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ここはなにかが欠けている

伝達塔の人達

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/13

王国と大公国には、石造りの高い塔が要所要所に建っている。

この塔同士はお互いが目視可能な距離にあり、伝達塔と呼ばれる。


最上階には専門の職員が数名常駐しており、一度連絡を受ければ、

用意されている色違い、形違いの大きな旗が数種類掲げられて、

その組み合わせで遠距離への緊急情報を伝えている。


例えば「大規模な暴動発生。各領に対応を求む」と伝えるとして、

早馬を使って連絡しても、情報が届くまで数日かかってしまう。

鳥便という手もあるが、これも大型の飛行生物に襲われたりと、

情報伝達の確実性に乏しい面がある。


伝達塔は日中、好天候で短めの要件という条件さえ良ければ、

王国全土と、当時まだ独立していなかった大公国全土へ、

その時代でも半日あれば情報を行き渡らせることが出来た。


現在からおよそ二百五十年前に建造された伝達塔は当時、

情報伝達の革命と称賛され、大いに利用されていたのである。



そして現在。伝達塔勤務の職員達は暇を持て余していた。

数年前に遠隔通話器、遠隔視聴器という、画期的な魔道具が開発、

これが王都と領都、他主要な都市や町に複数台行き渡った事で、

伝達塔を介して情報を伝える必要性が薄れたのである。


遠隔通話器も遠隔視聴器も、魔道具ゆえ制作費用は高額だったが、

伝達塔をひとつ作るより確実に安い。同価格で数百台作れてしまう。

兄弟国の大公国にも、何かと付き合いがある教国へも輸出が始まり、

相手側の位置情報さえ正確ならば、確実に情報が届くようになった。


伝達塔の存在意義はもはや薄いのだが、取り壊すにも費用がかさみ、

長らく伝達塔勤務だった者が多数、別の職場に移る事を拒んでおり、

なんとも扱いに困る存在となっていた。


上位機関の内務局が強制的に異動を命ずる事も出来なくはない。

が、職員達はこれまで真摯に務めを果たしたのも事実である。

彼らを無碍に扱う事はできない。


折角の施設である。何かしら活用方法を考えたいところであった。



ある日、全ての伝達塔に遠隔通話器と遠隔視聴器が設置された。

職員達は首をひねる。これに一体何の意味が?と。

設置と共に、各地の伝達塔へ遠隔通話と遠隔視聴が入った。

画像に映るのは内務大臣その人である。


「伝達塔職員は今後その職務に少々追加される事となる。

 高所視界からの周辺監視と定時報告、及び緊急時の情報伝達。

 情報の間違いを防ぐため、旗の掲示と遠隔通話、

 双方を同時に遂行するものとする」


単なる情報伝達だけでなく、今後は周辺監視が加わるという事だ。

職員達は戸惑いもあったが職務追加に納得も出来た。

さすがに時間を持て余すだけの日々には嫌気が差していたのだ。

新しい仕事が増えるというなら、取り組もう。

そう、彼らの多くは前向きに捉えてくれたらしい。



内務大臣は、伝達塔職員の反発がなかった事にほっとしていた。


伝達塔付近には大抵、職員の家族を含めて多くの住民が生活する。

住民にとって伝達塔は、ないと不自然なものとなっているのだ。

なくなっても彼らの生活にはほとんど影響などないのだが。


そうした者達がいきなり伝達塔を失えばどうなるか。

自分達は見捨てられたのか?などと彼らが疑問を抱いてしまえば、

職員の家族らが王国への要らぬ不信感や反発心を抱きかねない。

彼らは変革をあまり好まないのだ。それが例え便利な場合でも。


遠隔通話器と遠隔視聴器は王国に大きな変革をもたらしてくれた。

だが開発した者は、当初使用範囲を限定するつもりだったと聞く。

広まると伝達塔の人達が怒りだすかもしれませんね、と言って。

あの少年は正しかったようだ。今回の併用策も考えていたらしい。


残せるものなら残そうではないか。利用法は都度考えればよい。

歴史を語ってくれるものは、不都合がなければ残してほしいのですよ。

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