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童話なら竹取物語が好きですが、別にあれ竹取の翁が主人公ではないですよね? タイトル詐欺では?

俺の家は大田区のマンション、5階にある。だから玄関を開けると通路に出るはずなのだが、目の前には森があった。地面をみれば土だし、玄関を振り返るとログハウスがあった。


「ここが私の家だと言った意味がわかったか?」


ウメがそういうのを無視して、また玄関に戻ると、そこには元の1Kがあった。


「まったく、なにが、なにが起こっているんですか? これじゃあまるで、俺の部屋が、移動してきたみたいじゃあないですか」


「部屋が移動ね、どうみても木製のガワに、RC造りのマンションが入っているわけがないだろう」


じゃあ、と俺が反論しようとしたところにウメが割り込む。


「あまりパニックを起こさないでくれ、これでも配慮したつもりなんだ」


ウメはそういうと手を一振した。すると、天井のシミひとつまであのマンションと同じだった部屋は、ログハウスらしい姿になった。


「これは……」


「幻影魔法だ。これから君に苦労をかけるから、せめて最初の目覚めだけでも穏やかにしてやりたいと思ってな」


魔法というあり得べからざる言葉が、逆に俺の脳を白けさせた。実際、この部屋にはプロジェクターなんてないし、俺がどの姿勢になっても破綻はなかった。幻影魔法、それは事実なのだろう。


「魔法とかどうでも良いので、元に戻してくれませんか? 大学の単位もあるので」


「そうだな、君はそんなヤツなのだろう。魔法に憧れない。ここでも、向こうでも珍しい考え方だ」


「そりゃあ個人が扱えるような、しょぼいエネルギーが中心の世界なんて嫌じゃないですか」


「大樹、君の価値観はよくよく理解した上で君をここに連れてきた。予想通りですっかり安心したよ」


「開き直りか?」


ハハッ、とウメが笑う。


「いいや? つまり、君はもう戻れないということだ」


「この世界に拉致できたのなら、戻ることだってできるだろ」


「なるほど、たしかに一方通行ではない。しかし、君はもう通行料を持っていない。それは不可逆なものだから、君はもうここから逃れられない」


ここまで混乱して、纏まらなかった感情が怒りに収束していくのを感じる。膝の震えは恐怖だろうか。指先も落ち着かない。


「つまり、つまり、お前は、お前の都合で、私をこんなしょーもない世界に連れてきたというのか? 戻す手立てもないのに?」


「しょーもない、はないだろ……ここだって存外良いところだ。しかし、事実はそれを知る順番が大事か、少しミスったかな」


話にならない。なるはずがないのだ。俺は戻りたいが、ウメにその手段がない。つまり、怒りを彼女にぶつけても無駄でしかない。


「すまないが、今後の方針を考えるから眠っててくれ」


そう言って、ウメは俺の顔に手を伸ばす。咄嗟に手で弾くと、電流が走った。思わず呻く。


これは、と呟いてウメは1歩下がった。


「やはり大樹、君しかいない。この世界を救ってくれ」


俺はそう言って頭を下げるウメを冷たい目で見下ろした。


「誘拐しておいて世界を救えだと? もし俺に世界を救うような力があるなら、むしろ壊してやりたいね! そうすれば元の世界に戻れるかもしれない」


「すまないが、もし君が協力してくれないのなら、君を封印せざる得ない。実際、君は世界を壊す選択もできるのだ。それで、元の世界には戻れるわけじゃあないが」


頭を下げたままウメは言った。


「つまり、誘拐して脅して、俺は奴隷か? 本当に野蛮な世界だな」


「必要なことなのだ」


「それはアンタの都合だろ。俺には関係ないね、ここは出てくさ。アンタは元の世界に戻る方法知らねぇみたいだからな」


「関係ないなんてことはない」


そう言ったウメを背にして俺はここを去ることにした。アテはないが、とにかく戻らねばならない。元の世界に戻っても、浦島太郎のようになるのはごめんだ。


結局、ウメは追ってこなかった。

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