ペペロンチーノが好きです。安く作れるので
「黙ってないで、なんとか言ったらどうだ。君に蹴られた脚はまだ痛むのだが? ……いや、まずは踏みつける前にそのパスタを拾え。そういえば腹が減っていた」
あっ、と足もとをみるとガラスの大皿も割れていないし、パスタも飛び散ることなく皿に収まっていた。
大皿を拾い上げてローテーブルに置く。すると、彼女はそれをとりあげて自分の前に置き直して、テーブルに置いてあるカトラリーケースからフォークを取って食べ始めた。
俺は呆然として、それをみているだけだった。
「どうやって入ってきたん……ですか?」
彼女がパスタを半分ほど食べて落ち着いてきたところで、ようやく口を開くことができた。
「どうやってって、窓からだが?」
「ここは5階なんですけど」
「窓なら鍵を閉め忘れていることも期待できるってわけよ、よく考えたものだろう?」
さてと、と彼女は立ち上がる。知らぬうちにパスタは全て食べきってしまったようだ。
「まだ少し時間があるから名乗りでもしようか。一之瀬ウメだ。よろしくな」
「あの、本当に勘弁してもらえませんか」
「恥ずかしがり屋だったな。 構わんよ、私は君を知っているからね、綾瀬大樹くん」
「そうじゃなくて! 出て行って貰えますか?」
思わず大きな声を出した。しかし、ウメはむしろテレビの方を気にしているようだった。
うんざりだ。俺はウメの手を掴んだ。このまま玄関から放り出してやる。二度と窓の鍵も閉めるのを忘れてやるものか。
「積極的なのは嬉しいが、時間切れだな」
ウメはそういうと逆に俺の手を掴んだ。振り払おうとしたが、まるで厳のようだ。少しも動かせない。
ウメが私を引っ張った。あまりに強い力で急に引かれたので、うぇっと嗚咽が漏れる。
「ちょっと、ちょっと何考えているんですか」
返事がないままベランダまで連れ出される。湿気た夏の空気が体を包む。
「飛び降りるぞ」
ウメはそれだけ言って、塀の上に立った。えいっ、と彼女が腕を振り上げると俺は浮遊感に包まれた。同時に玄関のほうから大きな衝突音がして、すぐに怒鳴り声が聞こえた。
ベランダから投げ飛ばされたのに、いつまで経っても落下の衝撃はこない。人は危険な状態に陥ると、脳が「ターボモード」にはいって時間がゆっくりに感じられるという。
「もう降ろして良いか? 走るぞ」
中々衝撃が来ないなと、ぼうっと空を眺めているとウメが顔をのぞき込ませた。どういうわけか無事に着地して、しかもお姫様抱っこをされていたことに気づく。
「これは……?」
「降りる前にドアが蹴破られただろ、逃げなきゃらならん」
「そう言われても」
反論しようと口を開いたのと同時に、彼女が強く俺の手を引いて走り始めたので舌を噛んでしまった。
「もう走れないです」
住宅街の角を3つほど曲がったあたり、距離にして凡そ150mほどで俺の体力はもう限界だった。引きこもり大学生なんてそんなものだ。耳管開放症のせいで耳の調子も悪いし、少し吐きそうでもある。
貧弱だなぁ、とウメは呆れたように言ったが、そこに悪意は感じなかった。
「まぁ結局、あまり意味はなかったな。未来視か?」
正面からこちらに向かってくる男を睨みつけながらウメが言った。
「たまたまですよ、たまたま」
立ち止まると男はそう言った。
そんなはずは、とウメが小声で呻いた。
投稿の度にタイトル考えるの無理です。どうせ誰も読まないと思いますし、勘弁してください。




