不透明な君
君と僕の目の前に
透明の壁を立てた
もうこれ以上
近づいてはいけないと思った
もうこれ以上
君に影響を与えてはいけないと思った
透明の壁は繊細で
すぐに通り抜けようとする
この言葉も行動も
すぐに君に渡そうとする
透明なら
壁なんて意味がないじゃないか
透明なら
今すぐにでも君に触れられるじゃないか
それでも
僕にはこれを
不透明にする勇気がないんだ
君と離れ離れになるのは
本当は避けたいんだよ
君のことを見ていたいんだよ
透明の壁に触れた
向こうに君はいなかった
壁は冷たかったけれど
冬の空気ほどではなかった
おはよう!
僕は壁の向こうに叫んだ
返事はなかった
もう一度ゆっくりと呟いた
おはよう。
僕は透明の壁を壊した
向こうに君がいないのなら
この壁は開けっ放しの窓と同じだ
空気は入ってくるのに
なんとなく通るのは忍びない
そんな窓となにひとつ変わらない
壁がなくなって
風はまっすぐ僕を撫でた
君の匂いがそこにある気がして
息を止めたけれど
肺が空っぽになっただけだった
地面を力強く踏みつけて足音を立てた
床はきしんだ
ただそれだけだった
この音はもう
君には届かないと知っていた
触れられなかったんじゃない
君が大切だったから
壊したくなんかなかったから
手を伸ばさなかった
透明の壁があっても
君の姿ははっきり見えていた
ただ触れないだけだった
それなのに
透明の壁を壊した今は
君を見つけられない
触れることすらできない
何処へ行ったんだろう
何処へ行ってしまったんだろう
君はもういない
壁の向こう側にも
この世界の何処かにも
透明の壁は
本当に透明になってしまった
僕はまた手を伸ばす
何も掴めないと知っていた
壁はもう何処にもないのに
君との距離は
未だ不透明だった
ご覧いただきありがとうございました。
透明の壁なんて意味がなかった。
誰かに届きますように。




