第15話 乳思う、故に我在り
光が爆ぜた。
俺は腕で目を覆い、衝撃波が体を揺らすのに耐えた。爆音と熱風が通り過ぎ、それから静寂が戻った。
腕を下ろして前を見ると、ルビーフォースの獄炎が消えていた。
フィナが焦げた倒木のそばに倒れていた。
「フィナ!」
駆け寄ると、呼吸はある。眠っているようだった。
「生きている。激しい魔力消費で昏倒しているだけだ」
ミルカが片膝をついてフィナの状態を確かめながら言った。
「フィナがあの獄炎を跳ね返したのか……」
「不完全だったが、それでも大したものだ」
「ルビーフォースは、やったのか?」
「いや……」
「ふははははは!」
ミルカが前に視線を向けたとき、ルビーフォースが笑っていた。ローブは焼け焦げてボロボロで、体から細い煙が立ちのぼっている。それでも立っていた。そしてその立ち姿に、まだ戦意があった。
「まさか私の獄炎を跳ね返すとはな。危うく自分の炎で焼け死ぬところだったぞ!」
今しかない。ルビーフォースがフィナの魔法で大ダメージを受けている今がチャンスだ。
俺は神乳剣を握って走り出した。
「ミリ!」
ミルカが呼んだが、俺は止まらなかった。
ルビーフォースは明らかにフラフラしている。しかし、こちらが近づくと口元に笑みを作った。
「最後に名前を聞いておこうか、BDMよ」
「俺はミリ。BDMじゃない」
「ふはは、いいだろう。ならば私も名乗る価値がある相手だ。私は乳華十傑、獄炎のルビーフォース。他の仲間が魔王を打ち倒すまで、私は倒れるわけにはいかないのだ」
ルビーフォースが杖を胸の前に構えた。
風が止んだ。
空気が凝縮されるような感覚があった。
「ミリ!! 今すぐそこを離れろ!!!」
ミルカの声が聞こえた。しかし、もう遅かった。
まるで何かが集まっていくように、ルビーフォースの周りの空気が歪んでいく。
その技はかつての乳華十傑、黎明の乳華が編み出したとされる究極の奥義。胸に秘めた全ての魔力を極限まで解放させ、絶大な力を得る最強の必殺技。
【乳華解放 終炎の紅玉不死鳥】
ルビーフォースの全身から紅い炎が噴き出した。それが形を成し、巨大な火の鳥になった。今までの炎とは次元が違う。熱が波となって押し寄せ、俺の体が内側から焼けるような感覚があった。
神乳剣を構えたが、火の鳥が飲み込んでくる。
視界が紅に染まった。
熱い。握っていられないほど剣が熱くなっている。体が溶けていく感覚がした。もうだめかもしれない。
そのとき、声が聞こえた。
「お主の乳に対する思いは、その程度か?」
「……誰だ」
「お主はここで終わって良いのか?」
「……パイシア、お前か」
「この世界にはまだまだ良き乳がある。お主の見るべき乳が、知るべき乳が、ある。それなのにお主はもう満足したのか?」
満足したのか、だと?
していない。全然していない。
おっぱいの探求に終わりはない。それは俺が昔から知っていることだ。ルビーフォースのLカップを一瞬見ただけで満足か? 違う。ミルカの優しさに泣いてそれで満足か? 違う。フィナの覚悟を見届けてそれで終わりか? 違う。
俺はもっとこの世界を生きたい。俺はもっともっとこの世界で生きたいんだぁぁぁぁぁ!!!!!
【乳思う、故に我在り】
俺は剣を離しかけていた手を、もう一度強く握った。
柄を握り、小刻みに震わせる。例の技だ。シュッシュッシュッ。
神乳剣が光り始めた。光は広がり、紅い炎を押し返していった。
【無限神之振動!!!】
光と炎がぶつかり合った。俺は歯を食いしばって剣を握り続けた。手が痺れる。腕が燃えるように熱い。それでも離さなかった。
火の鳥が俺に向かって突進してきた。
俺は剣を振り上げた。
【神乳斬撃!!!】
光が炸裂した。火の鳥が真っ二つになり、炎が霧散した。
焼け野原に静寂が戻った。
「バカな……私の究極の炎が」
ルビーフォースがよろめいた。
俺は剣を下ろして、彼女と向き合った。
「……あの、おっぱい見えてますよ」
魔法の衝撃でブラがずれていた。ルビーフォースが無言で直した。
「聞いたことがある。今の魔法で分かった。この世界には全ての魔法を無効化する伝説の剣、神乳剣があると。お前は、選ばれた者というわけか」
「選ばれた者? それはちょっと分からないけど」
「……一つ聞いて良いか」
ルビーフォースが目を細めた。疲弊した中に、何か別の色があった。
「お前は胸が好きなのか?」
「え、どうして?」
「お前戦いのさなかでも私の胸を常に見ているからだ」
「まあ、好きですけど……」
「この胸のどういうところが好きなんだ?」
ルビーフォースは自分の胸を揺らしながら言う。
元の世界ではまずお目にかかれないような揺れる胸に、俺は心から感動した。
俺はここである真理に辿り着いた。
【乳揺れとは宇宙のリズムである】
乳揺れは、物理法則に従った無駄のない洗練された動きをしている。それはまさに宇宙の超自然的な動きに等しい。だからこそ美しく、見るだけで幸せな気持ちになれるのだ。
「その揺れているところとかですかね。胸が揺れているのってまさに宇宙との共鳴だと思うんです」
「意味が分からない……まるでリンシェンみたいなことを言うやつだ」
「リンシェン?」
そのとき、上空から無数の火の玉が降ってきた。同時に、消えたはずの火の鳥が天から急降下してきた。
「ふははははは! 私のルビーフェニックスは対象を燃やし尽くすまで何度でも蘇る! 今の会話は時間稼ぎだ!」
ルビーフォースが叫んだ。
まずい。今の俺には止める手段がない。
「すまない、この隙を逃す私ではない」
ルビーフォースの背後にミルカが立っていた。
短刀が一閃した。
「ミルカか……どうして、私は……」
ルビーフォースの体から力が抜けていった。
「魔王は? 魔王は倒せたのか?」
「ああ。みんなのおかげだ。今度また現れても、必ず倒す」
「そうか……。ありがとう、ミルカ……」
ルビーフォースの体が光の粒になって消えていった。ルビーフェニックスの炎も、静かに消えた。
焼け野原が、また静かになった。
「ミルカ、ルビーフォースは……」
「亡霊だ。敵の魔法で縛られ、戦わされていたのだろう。今は解放されたはずだ」
「……そっか」
俺は拳を握った。素晴らしいおっぱいが消えてしまった。そして乳華十傑だった人間が、敵に操られて戦わされ続けていた。魔王の仕業か……。
「もしも魔王が本当に復活しているなら、どうなるの?」
「また多く者たちが傷つくことになるだろう」
「それってつまり」
「特に胸の大きな者は間違いなく狙われるだろう」
「この世界から良いおっぱいが消えるのか?」
「そういうことだ」
「俺は、そんなこと絶対許さない」
「私も同じだ」
ミルカは静かに言った。
◆ ◆ ◆
みんなを安全な場所に運び終えて、俺が一人になったとき、声がした。
「ほっほっほ、助かったのう」
パイシアが立っていた。相変わらずAAAAカップ以下の、小さな胸をした自称女神だ。
俺は殴りかかった。拳はすり抜けた。
「幻じゃ。お主以外には見えておらぬ」
「さっきの声はお前か。なぜ助けた」
「お主の乳に対する思いが面白くてな」
「面白いで済む話じゃない。俺を元に戻せ」
「では一つ聞こう。今のお主の胸をどう思う?」
「AAAAカップだろ。おっぱいとは言えない」
「違う。この胸こそがわしの考える究極の乳じゃ」
「は?」
「平らな乳にこそ無限の可能性がある。ゼロであり、無限。それが神乳じゃ」
「意味が分からない。爆乳が至高に決まってるだろ」
「ほっほっほ、ではわしに教えてくれ。お主の考える神乳を」
「いきなり言われても……」
「分かるときが来る。その日まで探求するが良い」
「クソ貧乳女神、とにかく俺を元に戻せ」
「ほっほっほ、直接会いたいなら、神乳大陸の頂まで来るが良い」
「神乳大陸? 俺は魔法も使えないし、ミルカでさえ制覇できなかっただろ。俺は魔力も使えないのに無理だろ」
「お主は自分が弱いと思っておるのか?」
「世界最弱の自信しかないけど?」
「お主のAAAAカップは、わしが苦悩の末に辿り着いた究極の乳じゃ。その可能性はまだお主自身が気づいておらぬだけじゃ」
「なんだよそれ。俺を元に戻す気はないのかよ?」
「神乳大陸の頂まで来れば、話を聞いてやろう。ほっほっほ」
パイシアが薄れていった。
「待て、まだ話は終わってないぞ!」
手を伸ばしたが、何も掴めなかった。
俺は一人で焼け野原に立っていた。
神乳大陸。ミルカでさえ敗れた場所。魔法も使えない俺が行けるような場所じゃない。しかしパイシアはそこにいると言った。男に戻る答えが、そこにあるのか。
俺はみんなのいる場所へ向かって歩き出した。
フィナはまだ眠っている。リアナも、ルミナも、回復にはまだ時間がかかる。ミルカは一人で全員の面倒を見ているだろう。
俺が行かなければならない。
王都まで、まだ遠い。神乳大陸、人型BDM、魔王も動いているかもしれない。
問題だらけだ。
でも、まあ、それはそれとして。
ルビーフォースのLカップ、本当に素晴らしかった。
胸囲形態上書の際、ブラはどこへ行くのか。魔法で固定、または伸縮するブラを使用していると思われる。詳細は謎のままである。




