二つ目の街で早速トラブルなんだが?
王都ナルテを車で出た俺達一行は、王女を連れ去ったログダウの連中が向かったとされる、ナルテから西にある森へと向かっている。
「お腹空いた~! どっか停めろよ! カス勇者!」
ドガッ!
俺の真後ろに座り、シートを蹴るリーファ。
ナルテを出てから、この世界の時間で2時間は経つけど、俺もそろそろお花を摘みたい気分。
「ゼフィランちゃん、どっか休める所無い?」
「気安く名前を呼ばないでください」
「えぇ·······」
「もう少し進めば、セカロと言う街が見えます。そこで一端、休みましょう」
「オラ! あくしろ」
ドガッ!
リーファに蹴られながら、俺は車を街のパーキングエリアに停めるのであった。
────
「ご飯! ご飯!」
リーファに急かされながら、俺達が向かったのはカストルーべと呼ばれる大衆レストラン。
「何故、私がこんな庶民の店に······」
「何か文句あんの?」
「······」
うーん。リーファとゼフィランはかなり仲が悪いな。
車でも助手席にゼフィラン、後部座席の斜め後ろにリーファが座って会話は一切無し。
と言うより、俺が話題を振ってタイガーハルトがレスポンス、リーファが不満があると俺の席を後ろから文句を垂れながら蹴る、ゼフィランは真面目な話しか反応してくれない······かなり気まずい車内だったなぁ。
「まぁまぁ、なんだわ。リーファは怒ると可愛い顔が台無しだよん」
「死ね」
ドガッ!
ゴミを見る目で、リーファが俺の足を蹴る。
「痛いんだがぁ!?」
「オデ······注文······しといた······店入ろう······」
「流石、出来る男は違うんだわぁ!」
俺達が茶番を繰り広げてた頃に、姿を消していたタイガーハルトは既にレストランで注文を終えていた。
イケメンなのに寡黙なオデ系キャラなのも味なんよね。
カストルーベに入った俺達は、席に座り料理が来るのを待つ。
すると、店中がザワザワし始めた。
バァン!
店の扉が強引に蹴られ、高価なスーツを着た性格の悪そうな男と、これまた高価なドレスを着た頭の悪そうな女が、チンピラまがいの男達を大勢引き連れて店に雪崩れ込む。
「いらっしゃいませ! セレノール様! メメーシィ様! 本日はどう言った御用件で?」
「この店は、客が来ても酒の一つも出ないのか?」
「いや、酒は出んやろ。常識的に考えて」
言っちゃった······だって、酒は出んでしょ······普通に。
「あの男は······」
「面白そうじゃん」
「勇者······オデも手伝うか?」
完全に呆れてるゼフィラン、暴れる気まんまんのリーファとタイガーハルト。
ゴメン······俺っち別にそう言うつもりで突っかかった訳じゃないんだ······。
「何だぁ!? コイツらはぁ!? 俺様は三大公爵家である、アランソ家の出だぞぉ!」
「あんな汚いなりの者達を入れるなんて······この店の程度が知れますわね」
「申し訳ございません! ホラ! 帰って貰って!」
オーナーに命じられたウェイターに帰れと諭された俺達。
「何で? 帰るのはそっちじゃないの?」
「平民に発言を許可しておりません、早く視界から消えなさい」
うわー、出たよ。身分マウントの発言封じ。
「······だから、このような店は嫌だと言ったのです」
「ごめんなさい。俺が余計な事を言ったばかりに······」
「本当に。困ります」
「勇者······行かなかったら······オデが行ってた······変わらない」
「これだから庶民は嫌なのです······」
「帰らないけど?」
あっ。じゃじゃ馬のリーファちゃんがいました~。
これは、当分かかりそうだね。
「おい······! 俺様が優しい内に消えろ······死にたくなきゃな······」
「お前が死ねよ」
「······!」
あらあら。リーファちゃんが魔法銃でセレノールを氷漬けにしちゃったよ。
「······フン! 」
ガシャーン!
タイガーハルトの鉄拳で、セレノール氷像が粉砕! 南無。
「イヤアアアア! セレノール様ぁ! お前達! 早く下郎共を殺しなさい! 」
バカ女の命を受けて、チンピラ共が臨戦態勢に入る。
おそらく、ガンガン突撃の脳筋タイプじゃない。前に居た奴らが剣を抜き、後ろの奴らがバカ女を囲い詠唱を始めている。
俺は愛剣をメジャーリーガーばりの投球フォームで投げる。
「どこ狙ってやがる! 間抜けめ! 」
前衛の奴らからは外れる······まぁ、そもそも狙ってないからね。
ザシュ!
「グエェ!」
「グハァ!」
後衛の魔法詠唱組、端の奴に直撃したかに見えた俺の愛剣は変化球のカーブの如くうねり、横に並んでいた連中の命を奪う。
「ヒィイイ! 」
大量の返り血を浴びて、バカ女はガタガタ震える。
前衛の連中も、リーファの魔法銃で皆殺しにされたようだ。
氷の魔法銃で氷漬けにされて、タイガーハルトに砕かれるか、炎の魔法銃で黒焦げにされるか。
ゼフィランは客達を魔法障壁で守ってくれてたようだ。
「さて、あとはコイツだけだね」
「ぶ······無礼者! 私はセカロ領主令嬢よ! 平民風情がよくも! お前達だけじゃなく、この店の全員を処刑して差し上げますわ!」
リーファが一人残されたメメーシィに手を掛けようとするが、メメーシィは不様にも吠える。
「もう、止めてくれ! 旅のアンタらは殺してサヨナラだろうが、ここで暮らさなきゃいけない俺達はそうもいかないんだよ!」
オーナーの悲痛な叫びが、店内にこだまする。
確かに、RPGだと悪党を倒してチャプタークリアだけど、現実はそうも行かない。
貴族に手を出した俺達の後始末はこの人達が背負わなきゃならない。
娘をこんな馬鹿女に育てたような領主なら、この人達が責任を取らされて、殺されるかもしれない。
う~ん。釈然としないなぁ~。
「王都に次ぐ第二の都市セカロの領主令嬢に危害を加え、公爵家の子息を殺害した罪は······グエッ!」
「口臭ぇんだよ、クソ女」
リーファの理不尽な蹴りで、メメーシィは悶絶する。
俺ちゃんは、出会ってから挨拶代わりに食らってるけど、常人が食らえば骨折れてもおかしくない。
「大将。この店は、アンタの城だろ? 城主がそんなビクビクしてどうするよ」
「はぁ!? 」
「勿論、領主にもケジメ付けに行くけど、最初から守って貰う事を前提にしてる奴の為に命を賭けるのは真っ平御免なんでな······ホレ」
俺は愛剣をオーナーに差し出す。
「アンタにも、覚悟を示して貰うよ······ん」
「イヤイヤイヤ! アンタが勝手に突っかかったのが原因じゃないかぁ!」
あれ? 確か、そうだったような? ええい! 都合の悪い記憶はデリートじゃい!
「話を逸らすな、殺るのか? その反対か······どうなんだ?」
「······ちくしょー! やってやるよ!」
オーナーが男を見せて、俺から剣を奪い取る。
「あっ······重い······!」
ドシャ!
あっ······! そう言えば、一般人が気軽に持てる重さじゃ無かったわ。
「テヘヘ······」
「馬鹿勇者は放っといて一旦、ナルテに戻った方が良いんじゃない?」
「そうですね。このままでは、私達が犯罪者です」
こうして、俺達の冒険の第一歩は、二番目の街でトラブルが起こり、最初の街に戻る珍しい展開となった。
▼▼▼▼
「うす汚い、平民共がぁ! 私を下ろせぇ!」
車に乗り、ナルテに出戻る俺達は、後部座席でタイガーハルトに拘束されてるメメーシィの癇癪声を聞かされていた。
真横で聞かされ、イライラしてるリーファに何回シートを蹴られた事か······
「そう言えば、リーファとゼフィランは魔法学園時代にコイツと会ってたりするの?」
多分、歳も同じくらいだろうと思い、俺は二人にメメーシィの学園時代の事を聞いてみた。
「知るかよ、貴族なんか興味無いし」
「······その者は、最初の数ヶ月だけ学園に在籍しておりました。成績不振と素行不良で退学になりましたが」
「えっ? 留年じゃなくて?」
「平民の学校では、そういった救済措置はあるのでしょうが、魔法学園は完全な実力主義。力及ばぬ者は切り捨てられます」
「······学園を卒業しないと、貴族としては認められない······婚約者のセレノールの方も退学してる······厳密には貴族じゃない······」
「平民風情が知った風な口を叩くなぁ! 貴様のような汚い平民女がぁ!」
なーるほどね。領主をボコりに行こうとしてゼフィランに止められたのは、貴族を名乗ってるだけのチンピラ共を殺しただけだから罪にはならないって事だからか。
「お前は、バリバリの殺人犯だけどな?」
「心を読まれた······だと······?」
「ハァ······父に頼んで、揉み消して貰いますから······以後、慎んで下さい」
「あざーっす!」
「平民風情がぁ! 貴族を殺しておいて不敬な! お前の親なんかに、そんな権利あるものかぁ!」
コイツ、平民風情しかボキャブラリー無いのかね?
それに、学園出てねーんだから厳密には貴族じゃねーっつーの。
「ダイロス大臣兼名誉終身公爵閣下、知らない?」
「名誉終身は余計です······」
「知るかぁ! 私は貴族令嬢よ! 平民風情がぁ、一族郎党根絶やしにしてやる!」
「ダメだコリャ、領主も金だけ渡してマトモな教育もせずに放置してたみたいだね。流石に地方の子供でも、大臣の名前は知ってるよ」
「現代貴族教育の敗北······嘆かわしい······」
最早、生まれた家しかアイデンティティーの無いメメーシィを哀れに思うしかない俺達。
車を走らせていると、ロードサイドの左手にある荒野にハイエナに似た魔物の群れが複数匹だが確認できた。
「あれは、何?」
「あれは、セィリュですね。畑の作物を食い荒らしたり、家畜を食べたりする魔物です」
「······近くに、大きな牧場の集落ある······」
「悪さする前に、退治しますか!」
俺は車を停車し、愛剣を携えて降りるが、リーファが不服そうな顔だ。
「可哀想じゃんか! アイツらだって生きてるのにさ!」
何か、悪いものでも食べたか? と思うような、リーファの慈しみに溢れたお気持ち表明。
タイガーハルトは戸惑い、ゼフィランは『またか』と溜め息を吐く。
「でも、間違いなく近くの牧場襲うベ? アイツら? 」
「うん。だからさ、対価は払わなきゃね」
ニタリと悪い笑みを浮かべながら、メメーシィを見据えるリーファ。
「やめろ·····! お願い······助けて······!」
死にたくないメメーシィ、気分屋で拒否すればセィリュ含めて一帯を焦土にしそうなリーファ、早くナルテに戻りたいゼフィランとタイガーハルト。
俺は······
「あのー、セィリュさん?」
「バウ!?」
「グルルルルル!」
「これ食べて良いんで、帰って貰えます?」
「キャウウン!」
「嫌ああああ! 助けてえぇぇ!」
セィリュに食われるメメーシィを背に、俺は車へと戻った。
大爆笑してるリーファと、ドン引きのゼフィラン、労いの視線のタイガーハルト。
これが、食物連鎖なのだ。
貴族の義務である、魔法を怠けて学ばなかった事が、自分の命を奪った。それだけの話なのだ。
ナルテへと再びエンジンを鳴らす俺。
日が暮れ始め、セィリュ達はメメーシィ『だった』物を引きずりながら、集落から離れていく。
異世界とは弱肉強食。現代日本で誰もが忘れている、この世界でのルールを噛み締めた俺っちであった。
登場人物紹介
メメーシィ····貴族令嬢。口癖は平民風情。優秀な妹がおり、長女だから甘やかされて育つ。
セレノール····アランソ公爵家の馬鹿息子。アランソ公からは見放されている。チンピラを私兵にしてる。
その他
セカロ市····日本で言う埼玉と宇都宮を足して割った街。市長兼領主は優秀で民思いだが、長女メメーシィのワガママだけは放置していた。
三大公爵····そのまんま。政治のダイロス、軍事のダラー、司法のアランソ。
アランソ公爵家····長男のセレノールはとうに見限りセカロの馬鹿令嬢に婿入りさせる。
カストルーベ····大衆レストランとは言うものの、現代日本だとドレスコードが必要なクラスの店。本当の大衆は下町の安い店に行ってる。
セイリュ····ハイエナモチーフの魔物。獲物は殺してから埋めて保存する。
異世界厳しすぎぃ!




