いのじゃないですか?」

「おお、よく分かったね。確かにそうだよ。僕が遊びに誘っても、今日は約 束があるからと女の子に囲まれて申し分けそうな顔で断りを入れてくるのだ。もうちょっと、この僕の扱いについて考えて欲しいよ」

「すみません。そこまで聞いてないです」

「!?」


 王子が落胆しように肩を落とすが、皐月が求めていたのはセバスが女友達が多いかどうかだけである。王子とセバスの関係性なんて聞いてないし、言われても困るというのが正直な感想だった。そこは当人同士でどうにかしてほしい。


 しかしちょっと王子を励ましたくなったので肩をぽんと叩いてから顔を離す。

 そうすると、セバスがにやにやとこちらを見ていた。なんだか、とても嫌な予感がする。


「もしかして、そういうこと?」

「いや、違いますから。それだけは違いますから」


 案の定、そういう疑りをしてきた。

 セバスは何を勘違いしているのか。

 皐月が王子に顔を近づけていたのは、皐月が暗に王子にアピールをしていたということではなく、葵のために。

 それでもセバスは頑なにそういう関係にしたてないのか悪い笑みを浮かべている。

 このままでは葵と関係が逆転しまうかもしれない。

 皐月はセバスが何か口走る前にさっさと次に進めてしまうことにした。


「それでなんですけど――」

「あ、ちょっとその前に」


 皐月が話を切り出そうとすると、無粋にもセバスが話をぶった切る。

まだ言おうとするかと皐月は嫌な顔になるが、どうやらそういうことではないらしい。

 セバスはある提案をしてきた。


「そもそも翔君は仲良くなるためにゲームをするじゃないの? だったらそんな堅苦しい言葉遣いを止めて欲しい。もっと気楽にいこうよ」


 そういわれてみると、皐月と葵は丁寧な言葉を選んでいるが、セバスと王子は気軽な話し方をしていた。

 そうか、まずはそこを直すべきだったのか。


 目から鱗の気分である。皐月はそれに納得し、葵にも目配りしようとしたが、なにやら葵は石のように固まってしまっていた。

 どうしたのだろうかと皐月は思うが、ふと葵がぼそぼそと何かを呟いていることに気づいて耳を傾ける。


「タメ語で話すとか、絶対お淑やかじゃないよ。だらしない子だと思われてたらどうしよう。でも丁寧な言葉を使い続けたら堅物だと思われる。どうすればいいの……!?」


 葵は錯乱状態に陥っている!

 必要以上に考えてしまい、土壷にはまっているようだ。

 なにがお淑やかに思われないのか。みんなそうしているじゃないか。


 それでも、皐月から動かないと葵はこのままのような気がするので、皐月からセバスに従うことにする。

 ここまで皐月の脳内フィルターでわずか1秒の出来事だ。


「そう? 分かった。そう言ってくれると助かるな。ほら、葵も」

「ふぇ!? え、ええっと……うん。そうだね」


 意識がトリップしていた葵も無事に戻ってくることができ、皐月も一安心だ。

 ……いや、セバスににこっと笑いかけられて、また意識がどこかに飛びそうになっていた。


「大丈夫かな……」


 そんなことを呟く皐月を王子が不思議そうな顔で見つめていた。

 何のことに対して言っているのかが分からないのだろう。

 まあ、それはそれでいいとして。

 皐月は気を取り直して説明を開始する。


「それで、王様ゲームっていうのは――」

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