停滞
羊皮紙の魔法陣はオール電化のコンロのイメージです。
ロイターの街を出て7日。ここ数日晴れていた天気が一変し、雪が降りだしていた。それに徐々に風も強くなり始めている。
「数日は天気が荒れそうです」
イリアが空を見上げて伝えてきた。大地母神教団には天候を予測する技能が伝えられていると聞く。
「イリアさんは[歩き巫女]志望ですか?」
「まさか。[歩き巫女]なんて、私の実力じゃあ、命が幾つあっても足りませんよ」
そう言ってイリアは朗らかに笑う。問うたフールは少し不思議そうだ。エルフから見ても、大地母神の啓示を受けたばかりの少女は変わり者に見えるらしい。
下手をすれば死んでしまう冬の旅路を楽しそうに、時に笑いながら歩く姿は不思議な感じがする。前世で言う陽キャだろうか。
村への道は雪に埋まり、森の木々に着けられた目印を元に歩いている。その中で、ところどころに夜営用に開けた場所があり、この場所には大きな岩が転がっていた。
「このあたりにしましょう。楓、雪壁作りを。私達はテントを張ります」
フールにサラッと大変な雪壁作りを頼まれた。ただテントを張っただけでは風の影響を強く受けてしまう。その為雪壁を作り風避けにしてテントを張るのだ。
岩を背に雪壁を前に作ってゆく。岩が擬態したトロールでないことは確認済み。少し前にトロールに危うく喰われそうになった経験がある。私が忍でなかったなら、恐らく胃袋に収まっていただろう。
☆☆☆
「湯が沸きましたよ」
テントの中からイリアが伝えてきた。ここにテントを張ってから2日。ピークは過ぎた様だが、まだ雪風が強く動けない。
魔族領の北側の山脈に棲む、毛長牛の毛で編まれたテントは保温性が高く、風を通さないから問題ないが普通のテントなら凍死間違いなしだ。
ただそれでも、定期的にテントに着いた雪落としは必要で、立場的に低い私が外に出て作業する事になる。雪落としを終えテント内に戻ると、イリアがフールが淹れてくれた雑茶を渡してくれた。
「[冬火病]が麦毒だとは知りませんでした」
雪で停滞している間、イリアはフールから[エルフ薬学]の講義を受けていた。エルフから直接学ぶ機会など普通ないから、イリアは貪欲に話を聞いている。
今も食事をしながら、話を聞いているが、本来なら食事中に話していたら怒られるだろう。大地母神は食事もまた修行と考えているからだ。それとも、薬学の修行になっているから良いのだろうか?
湯で戻した干し肉に発酵させずに焼いたビスケットの様なパン。干し葡萄を幾つかとチーズを一切れ。私は黙って口に入れる。
携帯用保存食としては上等な部類に入る。それに羊皮紙に書かれた魔法陣と魔力で湯が沸かせるのはありがたい。しかも水も魔力も水精の負担。フール様々だ。
「そう言えば楓さん。竜人語読めますよね?この魔道具使い方分かりませんか?」
フールとの話が一段落ついたのだろう。イリアが掌サイズのメダルの様な物を渡してきた。私は表情を変えない様にしながら魔道具を受け取る。
「神官様が『天気が分かると言われている魔道具です』と言って、選別に渡してくれたのですが、神殿には使い方が伝わってないのです」
聞けばフールにも使い方が分からなかったらしい。リザードマン製の特徴があり、魔術が施してあるから、魔道具なのは間違いないとのお墨付きとイリアは主張している。
「竜人語が書かれていて、中の針みたいのが左右にゆっくり動くのです」
中には小さく[ミリバール]とかかれていて数値がふってある。これは晴雨計だが気圧の概念がないのでは理解不能だろう。ヘクトパスカルでないのは作成者、恐らく転生者の年代による差だろう。
使い方の説明は簡単だが、原理の説明は簡単ではない。そもそも魔力などある世界で大気圧がどうなっているかも分からないし、転生者と隠したまま話すのは恐らく無理だ。
が、
「楓。分かっている様ですね。説明を」
「[ミリバール]の使い方分かるなら、教えて下さい!」
どうやら他の竜人が「[ミリバール]と書いてあるが意味は分からない」と伝えて以来[ミリバール]と呼ばれてきた魔道具らしい。数字がアラビア数字なのはこの世界の数字も、何故かアラビア数字に似ているので違和感はない。
「これは恐らく晴雨計です。この針が……」
余計な事は極力明言はしないと思いつつ、先ずは使い方説明を始めた。
リザードマン語には文字がありませんでした。
そこに日本人転生者、後の竜人族の祖が現れ日本語を混ぜたので、リザードマン語には日本語由来の表現が多く、また竜人語≒日本語です。




