第14話 獄炎のルビーフォース②
【炎属性J級魔法 滅却炎弾】
バランスボールほどの火の玉が、無数に現れた。それが俺たちに向かって一斉に飛んでくる。
「J級魔法をいきなり……!」
ミルカが短刀を構えながら後退した。
「ここは私がやります!」
リアナが前に出て杖を掲げた。
【水属性I級魔法 波浪防壁】
波の壁が何重にも展開され、飛んでくる火の玉を次々と相殺していった。ぶつかるたびに蒸気と爆音が上がり、熱風が俺たちの髪を揺らした。
「属性有利とはいえ、J級をI級で相殺するとは……」
ミルカが低く言った。
炎弾が途切れた。蒸気が晴れていく。ルビーフォースはまだ悠然と立っていた。
その一方で、リアナが膝から崩れ落ちた。
「申し訳ございません……I級魔法は初めて使ったので、魔力を一度に使いすぎました。もう体が……」
「よく持ちこたえた」
ミルカはリアナを横に寝かせ、その額に手を置いた。リアナはそのまま静かに目を閉じた。
「ふはは、私の魔法を相殺するとは大したものだ。だが……」
ルビーフォースが杖を胸の前に構えた。
【胸囲形態上書】
彼女の胸が、ゆっくりと縮んでいった。L、K、J……どんどん小さくなっていく。最終的にBカップほどになって止まった。
「どういうことだ?」
俺はミルカに小声で聞いた。
「胸の魔力を意図的に制限し、その分を身体強化や武器強化に集中させる戦術だ。接近戦に移るつもりだろう。胸を小さくすれば激しく動いても支障がない。ただし、新たに大魔法は使えなくなる」
「前に言ってた魔力制限か」
ルビーフォースの杖が、音もなく燃え始めた。
【K級魔法 業火の大杖】
「この杖に触れれば灰すら残らん! 行くぞ!」
ルビーフォースが地を蹴った。速い。目で追えないほどではないが、常人の動きではなかった。
「ミリ、フィナ、リアナとルミナを連れて逃げろ。あれは私が引きつける」
ミルカは短刀を抜きながら前に出た。
ミルカとルビーフォースの打ち合いが始まった。燃え盛る杖の一撃をミルカが紙一重でかわし、カウンターを入れるが、ルビーフォースはほとんど動じない。
このままでは持たない。
「フィナ、リアナとルミナを頼む」
「おい、どこ行くんだよ先輩」
「俺も行く」
「魔法も使えないのに何する気だよ」
「分からない。でも行く」
俺は神乳剣を握って走り出した。
合理的な判断ではない。策があるわけでもない。ただ、ミルカを一人にしたくなかった。それだけだった。
もう一つ言えば、俺にはルビーフォースに対してどうしても許せないことが一つあった。
「ミリ!? バカ、逃げろ!」
「なんだ、お前は」
ルビーフォースがミルカから向きを変えた。燃える杖を振り上げながら、まっすぐ俺に向かってくる。
「遅い。まずはお前から灰にしてやる!」
俺は神乳剣を横に構えた。防ぐことしか考えていなかった。
バチーーーーン。
衝撃が走り、俺とルビーフォースが同時にふっ飛んだ。俺は何回転かして地面を転がった。頭が痛い。しかし、燃えていない。
「何が起きた……なぜ燃えない? その剣は何だ?」
ルビーフォースが体勢を立て直しながら言った。驚きが声に滲んでいた。
俺も起き上がって、また向かっていった。
バチーーーーン。
また二人同時にはじき飛ばされた。
「魔力の反発現象……その剣、ただの剣ではないな」
ルビーフォースが膝をついて言った。その目に、わずかに困惑の色があった。
三度目。
ルビーフォースが赤くなった目で突進してくる。俺も剣を振り上げながら走る。
「おっぱい、元に戻せやぁぁぁ!!!」
俺は叫んだ。
胸囲形態上書。あの技が俺には許せなかった。Lカップが目の前にあったのに、わざわざBカップまで縮めた。大きなおっぱいが動くたびに揺れる、その軌跡を見ることが俺の正当な権利だと俺は思っている。それを奪われた。断じて許せない。
バチーーーーン。
三度目も結果は同じだった。俺は後頭部を地面に打ちつけ、ルビーフォースも数メートル吹き飛んだ。
「……ふははははは」
ルビーフォースが笑い始めた。
「分かった、分かったぞ。私が間違っていた」
【胸囲形態上書】
ルビーフォースの胸が、また膨らみ始めた。B、C、F、I、K……そしてLカップまで戻っていった。
素晴らしかった。俺は後頭部の痛みを忘れて、自然と拍手をしていた。
「貴様、敵に賛辞を送るとは舐めた真似を……!」
「いや、本当によかった」
「ミリ、逃げるぞ!」
ミルカに背中を叩かれた。俺は走り出した。
フィナがリアナとルミナを魔法で浮かせて先に走っていた。追いついて、五人で森の入口に向かう。しかしその瞬間、目の前に炎の壁が立ちはだかった。
【炎属性K級魔法 牢獄炎陣】
前方を炎の壁が塞ぎ、後方からルビーフォースが迫ってくる。完全に挟まれた。
「これで終わらせる!」
【炎属性L級魔法 獄炎】
ルビーフォースの頭上に、巨大な火の玉が生まれた。今までの炎とは色が違う。赤黒く、渦を巻いている。熱が皮膚に刺さるように伝わってくる。
「あれが彼女の代名詞、獄炎だ」
ミルカが低く言った。その声に、俺が初めて聞く種類の緊張が混じっていた。
「かつてこの魔法で数々のBDMを灰にした 炎属性L級魔法……今の私には止められない」
俺は神乳剣を握り直した。何か策があるわけではなかった。ただ、ここで終わりたくなかった。
そのとき、フィナが前に出た。
「フィナ!」
「うるせぇ、黙ってろ」
フィナはリアナとルミナを静かに地面に下ろした。そして、ルビーフォースのほうへ向き直った。
「私の魔法じゃ、あいつには通用しない。そう言った。本当のことだ」
「じゃあなぜ……」
「でも私には、祖母ちゃんから教えてもらった技が一つある」
フィナの声が変わった。軽さが消えて、静かな何かが滲んだ。
「祖母ちゃんは元乳華十傑だった。村の英雄だ。その祖母ちゃんが死ぬ前に私に言ったことがある。この技は本当に大切なものを守るときだけ使えって」
「フィナ」
「この技は不完全だ。それに使えば一時間は動けなくなる。でも」
フィナは俺たちを振り返った。
「私はお前らに二回も助けてもらった。だからこれを使う。後は頼んだ」
フィナは前を向いた。胸に手を当て、目を閉じた。
深く、息を吸う。
フィナの体が、静かに発光し始めた。白い光が足元から広がり、周囲の空気が変わった。
「この魔力の流れ……まさか」
ミルカが息を呑んだ。
【乳華解放】
フィナの呟きとともに、光が一気に膨らんだ。
俺は目を細めながら、その光の中心に立つフィナを見た。
ヤンキー小娘と思っていた。でも今この瞬間のフィナは、俺が今まで見てきた誰よりも、強く見えた。




