第7話 乳華解放《バスト・リミット・ブレイク》
ミルカが勧誘に回っている間、俺はギルドの壁沿いをぶらぶらと歩いた。
冒険者ギルドはカースト制度外とはいえ、AAAAカップの俺に気さくに話しかけてくる人間はいない。それでもここは街中よりずっとましだ。殴られないだけで十分だ。
壁には大小さまざまなポスターが隙間なく貼られていた。討伐依頼、採集依頼、行方不明者の人探し。王国の地図も貼られていて、未探索領域がまだかなり広いことが一目で分かった。
まあ俺は、別に冒険者として生きたいわけじゃないんだよな。ぶっちゃけた本音を言うと、俺は男に戻って、でかいおっぱいの彼女を作って、おっぱいを揉んで、おっぱいを堪能して、おっぱいと一緒に寝て、おっぱい……なんかもうおっぱいという言葉がゲシュタルト崩壊してきた。いい。とにかく俺は大きなおっぱいが好きだ。爆乳こそこの世の真理だ。
そんな誰にも見せられない頭の悪い思考を繰り広げながら壁を眺めていると、一枚のポスターが目に入った。
【バストリア王国 乳華十傑 第五百十一版(最新版)】
バストリア歴五百十一年、バストリア王国女王イリアス=バストリア(バストリア二十一世)陛下より今年度の乳華十傑が発表された。よって、ここに公示する。
~乳華十傑~ ※序列順
第一位 【乳華】 天征のアストライア
第二位 【極乳】 幻光のミルフィア
第三位 【極乳】 幽玄のリンシェン
第四位 【極乳】 円環のイオネ
第五位 【極乳】 不老のアルハヤ
第六位 【絶乳】 狂殺のリルカ
第七位 【絶乳】 破滅のルクシア
第八位 【絶乳】 死毒のヴェノア
第九位 【聖乳】 売店のメル
第十位 【聖乳】 慈愛のユミラ
すごい。
名前だけで圧が違う。「天征のアストライア」が一位か、どれほどの人物なのか。二位の「幻光のミルフィア」はミルカの言っていた相棒だ。そして六位の「狂殺のリルカ」がミルカの妹か。【聖乳】【絶乳】【極乳】【乳華】という階級も気になる。
単純な胸の大きさとは違う何かを示しているような気がした。
「ミリ様、何を見てらっしゃるんですか?」
振り返ると、リアナが立っていた。旅支度を整えた姿で、背に革のバッグを担いでいる。準備が早い。
「リアナ、もう来たの?」
「はい。お母さまに徒歩で王都へ向かうと申し上げたら猛反対されましたが、お屋敷を駆け出して参りました」
「お屋敷って……リアナ、貴族?」
「しがない辺境貴族ですよ」
さらりと言った。
「それより、乳華十傑ですね。好きな方はいらっしゃいますか? 私の一番は永遠にミルカ様ですが、二番はミルフィア様です」
「俺は好みとかはないけど、一位のアストライアってどんな人なの?」
「天征のアストライア様。現在、神乳に最も近いと呼ばれる方です。ただ、常に消息不明で王都にも滅多に姿を見せないとか。噂では一人で神乳大陸に潜伏して修行を続けているとか」
「なるほど。六位のリルカは?」
「リルカ様はミルカ様の妹君です。恐ろしい方だと聞いています。BDMへの執念が尋常ではないと」
「それと気になるのが、この【聖乳】【絶乳】【極乳】【乳華】って区分。胸の大きさの違い?」
「それはBLB、バスト・リミット・ブレイクの成熟度による称号です。BLBは古くは乳華解放とも言われます」
「乳華解放?」
「初代乳華十傑の創設者、黎明の乳華様が編み出したとされる魔力の完全解放術です。バストリア王国では長らく伝説扱いでしたが、近年の魔法研究の進展で習得者が増えました。今の乳華十傑に入るには、乳華解放の習得が前提条件になっています。乳華解放はミルカ様のほうが詳しいと思いますよ」
そのとき、早足でこちらに向かってくる人影があった。
「リアナ、ミリを呼んで来いと言っただろう。何を話している」
ミルカだった。フードを深く被ったまま、二人の会話に割り込んでくる。
「すみません。ちょうど良かった、ミリ様が乳華解放についてお聞きになりたいと」
「乳華解放か」
ミルカは少し間を置いてから、静かに言った。
「乳華解放は胸に宿る潜在的な魔力を一時的に完全解放させる技だ。その発動形態は個人によって全く異なる。現代ではバスト・リミット・ブレイクと呼ばれるが、意味は変わらない。【絶乳】【極乳】などという称号は、BLBの威力、解放率、持続時間などを総合評価した格付けだ」
「胸が大きくないと使えないの?」
「乳華解放の本質は胸の大きさではなく、潜在魔力の大きさと密度にあると言われている。ある程度の魔力量と才能があれば、習得できる可能性は誰にでもある」
「じゃあ俺も修行すればできる?」
「……ミリの場合は無理だ。最低でもGカップ相当の魔力は必要だろう。少ない魔力で強引に乳華解放すれば、胸の魔力が完全に枯渇して死ぬぞ」
「死ぬのか」
「死ぬ」
きっぱりと言われた。
「リアナはどう? IカップならGカップは超えてるよね」
「わ、私には無理ですよ。乳華解放なんて一部の天才しか……」
「リアナの魔力量なら、習得できる可能性がある」
ミルカが静かに、しかしはっきりと言った。
「教えよう。これからの道中、リアナの力が必要になる場面が来る。その前に習得してもらわなければならない」
「ミ、ミルカ様がマンツーマンで私に……! 死ぬ気で覚えます!」
リアナは両手を胸の前で握りしめ、目を輝かせた。ミルカはその反応を一瞥して、短く「様は禁止だ」と言った。
「す、すみません。ミルカさん!」
俺は二人のやり取りを眺めながら、自分のことを考えた。
乳華解放は使えない。魔力はほぼない。戦闘力も皆無。じゃあ俺にできることはあるのか。
せめて超初級魔法くらいは習得しておきたい。指先から小さな炎を出すとか、風を起こすとか。異世界に来た以上、何か一つくらいは魔法を使えるようになりたかった。今度ミルカに聞いてみよう。
「ところで、勧誘の方はどうだった?」
俺はミルカに聞いた。
「全員断られた。BDMの凶暴化が噂されている今、徒歩で王都を目指すなど無謀だと言われた。この三人で行くしかないだろう」
「そっか……」
「ただ、一つ面白い話を聞いた。この街の隣の村に、伝説の剣があるらしい」
「伝説の剣?」
「詳しいことは分からないが、少し興味がある。王都へ向かう道中にあるから、ついでに寄ってみたい」
「なんか急に王道っぽくなってきたな」
「文句があるなら別にいいが」
「あるわけない。行こう」
「リアナ、準備はいいか」
「はい、いつでも!」
「よし。では出発だ」
三人で冒険者ギルドを出ると、昼の陽光が石畳に降り注いでいた。
AAAAカップの無乳ランク冒険者、元最強の乳華十傑、魔法学校トップのお嬢様。
どう考えても歪なパーティだが、俺には今これしかない。
王都グラン・バストリアへの旅が、今ここから始まる。




