伝達塔の人達
王国と大公国には、石造りの高い塔が要所要所に建っている。
この塔同士はお互いが目視可能な距離にあり、伝達塔と呼ばれる。
最上階には専門の職員が数名常駐しており、一度連絡を受ければ、
用意されている色違い、形違いの大きな旗が数種類掲げられて、
その組み合わせで遠距離への緊急情報を伝えている。
例えば「大規模な暴動発生。各領に対応を求む」と伝えるとして、
早馬を使って連絡しても、情報が届くまで数日かかってしまう。
鳥便という手もあるが、これも大型の飛行生物に襲われたりと、
情報伝達の確実性に乏しい面がある。
伝達塔は日中、好天候で短めの要件という条件さえ良ければ、
王国全土と、当時まだ独立していなかった大公国全土へ、
その時代でも半日あれば情報を行き渡らせることが出来た。
現在からおよそ二百五十年前に建造された伝達塔は当時、
情報伝達の革命と称賛され、大いに利用されていたのである。
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そして現在。伝達塔勤務の職員達は暇を持て余していた。
数年前に遠隔通話器、遠隔視聴器という、画期的な魔道具が開発、
これが王都と領都、他主要な都市や町に複数台行き渡った事で、
伝達塔を介して情報を伝える必要性が薄れたのである。
遠隔通話器も遠隔視聴器も、魔道具ゆえ制作費用は高額だったが、
伝達塔をひとつ作るより確実に安い。同価格で数百台作れてしまう。
兄弟国の大公国にも、何かと付き合いがある教国へも輸出が始まり、
相手側の位置情報さえ正確ならば、確実に情報が届くようになった。
伝達塔の存在意義はもはや薄いのだが、取り壊すにも費用がかさみ、
長らく伝達塔勤務だった者が多数、別の職場に移る事を拒んでおり、
なんとも扱いに困る存在となっていた。
上位機関の内務局が強制的に異動を命ずる事も出来なくはない。
が、職員達はこれまで真摯に務めを果たしたのも事実である。
彼らを無碍に扱う事はできない。
折角の施設である。何かしら活用方法を考えたいところであった。
◆
ある日、全ての伝達塔に遠隔通話器と遠隔視聴器が設置された。
職員達は首をひねる。これに一体何の意味が?と。
設置と共に、各地の伝達塔へ遠隔通話と遠隔視聴が入った。
画像に映るのは内務大臣その人である。
「伝達塔職員は今後その職務に少々追加される事となる。
高所視界からの周辺監視と定時報告、及び緊急時の情報伝達。
情報の間違いを防ぐため、旗の掲示と遠隔通話、
双方を同時に遂行するものとする」
単なる情報伝達だけでなく、今後は周辺監視が加わるという事だ。
職員達は戸惑いもあったが職務追加に納得も出来た。
さすがに時間を持て余すだけの日々には嫌気が差していたのだ。
新しい仕事が増えるというなら、取り組もう。
そう、彼らの多くは前向きに捉えてくれたらしい。
◆
内務大臣は、伝達塔職員の反発がなかった事にほっとしていた。
伝達塔付近には大抵、職員の家族を含めて多くの住民が生活する。
住民にとって伝達塔は、ないと不自然なものとなっているのだ。
なくなっても彼らの生活にはほとんど影響などないのだが。
そうした者達がいきなり伝達塔を失えばどうなるか。
自分達は見捨てられたのか?などと彼らが疑問を抱いてしまえば、
職員の家族らが王国への要らぬ不信感や反発心を抱きかねない。
彼らは変革をあまり好まないのだ。それが例え便利な場合でも。
遠隔通話器と遠隔視聴器は王国に大きな変革をもたらしてくれた。
だが開発した者は、当初使用範囲を限定するつもりだったと聞く。
広まると伝達塔の人達が怒りだすかもしれませんね、と言って。
あの少年は正しかったようだ。今回の併用策も考えていたらしい。
残せるものなら残そうではないか。利用法は都度考えればよい。
歴史を語ってくれるものは、不都合がなければ残してほしいのですよ。




