コロナはまるで風邪症状のフルコースでした。
人の気配がして目を覚ますと、それはよく知っている天井だった。染みの形まで同じなので、間違えなく大田区にある築35年1Kの一室だ。つまり、人の気配なんてあるはずがない。
寝返りをうって、そちらをみると女の子がパスタを食べていた。誰だろうと思ったが、その無防備な様子に咎める気にはなれなかった。というより、そんな気力もなかった。虚脱感とでも言うのか、体調がすこぶる悪かった。
「目が覚めたか」
そういう彼女の頬にはクリームが着いていた。
えっと、と声に出して初めて喉がカラカラなことに気づく。それをみて、彼女が水を寄越した。
「あの、ここは僕がひとりで暮らしている家だと思うのだけど。君は誰だい?」
それをひと飲みしてから聞くと、彼女は顎に手を当てる。
「ちょっと君は記憶が混濁としているようだ、まぁこういうことは良くある」
そういうと、彼女は私の名前だったり生い立ちだったり、最近の出来事なんかを聞いてきたりした。
「それで、今日は西暦の何年何月何日だと思う?」
2030年8月15日だと答えると彼女は怪訝な顔をした。
「最後に覚えていることは?」
「えぇっと、普通に夜に酒を飲んで寝た気がするけど。マッコリがマイブームなんだ」
詰問の雰囲気に耐えられず、アイスブレークのつもりで少し情報を付け加える。
「それはおかしい。大樹、君が8月15日の夜に晩酌などあるはずがないのだ」
しかし、彼女はそういうとブツブツと呟き始めた。だんだんそれで満足しなくなってきたのだろう、立ち上がって頭を抱えながらウロチョロとした。
「分からないが、直ちに影響はない……はずだ。うん、そう、そうに違いない。そうでなければならない」
「それで、結局あなたは誰で、どうして僕の家にそんなに溶け込んでいるんですか?」
彼女の思考が一区切り着いたようだったので、話を戻す。
「私は一之瀬ウメ。それで、私が君の家にいる理由は、そうだね、ここは君の家ではなく私の家だからだ」
そんなはずは、と言いかけた俺をウメが静止する。
「外に出よう。事実はそれが事実であることと同じくらい、それを知る順番が大切だからな」




