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人の上に立つもの

掲載日:2026/04/17

人の上には、人が立つ。

それがこの世界の当たり前だ。

彼はそう信じていた。

いや、信じているというより——

それ以外の考えを持っていなかった。

会社を立ち上げた。

最初は小さかった。

だが、努力した。

誰よりも働いた。

誰よりも結果を出した。

だから上に立った。

当然のことだった。

部下ができた。

最初は感謝された。

尊敬もされた。

「すごいですね」

「あなたみたいになりたいです」

彼は頷いた。

それが正しい反応だと思ったからだ。

やがて会社は大きくなった。

人も増えた。

だが、いつからか変わった。

「それ、違うと思います」

「もう少し別のやり方が——」

否定されることが増えた。

彼は理解できなかった。

なぜだ?

結果を出しているのは自分だ。

ここまで来たのも自分だ。

「上に立つ者が正しい」

それが、この世界のルールだろう?

だから、切った。

意見を言う者。

逆らう者。

考えを持つ者。

すべて排除した。

残ったのは、従う者だけだった。

会社は静かになった。

指示は通る。

反論はない。

すべてがスムーズに進む。

理想的だった。

はずだった。

少しずつ、数字が落ち始めた。

理由は分からない。

いや、分かる必要がないと思っていた。

「上に立つ者が正しい」

だから、やり方は変えない。

さらに人を切った。

気づけば、誰もいなくなっていた。

オフィスは広かった。

静かだった。

だが、問題はない。

自分は上に立つ人間だ。

一人でも、立てる。

そう思っていた。

ある日、扉が開いた。

一人の男が入ってくる。

昔の部下だった。

「……まだ、やってたんですね」

その言葉に、少しだけ違和感を覚える。

「当たり前だろう」

即答した。

「俺は上に立つ人間だ」

男は、しばらく黙っていた。

それから、ゆっくりと手を差し出す。

「もうやめましょう」

「一人でやる必要ないですよ」

その手は、震えていた。

差し出されたものは、理解できた。

だが——

彼は、それを弾いた。

乾いた音が響く。

「必要ない」

即答だった。

「俺はここまで一人で来た」

「これからもそうだ」

男は何も言わなかった。

ただ、その手をゆっくり引っ込めた。

しばらくして、去っていった。

扉が閉まる。

静寂。

彼は椅子に座る。

そして、語り始める。

「昔はな——」

誰もいない部屋で。

「俺が会社を立ち上げた時は——」

誰も聞いていない。

だが、止まらない。

「みんな俺についてきて——」

記憶は、少しずつ都合よく変わっていく。

「俺が正しかったからだ」

そうでなければならない。

そうでなければ——

自分は、ただ一人になっただけの人間になる。

それは、許されない。

だから語る。

何度も。

同じことを。

誰もいない空間に。

拍手もない。

反論もない。

ただ、声だけが残る。

「俺は、上に立つ人間だ」

……

「——はい」

返事があった。

彼は顔を上げる。

そこに、一人立っていた。

見覚えのない男。

だが、完璧だった。

姿勢。

表情。

視線。

すべてが、“従う者”だった。

「ご指示を」

彼は、ゆっくりと頷く。

「……そうだ」

「それでいい」

口元が、わずかに緩む。

「上に立つ者が正しい」

それが、この世界のルールだ。

男は何も言わず、ただ頷いた。

その後も、男はそこにいた。

指示を出す。

男は動く。

何も問題はなかった。

数日後。

ビルの管理人が、鍵を開けた。

中は静かだった。

誰もいない。

机も、椅子も、そのままだった。

ただ一つ。

中央の席に、男が座っていた。

誰もいない方向を見て、頷いている。

何もない空間に向かって、口を動かしている。

「……はい」

「承知しました」

「あなたが正しい」

その声は、誰にも届かない。

だが——

男は、確かにそこにいた。

ずっと、そこにいた。

それでも彼は、間違っていると思えないんですよね

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