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自己紹介


初対面の人間にマザコン呼ばわりされてめちゃくちゃ落ち込む俺。

テンションはだだ下がりだ。


「ちょっとあなた今なっちゃんになんて言ったの?」

「うわ、今度はフィオに絡みだした」

「マザコンと言いました」

「フィオもそんな正直に言わなくてもいいのに……」

「あなた、なかなか鋭いわね。花丸あげちゃう。いいえ、それだけじゃ足りないわ。そうだ、あなたなっちゃんのお嫁さんに来なさい」


また、母が馬鹿を言ってるが突っ込む気力もない。


「姉さん、私お嫁にもらわれちゃいました」

「ちょっ、フィオ!? あんたも何言ってんの?」


妹の反応に姉の方がえらく驚いている。


「冗談です。いくらなんでも今日会ったばかりの人のお嫁にいきませんよ」

「なんでよぉ〜。なっちゃんは超優良物件なんだからね」


人を物件扱いするんじゃねえよ。


「マザコン男のどこが優良物件なのよ!」

「マザコンのどこが悪いのよ!」

「マザコンなんて何かあったらママー助けてーって言うような軟弱男の象徴じゃない」

「そんなの……めちゃくちゃ素晴らしいじゃないっ!」


軟弱言われてんのに素晴らしくはないだろ。


「どこが素晴らしいのよ!」


そうだそうだ。もっと言ってやれ。


「母に助けを求めるとこがよ。とゆーか母親が第一優先でなにが悪いわけ? いい? マザコンって言うのはね、親孝行が形を成したものなのよ」


そんなことはない。


「マザコン、それは母へ至高の愛を注いだ存在。マザコン、それは究極の愛の体現者。そしてマザコン、それは私の息子」

「きもっ……」


姉の方はすごく引いた目で母と俺を見ている。


「なっちゃん、母さんあいつ嫌い」


姉を指差して母が言う。

この人は人を指差しちゃいけないと教えられなかったのだろうか。


「別にあんたに嫌われようと構わないわよ。つーかそこのマザコンはいつまでだんまり決め込む気?」

「うっせ」

「はあ? 今なにか言った?」


姉が威圧してくるが時間が経過してことで俺はすでにいつも通りに戻りつつあるので先ほどまでのように目を逸らすことはなかった。


「うるさいと言った」

「……さすがはマザコン。母親の後ろに隠れたら妙に強気ね?」


強気になったわけではなく、これはどちらかと言えば逆ギレに近い。


「ひとつだけ言っておく。もうすでにお前の頭の中で俺はマザコン確定みたいだが、俺はこのババアのことは嫌いじゃないがマザコンと言うほど好きではない」

「言っておくけどね。なっちゃんはツンデレだからこんなこと言ってるけど、本当は母さんにデレデレなんだからね」

「お前は少し黙っておけ」

「……え〜」


余計な口を挟んでくる母を睨みつけるようにして威圧すると渋々ながらも引き下がる。


「言っておくけどな。僕はジュリアにデレデレだからな」


だが、馬鹿はもう一人いるわけで……


「えっ? 誰このおっさん?」

「あ、どうも。そこの超絶美人の旦那兼マザコン疑惑男の父です」

「お前は話に入ってくんな」

「いや、ここで入っておかないと『あれ、居たの?』的な存在になりそうだったから……」

「大丈夫よ、あなた。私はいつも勇作さんの存在を感じているわ」

「僕もだよジュリア……」

「勇作さん……」


そうゆうのウザったいだけだからいらないんだよな。

とりあえず横に避けとこう。


「あれは放っておいていいわけ?」

「え? なにか居た?」

「なにかって……まあ、いいわ」


彼女もあれに関わっては損をするだけだと感じとったのだろうか。


「さて、とりあえずマザコン疑惑を晴らそう」

「まあ、マザコンのわりに母親の扱いがぞんざいなのは認めるわ。でも、外では冷たくしておいて家ではってのはよくある話よね」

「そもそもマザコンとは母親に対して極端なまでの愛着や執着を抱き,自分の行動を母親の言動に左右されてしまう者のことを言うんだ。あとは恋愛においても相手に対して母親的なものを求めてしまうような奴のことだ。そう考えるならば、俺はあんな貧乳は女として欠陥ありまくりだと思っているから当て嵌まらない」


そもそも俺は自分の行動を母親に左右されると言うか、振り回されている。


「つまり俺はマザコンではない」

「む、胸が貧相なことのどこが欠陥なのよ! つーか巨乳好きってすなわち母性に惹かれてるってことじゃない!」

「いや、俺は巨乳が好きと言うわけではなく、女という性別のくせにまっ平な胸してる奴には欲情しないと言っただけだ」

「つまりは巨乳好きじゃない! 男なんて皆そうなのよ。おっぱいがでかけりゃそれで満足か。どうせあたしはフィオと違って小さいわよ。あたしが母親の胎内に置いてきた乳の成長成分をフィオが根こそぎ持ってきたのよ。だけどそんなもん関係ないわ。貧乳には貧乳のよさがあるのよ!」


姉が胸の話で勝手にヒートアップしやがった。確かに妹に負けてるのは悔しいのかも知れないがそこまで力説することなのだろうか。


「小娘よく言ったわ。なっちゃん、母さんこの娘のこと一気に好きになったわ。よく好意の反対は嫌悪ではなくて無関心であり、好意と嫌悪は紙一重とか言うけどあれはマジね。あなた、なっちゃんのお嫁に来なさい」

「へっ? あ、えっと……フィオどうしよう!? 嫁にこいって言われちゃった」

「姉さん、私も言われましたよ?」

「そ、そういえば……じゃあ二人で同じ男に嫁ぐの?」


なぜそうなる。


「なぜそうなる」


心の中だけで突っ込むだけでは物足りず、口に出す。


「なっちゃん、大丈夫よ。この世界は一夫多妻制だから。でも……父さんが母さん以外の女に惚れたら殺っちゃうかもしんないけどねー」


母が親指を立ててなんかいい顔している。そして最後にボソッと呟いた言葉に紛れも無い母の本気を見た。ただ、呟いたと言っても父の耳にも届くような声量で発せられた言葉に対して父は一切動揺を見せてない。これは奴の自信の表れだろう。なんとも男らしい。

そして、母は俺の視線が自分に戻ってきたのを確認すると視線の先にある親指をそのまま人差し指と中指で挟み込んだ。

なんだか無性に殴りたい気持ちになった。


「母さんや、母さん。ナイトに女が出来てもいいのかい?」


父がじいさんっぽく母に尋ねた。

なんでじいさんぽいのかは理解不能だ。


「あら、孫を見るためにはなっちゃんに女ができないと無理じゃない。母さんが産んでもいいけどそれはもはや孫ではなくて我が子になっちゃうしね」

「そういう冗談はやめれ。はっ倒すぞ」

「ごめんごめん。でも、例えどんな人間と仲良くなろうともなっちゃんの一番は母さんだし」

「……ルシアさんの時はキレたくせに」

「あれはルシアがなっちゃんを養子にして母さんから親としての権利を奪おうとしたからよ」


断っておくが、そんな話は一切ない。

母の完全な被害妄想である。


「それになっちゃんのとこにお嫁にくるなら別にいいのよ。なっちゃんに合わないと思えば姑としていびって追い出せばいいだけだし。ただ、なっちゃんを婿にもらうとか言い出したら須らく消すわ。文字通りの意味でね」


今の発言に母の性格の悪さが滲み出ている。


「まあ、ナイトの嫁になるなら母さんという壁がそびえているのは当然だね。父さんはお義父さんと呼んでくれればそれでいいんだけどね」

「母さんはお義母さんって呼ばれるのは嫌だなー。なっちゃん以外に母と呼ばれるなんて虫酸が走っちゃう。呼ぶならジュリアさんとかかなー」


妄想と妄言の塊である両親は置いておいて、なぜか二人で同じ男に嫁いだ場合の話に花を咲かせる二人に目を向ける。

二人の容姿はお世辞抜きに美人とか美少女と言える。ただし身内というフィルターを抜きにすれば母はそれを上回る美人さんなため、あまりドキドキはしない。

だが、それはあくまでも俺自身の感じた第一印象の話でこうゆう娘らと付き合える男は幸せなんだろうなくらいの思いはある。


「な、なに見てんのよ……」


思考に耽ってずっと二人を見ていたため、それを姉に見咎められてしまった。

だが最初とは違い、その言葉には敵意よりも困惑や羞恥といったものの含有率が多く見受けられた。


「特に理由はない」


正直に言ってもいいのだが、もしかしたら失礼にあたりそうなので誤魔化した。


「姉さん、彼は私達を脳内で裸にして四つん這いにしたあげくその姿を後ろから見てるだけというプレイに興じることを妄想していたんですよ」

「変態変態変態変態変態っ!」

「いや、違うし」

「焦って否定すると思ったんですが、意外と冷静に返しましたね」

「焦ったら肯定してるみたいだろ」


それにその手の冗談には耐性がある。

だと言うのに裸にして眺めるだけなんて軽すぎる冗談に焦るなんて有り得ない。

俺を焦らせたいなら母子〇姦か一定レベル以上のSMを題材にしやがれ。


「なんて弄りがいのない方なんですか……」


ガッカリしながら言われても困る。


「ところでなっちゃんさん」

「ちょい待ち。なっちゃんさんって?」

「義母様がそう呼んでましたので……」

「義母様言うな」

「冗談ですよ」

「冗談でもだ」


妹へ釘を刺しておく。

これは『嫁気取りかっ!』というツッコミではなく、マジの警告だ。

ついさっき母はお義母さんと呼ばれると虫酸が走ると言ったがこれは恐らく本気の発言だからだ。

思い出すのは幼少期頃に母と一緒に行った公園での出来事。

その頃の俺は多少近所の奥様方に頭の弱い子と勘違いされつつも、見事にがき大将の右腕ポジションをゲットして楽しい公園ライフを送っていた。

そしてがき大将に気に入られていた俺は彼がたまたま連れてきていた妹さんの面倒を見ることを押し付け……じゃなく任命されてその任を全うしていたのだが、まだ母の異常さをよくわかっていなかったためにその子を連れて母の元へと駆け寄ってしまったのだ。

最初はうまくいっていた。『おばちゃんだあれ?』と無邪気に言うミキちゃん(仮名)に笑顔で『おばちゃんはなっちゃんのお母さんだよ』なんて言うもんだから油断してた。だがしかし『じゃあ、なーくん(俺のこと)のおかあさんってよぶね』と言った幼女の胸倉を掴んで宙吊りにした挙げ句『お前にお母さんって呼ばれる筋合いなんてねーんだよ』と無表情で威圧するなんて誰が想像できるだろうか。当然の如くミキちゃんは泣いたのだが『泣けば済むと思いやがって……早くも女の武器を身につけたつもりか? 残念だけどそれは同性の私には効かねーんだよ!』と追い打ちをかける始末だ。その後もなぜかずっとミキちゃんを持ち上げたまま罵る母に気づいたがき大将は妹を守るため母へと挑むのだが、結果的に母の手にはいたいけな兄妹の胸倉が掴まれることになっただけだった……

どうやってこの事態が収束したのか。

それは他のご父兄の制止でもなければ警察の介入でもない。

母の腹部へ叩き込んだ俺の渾身のボディーブローだ。当然まだまだ体の小さな俺の攻撃だから母にはあまり効いていなかっただろう。だが、息子に殴られたということこそが母に蛮行をやめるきっかけを与えたのだ。

その後、ゴメンねと一言謝って俺らはその場から逃げるように離れた。幼心にこいつはやべえ……と思ったのだ。その後がき大将兄妹とは会っていない。学区も違ったから小、中学校も別だ。ただ風の噂によれば二人とも初対面の大人の女性を見るとなぜか謝るようになったらしい。まあ、あくまでも噂だと信じたい。

それにしても、今思えば母への攻撃が当たったのはその時が初めてだったな。友を失ったあの日に俺は何か大事な物を得ていたのか。


「って母親殴ったことがいい思い出になりかけてるっ!? いかん、冷静になれナイト。あれは明らかにダメな思い出だ!」

「いきなり思考に耽ったかと思えば一人ツッコミですか……このオナニー上手」

「オ、オナッ……変態っ!」

「はいはい、とりあえず俺は変態ではなく山田騎士(ナイト)って名前だ」


回想にツッコミを入れていた俺が悪いのかもしれないが、姉妹の言葉は受け流して自己紹介をする。


「ヤマダナイト?」

「山田が家名でナイトが名前だ。出来れば山田とナイトの間で一区切り入れてくれ」


繋げて呼ばれると山田Nightに思えてLet's ぱーりーって感じになるから嫌だ。


「変な名前……」

「まあね」


この世界は名前+家名+出身地+αで名前が構成されている。αの部分には何もない人もいれば部族の名前が入る人もいるし、親の名前が入る人もいる。

だとしても名前、家名、出身地の順で述べることがデフォルトなので異世界人である俺の名前はかなり変に思えてしまうかもしれない。しかしだからと言って名前をこの世界に合わせて名乗る筋合いはない。


「では私はなっちゃんさんと呼びます」

「いや、名前名乗ったでしょ?」

「これが気に入りましたので」


これ以上は無駄か。ま、別に呼び方に特別なこだわりもないしいいか。


「私の名前はフィオ。フィオ=オーラストリア=ネグラスカ=アダムス=マティーナリカル=テオ二世です」


分かってはいるが長いな。


「フィオったら嘘つかないの」

「あ、嘘か」


一瞬焦った。


「すいません。正しくはフィオ=オーラストリア=マティーナリカルです」


やはりさっきのはいくらなんでも長すぎだよな。それにしても意味のない嘘をつかないでほしい。


「あたしはフィロ。あとはフィオと一緒だから以下略」

「なんて紛らわしいんだ」


フィオとフィロってほぼ一緒じゃねーかよ。


「うっさい。人様の名前の感想が紛らわしいってなによ!」

「それは正直俺が悪い。すまん」


人の名前をどうこう言う資格なんて俺にはない。元の世界で俺の名前は失笑の対象だったことだしな。


「あ、あっさりと謝るのね。てゆーか謝るくらいなら最初から口に出して言うな」

「ごめんなさい」

「うっ……素直じゃない。いいわ。あんたの謝罪を受け入れてあげる。勘違いしないでよ? ペコペコ頭下げられるのがウザったいだけなんだから」

「そうか……」


確かに謝罪も度が過ぎると煩わしく感じてくるものだしな。


「あと、あたしはあんたのことナイトって呼ぶけど文句ないわよね?」

「ないよ」

「そ、そう。ならあたしのことはフィロって呼んでもいいわよ。か、勘違いしないでよね。呼び方を指定した方が……」

「姉さん、そーいうのはもういいです。なっちゃんさん、私のことはフィオでも妹の方とでも好きに呼んでください」


呼称が妹の方でもいいのか……


「母さんの名前はジュリア。この抱腹絶倒の大地に咲いた一輪の黒き薔薇」


あ、戻ってきやがった。

つーかどんな大地だよ。それに、このって言ってるけどここは船の上で、既に出港済みのため陸地は遠い。


「そして僕はその薔薇の美しさに心を奪われたちょいワルなオッサン」

「ちょいワルなのはお前のケツの具合だけどな」

「それはちょいワルじゃないよ馬鹿っ!」


怒られた。


「まあいいや。こいつらのことは名前か馬鹿その一、その二とでも呼んでくれ。くれぐれも母と曲解できるような呼び方はやめてくれ」


そんなことになったら面倒臭い未来しか待っていないに決まってるからな。


「母さんと呼んでいいのは俺だけだってことね。さすがなっちゃん!」

「やっぱりマザコンじゃん……」


ただ単に彼女らの身の安全と己の心労の軽減のために放った警告が、すべてをフリダシに戻してしまった。



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