山田家、ギルドへ登録
今回は会話文主体となっております。
冒険者の義務として一定時間内にビーストを規定量倒さなければならないが 一月→百日の間 に改訂
今一度バトルレコーダーを見つめる。
……やはりどこから見ようと眼鏡にしか見えない。
「本気でこれがバトルレコーダーなの?」
ペテンにかけられてるのではないかと疑ってしまうのは仕方がないことではないだろうか。
「なっちゃん、マジでこれがバトルレコーダーよ。そして実は純粋な眼鏡はこの世界にないの」
「純粋な眼鏡ってなんだよ……」
「目の不具合を矯正するだけのダメガネは存在しないってことよ。ハッキリ言ってバトルレコーダーは無駄に高性能なのよ」
ダメガネって元の世界の眼鏡をこき下ろしやがった。
「紛らわしくも日本人って眼鏡の人ばっかで、母さん最初は冒険者がいっぱいいるって思ったのよ」
言うほどそんなに多くはないと思う。
「高性能の内容は?」
「なっちゃん食いつきいいわね。でも母さんの知識は二十年以上前だからこの人に説明してもらった方が楽よ」
そう言って母は受付の淑女に説明を丸投げする。
「では、不詳わたくしがバトルレコーダーについての説明をさせていただきます。
このバトルレコーダーを着用してビーストを見るとそのビーストが発見済みの場合ビースト頭上にビーストレベルが表示されます。そしてなんとそのビーストを倒した際に着用者の視界や思考を読み取って自動的に計上してくれるんです。あと、冒険者登録している人で同じようにバトルレコーダー着用済みの方の戦レベルもわかっちゃいます。そして冒険者登録している者同士でバトルレコーダーに登録していると離れたとこでも会話が可能で、さらにはメッセージを送ることも可能なんです」
つまり眼鏡が携帯電話みたいに電話やメール機能を持ってるわけか……
「ありえないだろ。なんだよスピーカーとマイクとかキーボードでもついてんのかよ」
「集音器は鼻のとこについてるわ。音に関してはスピーカーというか骨伝導的な感じで相手の声が聞こえるの。それとキーボードはなくて、音声変換なのよ。ん? なあに、あなた? ……フムフム『バトルレコーダーを着けて敵を倒さないとダメなのかい?』いい質問よ。あなたの言う通りビーストはバトルレコーダーをかけて殺さないと意味ないのよ」
「そうなんです。まあ、特殊な造りで激しく動いてもまず外れることはありませんから掛け忘れにさえ気をつければ大丈夫ですよ。それからひとつ訂正を。バトルレコーダーの機能に関しては音声認識がよく利用されていますが、それだけではなく扱いは難しいですが、思考読み取り機能での使用の方が便利なんです。あと、他にはお好みで視力を矯正させる機能もついてきます」
やっぱり眼鏡だ。いや、ハイパー眼鏡と言うべきか……
「あとは別途料金や戦レベルに応じての機能拡張もできます」
「例えば?」
「マップ表示や近くのグルメ情報、あとは一日の歩数や移動距離の表示などです」
バトルレコーダーって眼鏡なの? それとも携帯電話なの?
「バトルレコーダーはこの黒いのが母さんの、緑が父さん、赤がなっちゃんのね。あと金で買える機能は全部つけて頂戴」
勝手に眼鏡の型が選ばれてしまった。不満があるわけでもないからいいのだが、赤い眼鏡って教育熱心なザマス口調のママさんが着けてるイメージだ。
「わかりました。それでは登録者様のお名前をそれぞれお教えいただいてよろしいですか?」
「つーかババア、いらない機能はつけなくていいだろ」
「不思議ね。きっといつか必要になる……母さんそんな気がするのよ」
不思議なのはお前の頭の中身だ。
「そんな女の勘丸出しの私がジュリア。そしてさっきから身振り手振りで愛を伝えてくるダンディな男が旦那の勇作。そしてこのかっこよくて優しげでツッコミにもキレがあり、なおかつ……<中略>……でマザコンな青年が息子のナイトよ」
「他は普通に否定するが、マザコンに関しては全力で否定させてもらう」
「うちの息子、ツンデレだから素直じゃないの」
「…………あ、すみません。長すぎて聞いてませんでした」
「受付さん、それで正解です。ともかくそこの失礼な女がジュリア。肩にいるうざいのが勇作。そんで俺がナイトで登録よろしく」
「ジュリア様、ユーサク様、ナイト様……はい、名前の登録は済みました。次は生体情報の登録です。この針を自分自身に突き刺して出た血をそれぞれのバトルレコーダーに垂らしてください」
受付の人に言われた通り針で指先を刺して出た血を赤い眼鏡に垂らす。
「なんか、まさしく血で染まった装備ね」
「うっさい」
「はい、結構です。登録完了しました。お三方とも犯罪の前科はなし、だけどジュリアさんは一度義務の放棄による登録抹消を受けてますね。次に登録を抹消されますと冒険者登録ができなくなりますので、お気をつけください」
「わかったわ」
「それでは冒険者についての説明をさせてもらいます。まず、大前提として冒険者はビーストを狩ってもらいます。数の上限は定めませんが、百日の間に狩ったビーストのレベルの合計が最低でもご自身の戦レベル以上になるようにしてください。例えば戦レベル30の人はビーストレベル30のモンスターを一体倒すか、極論を言えばビーストレベル1のビーストを30体は狩るということです。これは義務であり、達成できない場合は容赦なく登録は抹消されてバトルレコーダーは使えなくなります。その場合はレンズの色が変わりますのですぐにわかると思います」
「レンズの色が変わる?」
「ただのサングラスになるのよ」
それは悪くはないかもと思っている俺がいる。
「つーかそれじゃ、ジジイはすぐに登録抹消されちゃわないか?」
なんたって、戦闘能力は皆無に等しい。
「そのために皆でクランを組みましょ。父さんはサポート要員として活躍してくれるから問題ないわ」
「クラン?」
「有名なパフ入りチョコレート菓子から鍵を奪いとった物体のことよ」
「まあ、だいたいの想像はつく。つまり、冒険者でチームのようなコミュニティを組むってわけか」
「ああん、なっちゃんたらツッコミなしなんてひどぉ〜い」
「それじゃそのクランってのを組むにはどうしたらいいんだ?」
「ここで申請してくれればいいですよ。ジュリア様、ユーサク様、ナイト様でクランを組むのならクランリーダーとクラン名を決めてください」
クランリーダーか……普通は一家の大黒柱であるべきの父がなるべきだが、うちのはアル中の父親並みに性質が悪いから却下。となると母しかありえないな。この世界の住人でもあるから中身がちょっとアレだけど仕方ない。
「クランリーダーは……」
「なっちゃんやってね! それでクラン名は『父母と息子の愛燃ゆ』でお願いします」
「待てよバカ。なんなのそのクラン名。いや、それよりも俺がクランリーダー?」
「『父母と息子の愛激しく燃ゆ』の方がよかったかな。あと、なっちゃんをクランリーダーにしたのは何事も経験だと思ったからなのよ?」
「……わかった。クランリーダーは俺でいい」
どうせ面倒だから俺に回したに違いない。
「だからクランリーダーの権限でさっきのクラン名は却下する。クラン名はそうだな…………『山田家』で」
「つ〜ま〜ん〜な〜い〜。父さんも『ひねりがない』って言ってるわよ」
「シンプルイズベスト。俺は山田という性に誇りを持っているけどお前らは違うのか?」
「……なっちゃん、その言い方はずるい」
どうやらうまく丸め込んだらしい。さすがに『父母と息子の愛燃ゆ』は意味不明すぎる。クラン名聞いただけで両親のバカがばれるだけでなく、俺までバカだと思われる。
「では、クラン名『ヤマダケ』、クランリーダーはナイトさまで登録させていただきます。では、バトルレコーダーをお受け取りください」
山田家はバトルレコーダーを手に入れた。
「個人の戦レベルは倒したビーストの強さや数によって勝手に増えていきます。また、倒したビーストに応じて冒険者ギルドにて報奨が渡されますので、溜め込め過ぎないうちにギルドに顔を出してください。ご自分の戦レベルが知りたい場合はステータス表示と言ってくださればいろいろ表示されます。あと、クラン内においては戦果の譲渡ができますのでそこのユーサク様がビーストを倒されてなかった場合はお二人の戦果を移譲すれば冒険者の条件は満たせます」
自分が基準を満たせなくても、基準を満たしかつ余ってる奴から貰えってことか。
「あと、冒険者の仕事としてクエストを受けることができます。クエスト表示とバトルれこだーを装着して唱えれば受けることのできるクエストが表示されますのでやる気があるのならやってください。これはお金稼ぎ以外の何物でもありませんので個人の裁量です。ただ、クエストは早い者勝ちで達成されればそれで終了です」
「わかりました」
「以上で冒険者についての説明は終わりです。なお、この説明は必要最低限のものでこれ以上のことが聞きたい場合はその都度お近くの冒険者ギルドで聞いてください」
と言うことなので特に質問することなくギルドを後にする。その際にギルドへの登録料とバトルレコーダーの機能拡張料金として銀貨十二枚徴収された。ちなみにギルドへの登録料だけだと銀貨六枚。
バトルレコーダーの機能拡張たけえ。
やっぱりいらなかったかもしれない。