第9話 神乳剣
森の中に、看板が増えてきた。
【この先、伝説の剣あり!】
【伝説の剣を祀るサビレ村へようこそ!】
【ガチのマジで本物の伝説の剣あり!】
【観光客歓迎! 誰でも観覧できます!】
【おひとり様観覧料10万リア!】
【引き抜けたら伝説の剣プレゼント!】
「ガチのマジで」という文言が全ての信頼を破壊していた。
俺は看板を眺めながら冷静に分析した。引き抜けたらプレゼントという太っ腹な条件から逆算すると、パターンは二つだ。誰にも絶対抜けないよう物理的に固定されているか、あるいは安物の剣を誰でも抜けるようにしておいて「おめでとうございます」と言って終わるかだ。村おこしの匂いがする。
「お前ら伝説の剣を探していたのか」
フィナがボソッと言った。
「冒険者ギルドで聞いて、少し気になってな」
「観覧料が一人10万リアだぞ。四人で40万リアだ。それだけありゃ馬車で王都まで行けるんじゃないか」
「わたくしたちは修行も兼ねて徒歩で向かっているんです。それに40万リアはそこまでの大金でもないでしょう」
「……大金だろ。そういえばお前、名前は」
「リアナ=ヴォルムと申します」
「ヴォルム? まさかヴォルム家の? どうして貴族様がこんな……」
フィナは「貧乳と」と言いかけて、リアナの目を見て止まった。正しい判断だった。
「こちらはミルカさんと、ミリ様です。偉大で尊いお方たちですよ」
リアナは笑顔のまま言った。俺はその笑顔の裏に殺気が待機しているのが分かった。
フィナは小さく「……そうか」と言って前を向いた。
さらに歩くと、木造の家が建ち並ぶ小さな村が見えてきた。そこに、一人の老婆がいた。
俺の乳スカウターが反射的に作動する。推定アンダー90前後、Hカップ。齢八十ほどと思われるが、その数値は健在だった。さすがバストリア王国、年齢を問わない巨乳率。
「おや、旅のお方。伝説の剣を見に来たのかえ」
「ああ。案内してもらえるか」
「ケケケ、じゃあ一人10万リア、よこしなされ。そこの貧乳二人は追加で10万リアじゃ」
老婆はしわだらけの手のひらを差し出した。
貧乳割増料金まで徴収するのか。
「絶対詐欺だよこれ」
俺は小声でミルカに言った。
「でも本物かもしれない。強力な武器が手に入れば、王都への道中が安全になる。60万リアは私が出す」
ミルカは麻袋から金貨を六枚取り出し、老婆に渡した。
「ケケケ、毎度あり。付いてくるがええ」
◆ ◆ ◆
老婆に案内された先は、村の近くにある大きな洞窟だった。
内部は水たまりが点在し、岩盤が濡れた光を反射している。しばらく進むと、ひらけた空間に出た。
その中央に、剣が一本、地面に突き刺さっていた。
見た目は質素だ。柄に細工もなく、刀身は半分以上が岩に埋まっている。しかしその剣の周囲だけ、空気がわずかに違う気がした。
「あれがこの村に代々伝わる伝説の剣、神乳剣じゃ」
「神乳剣……」
ミルカの声が変わった。
「代々伝わると言ったが、冒険者ギルドでは最近発見されたと聞いたぞ」
「この剣はわしが生まれるより前、数百年前からここにあったのじゃ。ただ数年前に村長が代わって、外にも公開するようになったのじゃ。村の言い伝えでは、神話の時代に伝説の女神様がこの地に降り立ち、あの剣を置いていったとされているのじゃよ。ケケケ」
女神。
その単語を聞いた瞬間、胃のあたりがざわりとした。パイシアのことを思い出した。全宇宙のおっぱいを統べるという自称女神。あいつが俺をこの体にした。女神がこの地に剣を置いていったというのは……本当に偶然の話なのか。
俺は引き抜きたい気持ちが、さっきより少し強くなった。
「引き抜いた者には剣を渡すと看板に書いてあったが、本当か」
「ケケケ、本当じゃ。じゃが今まで引き抜けた者は誰一人おらん」
「やってみよう」
ミルカが歩み出た。剣の柄に手をかけ、力を込める。
「……物理的な固定ではないな。何か強力な魔力で封じられている」
「ケケケ、三こすり半じゃよ。選ばれし者が柄を三こすり半すれば、引き抜けるという言い伝えじゃ」
「三こすり半」
ミルカは言われた通りに試みたが、剣は微動だにしなかった。
「魔法でぶっ壊すのはどうだ」
フィナが言った。
「どうやらこの洞窟の岩には純度の高い反魔鉱石が含まれています。魔法を使ってもここでは打ち消されてしまうでしょう」
リアナが静かに分析した。
ここで俺は考える。三こすり半、そして抜く。閃いた。
「ちょっと待って。三こすり半というのは、手で、とは言ってないよな?」
「……何が言いたい」
「この剣を引き抜くために胸を使うというのはどうだろうか。胸は魔力が最も集中している部位なんだろ。胸の魔力と剣の魔力が共鳴して、封印が解けるかもしれない」
静寂が一瞬あった。
「……その発想はなかったな」
ミルカが顎に手を当てた。否定しなかった。
「胸の魔力と剣の魔力が反応する可能性は理論上ある。一応、試す価値はあるだろう」
再び一瞬の静寂。
俺はフィナの顔をチラリと見た。
「なんで私の方を見るんだよ!」
フィナが一歩退いた。
「フィナのGカップなら十分に挟めると思うんだけど」
「なんで私のサイズ知ってんだよ! 絶対やらないからな!」
「じゃあリアナは」
「えっ、わたくしですか」
「リアナの魔力量なら、剣の封印と共鳴できるかもしれない。ミルカもそう思うだろ」
「……可能性はある」
ミルカが静かに頷いた。
「ミ、ミルカ様がそうおっしゃるなら……」
リアナはゆっくりと剣の前に立った。
上着を脱ぎ、躊躇いの後、内側も外した。洞窟の薄暗い光の中で、白い肌が浮かんだ。彼女の胸はIカップ、トップバストはおそらく百センチ超え。
「剣の柄を……こうですか?」
リアナは剣の柄を両胸でそっと挟んだ。ぷにっとした感触が伝わってくるような気配がした。
「そのまま三こすり半、魔力を意識しながら上下に動かすんだ」
「は、はい……」
ミルカに言われてリアナは剣を挟んだまま、ゆっくりと上下に動き始めた。その動きに合わせて、豊かな胸が柔らかく揺れた。
「もう少し、胸全体で魔力を送り込む意識で。細かく揺らすように」
「わ、分かりました……んっ」
リアナが両手で胸を押さえるように支えながら、細かく揺らした。剣の柄をしっかりと挟んだまま、三こすり半。
しかし、剣は動かなかった。
リアナはひとしきり頑張った後、ミルカのところへ戻ってきた。
「申し訳ございません。抜けませんでした」
「よく頑張った」
ミルカはリアナの頭を静かに撫でた。
「リアナ、本当にありがとう!」
俺は盛大に拍手した。
「……リアナ、おっぱいでかいな。さすが貴族だぜ」
フィナが小声で呟いた。
「ケケケ、何をしようと抜けはせん。去年、幽玄のリンシェン様が来られたときも抜けなかったのじゃから」
老婆がぼそりと言った。
「リンシェンが来たのか」
ミルカの声が変わった。
「幽玄のリンシェン……それって乳華十傑の三位だろ。そんなやつまでここに?」
俺は言う。
「彼女は偽物のためにわざわざ動く奴ではない。この剣は本物だな」
ミルカが静かに言い切った。
「だったら余計に諦めるわけにいかないな。俺が試してみよう」
俺は剣の前に立った。
「ミリ先輩の胸じゃ挟めないだろ……」
フィナ憐れみの目で言う。
「先輩? まあ、俺に挟める胸はない。だから手で抜く」
「……手で?」
俺は剣の柄を片手でしっかりと握った。
思えば、この感覚は知っている。棒状のものを握り、適切なリズムで振動させる。男として生きてきた中で培った、生来の感覚だ。乳華解放はできない。魔法も使えない。しかし、このくらいの棒を手で抜くことは、俺の専門分野と言っても過言ではない。
「いくぞ」
【秘技 神之振動】
俺は手首を小刻みに震わせながら、柄をきっかり三こすり半した。
次の瞬間、剣が光った。
「なんだと」
「ミリ様……」
「……すげぇ」
「なんじゃこれは!? こんなことありえん!」
老婆の声が初めて動揺していた。
光は柄から刀身へと広がり、洞窟全体をやわらかく照らした。そして、地面に埋まっていた剣が、ゆっくりと浮き上がってきた。
俺は力を込めて、まっすぐに引き抜いた。
ずっ、と、音がした。
剣が抜けた。
光が、すうっと収まっていった。
「ミリ様、どうやって……」
リアナが息を呑んでいる。
「俺は1日8回も抜いたことがあるからな。この程度の棒を抜くことは朝飯前だよ」
「8回……! つまりミリ様は常日頃から剣を用いたウエイトトレーニングをされているのですね。だから腕力が……なんと素晴らしいのでしょう!」
リアナは感動して目を潤ませた。まあ、そういうことにしておこう。
「……ハハ。いいねミリ先輩」
フィナが苦笑いをして言った。
「お婆さん、引き抜いたから貰っていくよ。看板にそう書いてあったし」
「……バカ者が!」
「え?」
「この、盗っ人どもがあああーーーーー!!!」
老婆の叫び声が洞窟に轟いた。
「待ってくれ、看板には引き抜けたらプレゼントって……」
「ミリ、逃げるぞ」
「え、えっ?」
「走れ!」
俺たちは剣を抱えたまま洞窟を全速力で駆け抜けた。老婆の「待てぇーーーー!」という声が後方で響いていたが、最終的に振り切った。
森の中、息を切らしながら四人で立ち止まる。
「観光資源を失ったわけだから、怒るのも当然か」
「まあ、問題ない。この剣は本物だ。大事に扱え、ミリ」
ミルカは剣を一瞥してそう言った。
俺は手の中の剣を見た。さっきまでの光は消えているが、確かに普通の剣とは違うものを感じる。手に持つと、なぜか落ち着く感覚があった。
俺はこの剣に名前をつけることにした。
神乳剣。ディバインバストソード。
AAAAカップの俺が手に入れた、唯一の武器だ。
「走るぞ」
ミルカが言う。
「え、どうしたの?」
すると老婆の「待てぇーーーー!」という声が、まだ遠くから響いていた。
四人は息を切らしながら、北西へと走り続けた。




