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さらばルドセルブ

そして早速バトルレコーダーを掛けて世界を見てみる。


「ババアもジジイも戦レベル1だな」


二人の頭上に『戦レベル1』という文字が表示されているのが見える。


「登録抹消されてなければ母さんの戦レベルは180はいってたわね」


ありえない話でもないみたいだからスルーしとこ。


「ステータス表示」


次に発した言葉で左目視界が黒くなり、白い文字が表示される。



<  名前  > ナイト

< 戦レベル > 1

<登録冒険者数> 2

< 特殊技能 > 破壊神1



「……なにこれ?」

「なっちゃん、どったの?」

「いや、ステータスを表示したらよくわかんないけど物騒なものがあって……」


特殊技能ってのはなんなのだろうか。

いや、百歩譲ってそれは流すとして破壊神ってなんだよ。


「ステータス表示。フムフム、多分なっちゃんが言ってるのは特殊技能のことね。まあ、あれば便利な能力くらいに思っておいて? 詳しく知りたいなら、項目選んで詳しく表示って言えば調べられるわよ。それにしてもそんなに物騒な技能が付いてたの? あ、母さん昔見たときよりひとつだけ技能が増えてるわ。しかも『母性』だって! ちょーピッタリじゃない?」


そこで、破壊神を詳しく表示と言ってみると破壊神という特殊技能について詳しく表示がなされる。



<破壊神1>

発動時、敵への攻撃が確率で三倍から十倍の威力になる。ただし発動中は頑丈さが半分になり、身体に激痛が走る。【効果時間六十秒】



発動時って、そもそもどうやって発動するか知らないんだけどな。

ま、どうでもいいか。痛いのは嫌だから使わないだろうし。それよりも……


「参考までにババアの特殊技能を教えてくれ」


俺の言葉に母は隠すことなく、自らの特殊技能を教えてくれた。

母のバトルレコーダーが表示したステータスは



<  名前  > ジュリア

< 戦レベル > 1

<登録冒険者数> 2

< 特殊技能 > 竜神3、夜の女王4、バーサーカー2、時の癒し1、鉄壁4、威圧3、母性5



「どんなものなのかはよくわからんが、特殊技能が多いな」

「そう? 確かに個人で七つは多いかもね。でも、一般的に三つか四つは持ってるものだし、後々増えたりするから」


「ふーん、特殊技能の隣の数字はその技能のレベルとか?」

「正解よ。特殊技能レベルが上がると効果が上がったりとかするのよ。どう上がるかは母さんよくわかんない」


そういうものなのかと納得する。一個しか特殊技能がないことは恥ずかしく感じるから増えるまで黙っておこう。


「ジジイのは?」


不意に気になったのは父の特殊技能。

俺が特殊技能をひとつしか持ってないなら、父もそうであるはず。いや、むしろひとつも持ってない可能性すらある。


「なっちゃん、父さんはまだ見れてないのよ?」


そういえばまだ喋れなかったっけ。

そんなことを考えていると『ユーサクさんからメッセージが届きました』と視界の一部に文字が現れた。


「そういや、喋れなくても使えるんだったな。つーか、お前もう使いこなしてんのかよ。えーと、どうやって読めばいいんだ?」


よく考えてみれば、近所でいち早く3Dテレビを購入したくらい家電が好きだったな。俺より最新機器に精通しているのは間違いない。


「どうしたの?」

「ジジイからメッセージが届いたんだけど、どうやって見ればいいかわからん」

「あら、本当に思考だけで送れるのね。母さんの時代より進化してるわね〜。なっちゃん、昔だったらメッセージを開くって言えば大丈夫だったわよ」


とりあえず母の言葉通りにメッセージを開くと言うと父からのメッセージが展開する。

父曰く、『バトルレコーダーって言葉を発しなくても思考するだけで動くみたいだな。父さんもステータスの確認できました。結果は聞かないでください』


「なんだよ。特殊技能がひとつもなかったのかよ?」


すると、返事の代わりにメッセージが送られてくる。今度は声を発さず、メッセージを開くと頭の中で考えるだけにした。

すると、先ほどと同じように視界にメッセージが展開した。

内容は『特殊技能とやらは三つあったのさ。ひとつは夫、もうひとつは捌き名人、あとひとつは言いたくない!』


「なんかそこまで言われると逆に聞きたくなるな。だから言え」


俺の言葉に対して『やだ』とだけ返事がくる。


「よーし、選択肢をやる。このまま脳天から地面に突き刺さるか、喋るかの二択だ。なお、俺は本気だ。繰り返す。俺は本気だ」


『貴様、卑怯なり』


「はいはい、俺は卑怯です。でも、さすがに良心が痛むから脳天から地面に突き刺さすのはやめて、ケツから地面に叩きつけよっと」


『…………』


「なにもないならメッセージ送んないでくれる?」


いちいちメッセージを開く手間が煩わしい。すると、父からまたメッセージが届く。

そこには母さんには内緒だぞの文字と父の特殊技能の最後のひとつが書かれていた。



<  名前  > ユーサク

< 戦レベル > 1

<登録冒険者数> 2

< 特殊技能 > 夫4、捌き名人3、痔3



……なんも言えねえ。

痔って技能なんだ……。

肛門とかその周辺に出来る病気ではなかったのか。

しかもすでにレベル3。いや、この場合は進行度か?

慰めてやるべきだろうか。いや、こうゆう時は励ますべきだな。


「元気出せ。きっといいことがある。……ところで痔の効果ってなに?」



<痔3>

筋力、頑丈さ、速度が四分の三になる。全ての状態異常の耐性が一・六倍。



「……悪くないじゃん」


そもそもこいつの身体能力が落ちようとも死なない程度に残ってれば問題ない。それより状態異常ってのがどういうものなのかは分かりかねるが上がって損ではないだろう。

『それでも、痔が能力とか恥ずかしくね?』


「わからないでもない」


仕方ない。男同士の秘密ってやつだな。


「もう、二人でばっかりお話してて母さんつまんない」


いじけた様子で頬を膨らませて言う母の姿に若干の気色悪さを覚えながらも話に混ぜてやる。

その後はルドセルブでも中の下くらいの宿に部屋をとった。そこは朝食付で一人銅貨七十枚で泊まれるとこだったのだが、バトルレコーダーを店主に渡してなにやら解析みたいなことをすると、六十三枚になった。安くなった分以上にギルドで金を払ったばかりだからか、なんか損した気分だ。きっと得した方が多くなるまでこの気持ちは消えないのだろう。


その宿には船の出発日まで滞在した。その間は町の周りに出現するビーストを狩りながら金を稼いだり、観光しながら過ごした。

意外とバトルレコーダーの周辺のグルメ情報やマップ機能が役にたった。

なんか母の勘が当たったみたいで悔しい。


そして船の出発日。

俺達は手続きをすませて船の上にいる。

船はてっきり帆船かと思ったが、予想に反して船体の左右に外輪を持つ外輪船であった。

つくづくこの世界の技術レベルがわからない。陸での長距離移動方法は馬車のくせにバトルレコーダーは超ハイテク、でも船に関しては微妙な感じ。

凄いのか凄くないのかはっきりしてほしいところだ。


「ババア、空の移動手段はあるのか?」


陸、海、ときたらあとは空なのだがどうなのだろう。


「二十年経ってるから正確ではないかもだけど、普通は空での移動手段はないわね」

「普通は?」

「うん。母さんは空での移動手段があったんだけど、呼びかけに応えてくれないのよ。一応まだ繋がってるはずなんだけど、ほっときすぎて拗ねちゃったのかしら」

「なにがだよ?」

「えへへ、な・い・しょ! でも多分なっちゃんも資格はあるはずだからその時にでも教えるわ」


資格を持っているだと?

なんだか内緒の内容を知りたいような、知りたくないような微妙な心境だ。

でもこいつのことだから強制的になにかをやらせられるんじゃないだろうか。


「母さん、ナイト。そろそろ出航するって船員が言ってたよ」


今日まで七日もあったのだから父もすっかり回復した。と言っても相変わらず痔だ。


そろそろ船が出る。

俺達が目指す最終目的地は母の故郷ドラケネス。

だけどとりあえずはステイクという港を目指すことになる。


町を最後に見ておこうと町を眺めていると人影が二つそこそこの速度で船に入ってきたのが見えた。


「なんとか間に合ったわね」

「では、さっさと船室に行きましょうか」

「少しだけ待って。宿からずっと全力疾走してたから死にそうなのよ」

「姉さんが寝坊しなければちゃんと余裕を持てましたし、疲れているのは私も一緒です」

「フィオはあたしを置いてさっさと宿から出たじゃん。その遅れを取り戻したあたしほど疲れてないはずよ」

「姉さんといると私の心が疲れるんです」

「どういう意味よ!?」


船が出航するギリギリのところで船に乗ってきた二人の少女が目の前で言い合いを始める。一人は表情豊かに、一人はほぼ無表情である。

表情豊かな方は金色の髪を後ろで纏めた団子頭で白い軽鎧と腰に剣を差している。話を聞く限りこちらが姉らしいが、妹よりも頭ひとつほど小さい。ついでに胸も。

無表情な妹の方は肩ほどまでの長さの銀髪に魔女みたいな帽子を被り、これまた魔女みたいなローブを着てはいる。しかしペッタンコな姉とは違い、豊かな胸の膨らみがあることがローブ越しからも見て取れた。


「ん? 何見てんのよ!」


俺の視線に気付いた姉の方が睨みつけてきたので、慌てて視線を逸らす。

ただ見てただけなのになぜ睨まれなければならんのだ。

あいつはあれだな。痴漢に遭ったらこの人痴漢ですと電車内に聞こえるように大声で言うタイプに違いない。


「なに目ェ逸らしてんのよ!」

「姉さん、なぜいきなり喧嘩腰なんですか?」

「フィオ、目を見たとき相手が目を逸らしたらなにかやましいことがあるに決まってるのよ」


なんだよその理屈。

確かに妹の胸でけえな。とか思ったけど、そんなもん沈む夕日を見て儚いなと思うようなもので全然やましい感情なんてなかった。


「なんとか言いなさいよ」


姉が近づいてくる。

こいつ、怖いもの知らずかよ。


「ちょっと! ウチの息子に言い掛かりをつけるのはやめてくれない?」


どう対処していいのかわからず固まる俺の前に天の助けと言うか母の助けが入る。


「ウチの息子〜? 姉じゃなくて?」

「馬鹿にしないで! 正真正銘私の股から出したわよ!」

「いや、馬鹿にはしてないんだけど……むしろ若く見えるっていう褒め言葉でしょ」

「フンッ、私はなっちゃんを股から出したことに誇りを持ってるの。姉なんて言葉はむしろ侮辱よ!」

「さっきから股から云々の表現やめてくれない? せめてお腹を痛めて産んだとか……」

「痛かったのは股よ!」

「……なんかごめんなさい」


謝らせた。

母は強しって奴か。


「わかればいいのよ。貴女もいずれ分かるわ。マジですごく痛いのよ。ほんっとマジで」


そんなに痛い思いをして産んでくれたのか。母さんありがとう。

とか思うような場面にできれば持っていって欲しかった。


などと思っていたら不意に視線を感じた。そしてその視線の元へ顔を向けると無表情でこちらを見ている妹と目が合う。


「母親の後ろに隠れてだんまりって……マザコンですか」


衝撃だった。

体に雷が落ちたかのようなすさまじい衝撃だ。

そう。彼女の言う通り、今の俺の姿は完全に母に頼りきりの息子の図である。

大きな声で違うと言いたいのだが、うまく言葉を発することができない。


「す、すいません……」


かわりに口から発せられたのは思いとは違う謝罪の言葉だった。


そうこうしてるうちに船はステイクへと向けて出航した。



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