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二日目・自己紹介しました

「ちょ、ちょっと皐月いきなり何言ってるのよ!」

「引っ張らないでよー」

 力強く葵に腕をつかまれ、皐月はそのまま男二人とは少し離れた場所まで持っていかれる。皐月の視界には焦って取り乱している葵の姿がばっちりと映っていた。

「だいたいゲームって!? いきなりとちくるったと思ったよ!」

「なにそれひどい」

 小声ながらに怒鳴り散らしてくる葵を皐月は何処吹く風で対応するが、その言葉には少々心が傷ついた。

 葵は仮面で隠れていない部分までも顔を真っ赤にしながら皐月に詰め寄る。


「協力してくれるって言ってたのに……! こんな突拍子もないことを言う友達がいるって分かったら、私の印象も最悪になるじゃない!」

「今とてつもない勢いで、私の中の葵の印象が最悪になってるんだけど」


 突拍子もないことを言うなんてことを思われていたなんて……。

 複雑な気持ちであるが、ちょっと自覚があるので強くは言い返せない。

 そもそも、ゲームをしようという発言も葵のことを思ってのことだったので、今のこの責められている状況は不本意だ。

「ちょっと落ちついて。これにはちゃんとした理由もあるんだって」

「なに? 私の恋を成就させまいとしてるってこと?」

 そういう葵のまなざしは鋭かった。

 わなわなと怒りで体を震わせる葵を宥めながら、さつきは説得するように説明を開始する。


「違う違う。たとえば、合コンとかでも王様ゲームってあるじゃない。あんなふうに、こんな突発的な出会いの場ではゲームをすることによって楽しさを共有して、二人の距離を縮めることっていうのが一つの戦略として確立されているわけよ」

「皐月も考えがあってあんなこと言ってんだ……怒鳴ってごめんね」

「いいってことよ」

「ちなみに合コン参加したことあるゆえの作戦なの?」

「………………」

「あ、ごめん」

「うるさい」


 最終的に皐月の機嫌が悪くなりつつも、離れたところから不思議そうにこちらを見ていた男たちの下へと戻る。

 いきなり皐月と葵が何か言い合っているようにみえて、理解に苦しんでいたことだろう。

「急にどうしたのかって思ったよ」

「あはは。気にしないでください」

 意中の人に話しかけられて緊張してしまい声を出すことができなそうな葵に代わって皐月が返答する。

――そもそも、この葵の緊張癖をどうにかしたほうがいいんじゃないかな

 と皐月は心の中で思うが、今回頼まれたのは会話をつなぐことだ。それについては一先ず今日を乗り切ってから話すことにする。


「それでゲームとか言ってたけど、この僕がするということになると、さぞ素晴らしいゲームなんだろうね!」

 そんなことを葵にとってはオマケの人が言ってくる。

 皐月としては、この人早くどこかへ行ってくれないかなと考えているだけあって、嫌な気持ちが顔に出てしまう。仮面をしていてよかったと思う瞬間だった。

「ああ、それはですね……」

 それについては、何も考えてなかった。

 自分の計画性のなさを軽く呪うが、うかうかしていると不自然な間となってしまう。

 皐月が脳をフルに回転させていい案がないだろうかと模索している時間を、名前が分からずに戸惑っている様子ととらえたのか、男二人は自己紹介を始めてくれる。


「ああ、そっか。俺たちをなんて呼んでもらうかまだ決めてなかったね。ええっと、何がいいだろうか」

「セバスでいいだろう! セバスで!」

「だから、俺は執事じゃないだけどな……」

 やはり苦笑いで対応していた。

 そんな姿を見た皐月は、

「いや、セバス、いいと思いますよ。その態度の丁寧さが表していて」

 と告げる。

 この場において名前などなんだろうという投げやりな気持ちも少しありはしたのだが、皐月の素直な感想だった。

 隣では葵もこくこくと頷いている。

「え゛っ」

 セバス――皐月はもうそう呼ぶことにした――は一瞬表情を固まらせたが、その後すぐに笑みを浮かべる。しかし、皐月から見てもそれは愛想笑いで、なんだかやりきれない気持ちがありそうだった。


「よかったな、セバス!」

 そうオマケの人に肩をたたかれて、セバスは悲しげな顔で遠くを見出した。

「俺の周りの人がみんなセバスって呼んでくる……なんだよこれ……」


 聞いてない。

 何も悲しいことなんて聞いてない。

 深く考えてはいけないので、セバスはそのままにそっとしておこう。


「それならこの僕のことは――」

「あ、まだいるつもりなんですね」

「……ッ!?」


 声も出ずに絶句という感じのオマケの人。

 皐月は何気なく心のうちを語ったに過ぎないが、それはオマケの人にはかなりのショックだったらしい。見るからに肩を落としてがっくりときているようだ。

 それはセバスには聞こえていなかったらしく、オマケの人が落ち込んでいる理由が分からずにおろおろとしていた。

 悪いことをしたかなあ、と思い、皐月はオマケの人の肩に手を乗せて、仮面で分からないのを承知でにっこりと笑いかける。


「きっといいこともありますよ」

「君がそれを言うのかい!?」


 皐月の台詞はオマケの人に止めを刺してしまったようで、オマケの人はいじいじと体育すわりをしてセバスに慰めてもらっていた。

 さすがに可哀想かもしれない。オマケの人もセバスと仲がいいのだから、そこまで悪い人ではないのかもしれない。そう思って謝ろうと思ったが、そこで葵がさっきから静かなことに気づき、一体どうしたのか横を除いてみると――

「……かっこいいよぉ」

――なんて呟きながら、セバスを見つめていた。

 今までの中で、特別カッコイイ場面があったか皐月は疑問に思うが、それは人それぞれの感性の違いによるものなのだろう。

 それとも、恋する乙女は盲目というやつなのかもしれない。


 それはともかく。


 オマケの人が本当に別の場所に言ってしまうのなら、ここには皐月と葵とセバスの三人が残ることになり、それでは皐月がお邪魔虫になりかねない。

 葵のこれからの頑張りが実ったとしても、皐月がいることで遠慮をさせてしまい、行動に制限ができてしまうことだろう。

 そういった意味でもオマケの人にどこかにいかれるのはまずいわけで。

皐月はセバスとオマケの人の下へ歩み寄る。いや、もうオマケの人という言い方はよしておこう。


「ちょっと私も浮かれていたのかもしれません。すみませんでした。あなたのことは王子と呼ぶ感じでいいでしょうか」

 皐月が注目したのは彼が被っているハットだった。

 きらきらとラメがはいっていて輝かしく、それになんだかとても王冠を連想させるようなシルエットなのだ。普段から使うとしたらとても似つかわしくないが、このような場だととても映えて感じた。

 特別な場でしか使えないようなハットなので、彼はそれに対して少なからず特別な感情を抱いているはずだ。

 王冠な用に見えるハットを着用しているため王子。なかなかいい発想ではないだろうかと皐月は思う。

 それに二人合わせると、王子とセバスでなかなか乙な感じがする。


「……ふふん! ならば、そうしようじゃないか! これから僕は王子と名乗ることにしよう!」

 フハハハハと笑い始める王子に皐月は若干引き気味になりながら握手をする。仲直りの握手だ。

 そして周りから絶大の注目を浴びる。とても恥ずかしい。

 握手した手を振りほどいてやろうかと皐月は思いながら力弱く笑う。

 セバスはそんな王子の様子に慣れたような振る舞いで空ろな目をしながら疲れた笑みを浮かべていた。

「あっ、別にこの状況になれてるだけなんだ……」

 慣れているだけで受け止めているわけではないようだ。

 普段からこの調子だとセバスはとても疲れているに違いない。それでもこの二人が仲が良いのはなぜなのだろうか。

 今その話は関係がないので、それは葵がいろいろと成功してセバスといい関係になれたときにでも聞いておいてもらおう。


「じゃあ、そのゲームってやつについて詳しく聞こうかな」

 そのようにセバスは切り出したので、それについて皐月が考えたことを口に出そうとしたが、セバスはさらに言葉を続ける。

「って言っておきながらだけど、料理を楽しみながらにしない? けっこう腹が減ってるんだ」

「おお、なるほど」

 王子もそれに賛同する声を出す。

 皐月も完全には考えがまとめきっていなかったので、時間を稼げるのなら願ったり叶ったりだ。

 葵はというと、

「セ、セバスさんの言うとおりですね! わ、私もお腹が減っています!」

 みたいな英語の教科書に載っていそうなことをちぐはぐと言葉にしながら、しかしものすごい勢いでセバスのいうことを支持していた。

 残るのは皐月だけなのでセバスは皐月を見るが、皐月がこくりと頷いたので、料理が盛られているテーブルへと向かうことになった。



「……やっばい。ゲームって腕相撲しか思いついてないんだけど、どうしよう」

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