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退屈な毎日にさよなら?

作者: 高原 夕晞



「姫、こんなところにいたんですか。探したんですよ?」

 そう声をかけてきたのはエル。私の従者。

「絶対戻らないからね!」

 エルはいつだって私を見つけてしまう。どれだけうまく隠れたと思っても見つかっては連れ戻される。

「そう言わないでください。私だって連れ戻さないと怒られるんですよ?」

 今日は特別なんですから。なんて念押しする。

 何が特別よ。特別の意味が違うじゃない。私の日だっていうのに、結局は退屈なパーティーなんだから。

 そう、今日私が逃げられていないのは、ドレスを身に着けているからである。いつもよりいいのもらしいけど、そんなのはどうだっていい。

「準備の途中で逃げ出すから女中たちが困ってますよ」

  顔を曇らせるけど、そんな手になんて引っかからないんだから。エルのいつもの手だ。

「ねえ、エル。今日は何の日だかわかってる?」

 こっちからも仕掛けてやるんだから。

「今日は大切な大切な姫のお誕生日ですよ」

「だから、私が少しぐらいプレゼントがあってもいいと思うの。だから少しだけ自由に過ごしてもいいでしょ?」

 お願いとばかりにエルを見つめる。エルはすごく悩んでるようだった。

「今日は姫の婚約者の方もいらっしゃるんですよ。そんな姿見られたら、どうするんですか」

 婚約者なんて、お父さんたちがかってに決めたものじゃない。私には関係ないわ。私は好きな人と結ばれたいの。

「好きな人なんていないじゃないですか」

 その言葉に一瞬詰まるけど、負けないもん。

「だから、一時間だけでいいの。お姫様じゃなくて、ただの私でいさせて?」

 エルは深くため息をついた後、仕方ないですね。と許してくれた。

「でも、私がずっと見てますからね」

 と怖い顔で付け足されたけど。


 ということで、私は自由を手に入れたのであった。限りある時間を有効に使わなければ。

 二人で城を抜けだして、街の広場へ。そこにはたくさんの旅芸人やで店が並んでいた。

「ねえねえ、あれは何?」

 私が見たことがないものもたくさん並んでいた。

「あれは玉すだれ、向こうは吟遊詩人ではないのでしょうか?」

 そこで目を引いたのは、不思議な楽器を持ち歌っている人。私はその人に近づく。

「ねえ、その楽器はなに?」

「アコーディオンと言います」

 そして、その人はアコーディオンを奏で始めた。

 いつも聞くピアノとは違う音が広場に広がっていく。

 私はなんだか、ウズウズしてそれに合わせて歌を紡いでいた。

 私の歌はデタラメで、ハチャメチャで、先生にはいつも怒られるものだった。でも、この人は私に合わせて少しづつ変えてくれてる。

 今はただただ楽しい。みんなに私の歌はきっと届いているよね。

 だんだんと、その歌は広がり、踊り始める人も出てきた。その人数はだんだんと増えていった。

 そして、広場は一体になった。同じパーティーみたいなのにどうしてこんなに違うんだろう。

 そういえば、エルはどこにいったのかな? 見回すものの、いないみたいだった。離れないようにって言ってたのは向こうなのに。

 存分に広場のパーティーを堪能して歌が終わると、拍手をもらえた。こんなにたくさんの人に喜んでもらえたなんてなんだか嬉しいような恥ずかしいような。

「じゃあ、帰りますよ」

 時間過ぎてるんですから。とどこからか現れたエルが言う。どこに行ってたのか聞いても、ずっとそばにいました。としか答えてくれなかった。

 そして城に戻ると、慌ただしく準備をする。

 こんな服じゃ動きにくいったらないのに。なんでこんなのが素敵なんだろう。

 なんとか準備は終わり、パーティーを行う大広間にエルと向かう。

「来年はこんなことしないでくださいよ?」

「私の誕生日よ?」

 そういうとエルは困ったように笑う。

「後から大変なのは姫なんですよ? 私もですけど。……そうだ、渡しそびれるところでした」

 本当はダメなんですけど、といい添えてエルは小さな箱を取り出す。その中には私の目と同じ色をしたペンダントが入っていた。

「多分これくらいなら目立たないと思ったので」

 すぐに付けますか? という問に一も二もなく頷く。

 エルはそっとつけてくれた。なんだかあの広場の心地よさが帰ってきた気がした。

「今日はあなたが主役ですからね」

 きちんとした振る舞いをするようにと念を押された後、私は大広間へと入っていった。


 入る直前に

「お誕生日おめでとうございます」

 と言ったエルの言葉はちゃんと聞こえたんだから。


読んでいただきありがとうございました。

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